米副大統領候補の討論会((10月7日)と「マンタラプション」

  1. 先週は気温も下がり、雨も多い東京でした。蓼科の里山でも稲の刈り入れが終わり、紅葉が始まっていることでしょう。

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  1. ところで、選挙もあと3週間ちょっとになったアメリカは、大統領とホワイトハウスのコロナ感染に揺れています。この混乱の中で、15日の2回目の大統領候補の討論会(ディベイト)は中止、他方で共和党上院が最高裁判事の承認手続きを強行するのか注目されます。

 9月29日の1回目のトランプとバイデンのディベイト90分が、非難の応酬と人格攻撃に終始して真面目な政策論議がほとんどなかったと酷評されたことは報道の通りです。

 もと職場の大先輩からは、「行儀良かった(orderly)のは、最初に司会者が質問してトランプが答えたところまで、次ぎにバイデンが答える途中でトランプが自分の主張を大声で叫び、司会者の制止も全く効果なく、後は双方エスカレートするばかり。民主主義のお手本になるべき米国の悲しい実態を見たという感じ」とメールに書いておられ、全く同感しました。

 バイデン発言へのトランプの介入は、実に71 回もあったそうで(バイデンは22回)、ディベイトのルールを無視した、小学校の子どもでもやらないマナー違反でしょう。

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3. 10月7日には副大統領候補マイク・ペンス共和党・現副大統領)&カマラ・ハリス(民主党・現上院議員)のディベイトが実施されました。

 

(1) コロナ対策、最高裁判事の人事、経済政策、人種問題と治安、対中国政策、気候変動問題などについて、お互いにまともに話し合った90分でした。ただ、「礼儀正しさ(civil)を保ちつつも激しい応酬だった」、そして「質問に答えない場合もはぐらかしも、間違いも、お互いに同じ程度にあった」と指摘されました。

 

 (2)立場によって評価が分かれたのは当然ですが、視聴者の調査ではハリスさん優勢が多かった。とくに女性の70%が彼女に好感をもったという調査もあります。

 

 (3) 今回は9月29日の両大統領候補ほどひどくはなかったが、それでも、

・発言妨害―相手が喋っている途中に割って入る、

・持ち時間超過―「決められた時間」を超えても話をやめないで司会者から指摘される、

がみられました。CBSによると、「発言妨害」はハリス5回に対してペンス10回。「時間超過」はハリスは持ち時間通りの35分に対してペンスは38分喋った。

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(4) その中で印象に残った場面がありました。

カマラ・ハリスがペンスの発言妨害に、最初は黙って首を横に振ったり苦笑したりしていましたが、ついに、「副大統領、私が話しています。私に終わらせて頂けるなら、会話が成り立ちますね("Mr. Vice-President, I'm speaking. If you don't mind letting me finish, then we can have a conversation.")」と微笑を浮かべながら、たしなめました。

 

(5)9月29日のバイデンの場合は、あまりに度々トランプが邪魔するのでついに、「いいか、黙れ!(”Will you shut up. man.”)」とかなり感情的に応じました。

 対して、この時のハリスさんの落ち着いた対応には感心しました。幾つかの英米のメディアも、彼女は礼儀正しく、しかし毅然と立ち向かったとして、この言葉を引用しています。

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4.そして私は、いちどブログで紹介したことがある、『女性のいない民主主義』(前田健太郎著、岩波新書)という本の中の、「話合いにおけるジェンダー規範の働き」についての説明を思い出しました。

 著者の前田東大准教授(政治学)はこう言います。

(1)「日本のテレビ番組を眺めていると、男性が何かを説明し、女性がその説明に頷きながら話を聞いている場面を見ることが多い。

・・・・このように、男性が意見を言い、女性がそれを聞く光景は、日本だけでなく世界各国で広く見られる」

 

(2) と書いて、著者は「その理由は・・・・おそらくは女性が自らの意見を言うことを妨げるジェンダー規範(「男は男らしく、女は女らしく・・・」)が何らの形で作用している」と分析し、具体的な事例を紹介します。

 

(3)1つは「マンスプレイニング」です。「男性」を意味する「man」と、「説明する」を意味する「explaining」を合わせた造語。

――「女性は、あまり世の中について詳しくないだろう。だから、特に意見も持っていないに違いない。それならば、ここは自分が会話をリードしよう。このような思い込みに基づき、男性は女性に対して一方的に自らの意見を説明する」。

(4)もう1つは「マンタラプション」、「男性=man」と「さえぎる=interruption」を組み合わせた造語。

―――「男性が女性の発言をさえぎれば、その分だけ女性の声は政治に反映されにくくなるだろう。・・・・・イギリスのマーガレット・サッチャー首相は、男性の政治家に比べてインタビューの際に発言を遮られることが目立って多かった。・・・・・・2016年のアメリカ大統領選挙における候補者討論会では、トランプがヒラリー・クリントンの発言を一方的に遮り続けた。」

さらに、最近の研究によると、「マンタラプションは一部の男性によって集中的に行われているらしい。そのような行為に及ぶ男性は、とりわけ「男らしさ」へのこだわりが強いのであろう」とも補足しています。

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5. トランプさんの場合は相手が男だろうが女だろうが、発言を遮るタイプでしょう。

対してペンスさんは、もう少し紳士的な人かと思っていましたが、やはり「マンタラプション」に度々及んだのは、相手が黒人&アジア系の女性であることも影響したのだろうか。

 それにしてもハリスさんの対応は見事でした。少数民族出身の女性議員としてこういう妨害行為には何度も見舞われているからかもしれない、というメディアの意見もありました。

 対してバイデンさんの場合は、男性で白人で若くから国会議員で、発言を遮られたことなど経験したことがないので、つい感情的になってしまったのかもしれない・・・・

 そんなことを考えると、面白かったです。

『ポスト・コロナ、資本主義から共存主義へという未来』(廣田尚久)を読む

  1. 連休が終わって少し人出が少なくなったかなと、また1週間長野の田舎に滞在しています.秋晴れの美しい日が続き、実りの稲田とすでに刈り取りの終わった田とが共存してよい眺めです。日本晴れの午後は、久しぶりに霧ヶ峰湿原までドライブし、ほんの少し歩き、車山肩にある「コロボックル・ヒュッテ」で憩いました。

     ここは先代の手塚宗求さん健在のときはよく訪れました。彼は手作りで山小屋をつくり、山案内人もつとめ、冬の遭難時の救助員としても貢献しました。著作もたくさんあり、ともにエッセイスト・クラブの会員だったこともあって親しくしていました。もう亡くなって8年になります。こちらが歳を取るのも当然です。

 いまは息子さんが後を継いでいます。若き日の皇太子時代の天皇夫妻が訪れたときの写真とその時のコーヒーカップとがいまも飾ってあります。

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  1. 山小屋にも、けっこう人が来ていました。どこにいても、何となく、コロナのいる日常がむしろ普通になったような、そんな感覚になってくるのが不思議です。

  そんな中でいま、新聞雑誌に載る論考だけではなく、コロナ関連本ともいえる書籍が山のように出版されています。

   これだけのコロナ出版物を、どれだけの人が読むのか分かりませんが、私が読んだのは、『コロナ後の世界を生きる――私たちの提言』(村上陽一郎編、岩波新書、2020年7月17日)と『ポスト・コロナ、資本主義から共存主義へという未来』(廣田尚久、河出書房新社、同8月30日)の2冊だけです。 

  後者の著者・廣田氏とは中学・高校、大学で一緒です。そんなこともあり、今回は本書を紹介します。

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  1. 氏は本職は弁護士ですが、かたがた小説を何冊も書いています。2019年には立て続けに2冊出版しました。何れもこのブログで紹介しましたが、1冊目は『2038滅びに至る門』と題して、舞台は2038年、AIが生み出した指導者の指令によって核戦争が起きるというディストピアの世界を描いた作品です。西垣通東大名誉教授が長文の書評を毎日新聞に載せました。

 2作目『ベーシック・インカム、命をつなぐ物語』は、ベーシック・インカム(BI)を取り上げています。BIとは、「国がすべての国民に対して最低限の生活をするために必要な現金を定期的に支給する最低所得保障」のこと。

 

(1)舞台は20年後の未来。AIのために職を失い、「棄民」の状態に置かれた人々が「新しい共同体」を作り、彼らがBIを政治公約にして選挙を戦うという戦略を政治家に働きかける。

 

(2)最大野党の進歩党が興味を示して、選挙の公約に掲げる。折から金融市場が下落し、経済が混乱し、進歩党の支持率も上向き、BIへの国民の理解も進み、世論調査で78%が導入に賛成する・・・・。

―――といった展開の物語です。前作もそうですが、硬いテーマを物語の中に取り込む意欲作で、面白く読みながら、未来の社会について考えさせられます。

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  1. 今回は、小説ではなく「ポスト・コロナの人類と世界の在り方に何らかの示唆を与え」たいとして書かれた「緊急提案」です。そして前作で取り上げたBIを「てこ」に未来の社会を構想するところが優れた着目だと思います。

 それにしても、ここ1年半で3冊を出版するという精力的な活動には頭が下がります。よく勉強しておられますし、魅力的な老人の生き方ではないでしょうか。

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  1. 本書『ポスト・コロナ、資本主義から共存主義へという未来』で氏が述べるのは--(1)まず4月17 日に発表された1人当たり10万円一律支給の施策に注目する。政府

自身にはそんな意識も意図もなかったろうが、実はこれは、BIに通じる思想すなわち、「人がそこにいるという、存在の価値に対して支給される」ものと認識する。

 

(2)そしてこれが将来、恒常的な制度として導入されれば、「働かざる者食うべから

ず」からの脱却を内に含む価値観の転換となり、最終的には資本主義の超克につながり、「共存主義への未来」を開くものになりうると考察します

 

(3)「共存主義」とは、「経済の仕組みや社会の仕組みを「共存」という価値観から構築すること」を指しています。それは「資本主義のものの見方、考え方を根本的に規定する認識の枠組みを革命的・劇的に変化させるパラダイム・シフトを展望している」と述べます。

 

 (4)著者はもちろん、「新型コロナ禍後に資本主義がすっかり終焉する可能性は高くないだろう」と認めつつも、資本主義の賞味期限切れが近づいているのではないか、何らかの構造変化が起きるのではないか、新型コロナウィルスがその契機になるかもしれない、と「予測」します。

 その「予測」は、14世紀にヨーロッパを襲ったペストの災厄のあとで、徐々にではあるが封建制度が崩壊し、近代国家が成立していった歴史の流れを頭に入れています。

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(5)そして、その構造変化の「鍵」ないし「起爆剤」になりうるものとして、「一律10万円支給」の恒常的制度化、すなわちベーシック・インカム(BI)の導入を提言しているのでしょう。

 

 もちろんBIを導入するに当たっては、財源を始めいろいろの問題があり専門家にも賛否両論があり、そう簡単に導入できるものではありません。著者はその点は十分認識したうえで、「新型コロナ禍が長引けば、ベーシック・インカムは1つの選択肢としてあり得るし、共存主義にパラダイムシフトすることもあり得るのではないかと思っている」と慎重に、しかし大胆に提言しています。

 

(6)そのうえで最後に、「搾取や格差や侵略によって人々や国々が先走って火事場泥棒の

ようなことをするか、あるいは助け合って互恵主義の世界を築こうとするかの選択の問題である」という言葉で結びます。資本主義を前者の世界の象徴とみて、それに代わるものとして「共存主義」の社会を夢見ての発言と言えるでしょう。

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(7)これを理想論だと言う人は多いでしょうが、私は大事な問題提起だなと思いながら

読み終えました。 

 著者から頂いた手紙には、「この本の類書はまだないようです」と書かれています。しかも彼が指摘するように、過去の歴史を見れば、災厄が社会構造を変えたという事例はあるのですから、案外、夢物語ではないかもしれません。

 

引き続きアメリカ、RBG判事の後任問題とブレアナ・テイラー射殺事件の陪審判断。

  1. 東京に戻って、お彼岸でもあり、2回墓参に行きました。家人の実家の墓は上野に近い谷中の天王寺にあります。終えてから「谷中ぎんざ」を歩き、名物の「すずき」のメンチカツをビールと一緒に頂きました。コロナの前は行列ができる店でした。

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  1. 前回紹介したルース・ギンズバーグ判事の死去を悲しみ、追悼する国民の姿をアメリカのメディアが連日報道しています。遺体は国民の喪を受けるために、最高裁判所に2日間置かれ、その翌日は議事堂に安置されました。女性としては初めてのことだそうです。

 長年女性の平等と権利向上のために戦った彼女の生涯について、岡村さんから、京都の女性会の某会長を思い出すというコメントを頂きました。

 生前親しかった「京都市地域女性連合会」の会長さんは85歳で亡くなるまで、重い病をおして最後まで会合に出席し、女性の地位向上に努力し続けた人だった。「この明治生まれの気丈な会長とギンズバーグ判事を重ねてしまうのです。判事は、「最高裁の女性判事が何人いれば充分か?」と聞かれて「9人全員」と答えたそうですが、会長に聞かせたかったセリフです」と、想いをこめて書いています。

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2.飯島さんからは、「アメリカの行く末が気になる」というコメントを頂きました。「気になる」のは彼女の後任人事だけではありません。もう一つの出来事もアメリカ社会を揺るがしています。

 ケンタッキー州ルイビルで今年の3月に、3人の警察官が深夜に私服で黒人女性ブレアナ・テイラーのアパートに踏み込み、ボーイフレンドが発砲したのに応じて、寝ていた彼女を射殺した事件が起きた。

 そして先週の23日(水)に、警察官の殺害の罪では起訴しないという陪審の判断が示された。ルイビルではこれに怒った人たちの抗議デモが起き、暴動も起き、緊急事態が宣言され、警官のみならず州兵が出動する騒動になった。

 この二つの出来事が、11月3日の選挙(大統領&議会とくに上院)にどう影響するか?

 何れもトランプに有利に働くかもしれない、少なくともトランプと共和党は最大限この出来事を選挙に利用するだろうことが懸念されます。

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3. ブレアナ・テイラー事件について言えば、抗議する人たちの怒りは理解できます。しかし、それが、一部の人たちの行動にせよ、過激な暴動にまで発生すると、反発する市民も増えてくるでしょう。

 そして、トランプはここぞとばかり「法と秩序」を叫び、支持を広げようとするでしょう。まさに、思う壺にはまる危険があります。

 こういう時こそ「気持ちは分かるが、暴力はやめて冷静に」と呼びかける人が必要でしょうが、民主党候補のバイデンは、似たような無罪判決が出た2013年のときのオバマ前大統領や1968年のキング牧師暗殺で暴動が起きたときのロバート・ケネディ(大統領選挙に出馬していた)のように、雄弁な言葉で人々に訴えるというカリスマには欠けるような気がします。

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  1. もう一つは、ギンズバーグ判事の後任問題です。

(1) 前回も書いたように、2016年にスカリア判事が死去し、当時の大統領オバマが後任を指名した。ところが、上院の多数を抑えていた共和党は「オバマの時間は限られている」という理由で上院での審議を握りつぶし、トランプが大統領に選ばれるまで待って、トランプの指名する別の保守派の判事を承認した。

(2) その前例があるだけに、「今回も新大統領が決まるまで待つべき」と民主党は主張する。

ところが、共和党上院のリーダー(2016年時と同じ人物)は、「あの時は大統領と上院多数派とが政党が別だった。今回はともに共和党で同じ。だから事情が違う」という妙な理屈で、トランプの指名する候補をただちに上院で審議して可決してしまおうとしている。

 

6.アメリカの連邦最高裁判事は、大統領が指名し、上院で承認される(憲法2条)。

今の構成は共和党53対民主党47,合計100人。従って、共和党から4人造反者が出れば、逆転して承認は得られない。

ところが現在、「前例に沿って新大統領が決まるまで待つべき」と主張する議員は共和党で一人か二人だけのようで(ともに女性)、他はトランプが誰を指名するか明らかにしないうちから賛成で、「おそらく誰が指名されても承認されるだろう」とメディアは予測していた。

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7.そして、トランプは「女性を指名する」と明言し、現地時間26日(土)に、写真にあげたバレット判事を指名しました。

彼女は控訴裁判所の判事、48歳、子供が7人いる熱心なカトリック信者で、人工妊娠中絶反対の人物と紹介されます。女性と言っても、保守的な人物。

 

 さはさりながら、ギンズバーグ判事の後任にやはり女性が選ばれる、しかも40代の新鮮な女性の登場ということになると、思想信条は気にせず好感をもつ国民は増えるのではないか、そしてまさにトランプは、この絶好の機会をうまく捉え、「新しい・若い女性判事を自分が選んだ」という成果を大々的にPR するだろう。

 もちろん賢明な有権者は、そういうトランプ&共和党の選挙戦略は見破るだろうと期待するが、あと1ヶ月ちょっとに迫ったトランプにとって、この2つの出来事はバイデンをラストスパートで追い上げるチャンスになるかもしれない?

それとも共和党の強引なやり方への反発が逆に民主党に有利に働くか?

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 今朝チェックしたメディアによると、ABCとワシントンポスト共同の世論調査で、「次の大統領が決まるまで待つべき」は57%、「いま決めるべき」は38%で、約20%の大差で反対者が多いとのこと。

 但し、民主党支持者の90%が前者、共和党支持者の80%が後者だそうで、「分断」は明らかです。

 もっとも、同じ調査で、「大統領を選ぶにあたって最も大事な問題は何か?」の質問には、この問題は、経済・コロナ対策・医療保険・人種差別・犯罪と治安、に続いて6番目に留まっている。

 これから上院でのバレット判事を承認するかどうかの動きは激しさを増すでしょう。

同時に、9月29日から3回開かれる2人の大統領候補のテレビ公開討論会が注目です。

 

 

今回はアメリカです。ギンズバーグ判事死去と米大統領選。

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1,日本時間の昨日、アメリカの最高裁判事、ルース・ベーダー・ギンズバーグ(RBG)が87歳で死去しました。この時期の彼女の死はアメリカにとって大きな事件です。5月31日のブログで彼女を紹介しました。

https://ksen.hatenablog.com/entry/2020/05/31/081606

主要メディアは「先駆者」「チェンジメーカー」と呼び、「アメリカのICON(偶像)だった」と追悼しています。

 選挙の直前にも拘わらず、大統領と上院共和党は後任を決める方向で動いています。ニューヨーク・タイムズは社説で、「彼女が成し遂げた輝かしい成果が脅威にさらされる」強い懸念を表明しました。

 後任人事を強行すれば、民主党は猛反発するでしょうが、トランプにとっては3人目の判事を指名する機会を得たことになり、最高裁の保守化は一層確実になります。

 民主党の反発には理由があります。1人目ゴーサッチ判事を任命したとき、実はオバマ在任中2016年2月に前任スカリア判事が死去したにも拘わらず、共和党が多数を占める上院が後任指名を引き延ばし、2017年トランプ大統領が就任してから保守派ゴーサッチを選んだという、強引な前例を作りました。今回これを理由に民主党は新大統領での指名を主張するでしょうが、トランプと上院共和党は応じないでしょう。分断はますます深まりそうです。

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 2. 15日にはもと職場の同期会があり、アメリカ大統領選の話題でした。

毎月開催で200回以上続いていますが、3月からお休みでした。場所は神田の如水会館で、今回から昼の会に代わり、12人出席。距離を空けて座り、マイクを使いました。

 

 かなり真面目な同期会でテーマを絞って話合います。今回はあと2か月を切ったアメリカの選挙について。アメリカ勤務の長い某君がニューヨーク・タイムズなどから集めた丁寧な資料を作ってくれました。

ーーオバマ政権時の副大統領だった民主党バイデン(B)と再選を狙う共和党トランプ(T)の争いの、二人の主な政策の違いは以下の通り。

・人種差別――Bは、差別解消を訴え、警察改革の推進も。

       Tは、「法と秩序」を理由に過激な行動を取締る。

・税制――Bは法人税を28%に引き上げる、富裕層の課税強化、社会保障の充実。

     Tは、35%から21%に大幅に下げた法人税をさらに減税する。

・環境――Bは、パリ協定復帰、環境インフラで4年で2兆ドル支出。

     Tは、規制緩和で石油ガス施設の建設推進。

・外交――Bは同盟国との関係深化、アメリカの指導力を取り戻す。

     Tは、米国第一主義堅持(同盟軽視、反自由貿易、反グローバリズム)。

・対中政策――Bは強硬策は変わらないものの、同盟国と共同での圧力を重視。

               Tは、大国間競争と意識し、一方的な制裁関税で圧力。

f:id:ksen:20200915115004j:plain3.  現時点の直近の支持率の差は、民主党のバイデン(以下B)支持49.0%、対して共和党トランプ(T)支持43.1%で、その差5.9ある。

 

(1)選挙は州ごとの選挙人獲得数になるので、全体の支持率では予測できないが、州ごとの支持率の合計でも、バイデンが3.7ポイントリードしている。

 かつ、オハイオ、ミシガン、ペンシルベニア、フロリダといった、選挙人数の多い激戦州で何れもバイデンがリードしている(2016年は、この4州何れもトランプが僅差でヒラリー・クリントンを破った)。

 

(2) 以上から、現時点では「バイデン当選の確率大」というのが、講師の見立てでした。

(3) ただし、投票率は毎回6割弱で、とくに民主党支持層である黒人やヒスパニックの投票率が低いという不確定要因はある。

またバイデンと組む副大統領候補のカマラ・ハリスが、黒人とインド系の両親で女性という売り込みにも拘わらず、黒人の間の人気がいまひとつである。

現職にも拘わらず、トランプ支持が伸びない理由は、言うまでもなく、・コロナ対策の失敗、・黒人差別に対する抗議の動きと国民の分断、・景気の悪化、の3つ。

 

3.今回の選挙は、上院・下院の両議会の選挙も行われます。

下院(定数435名、民主232、共和197)は全員が改選。

上院は定数100名(民主47名、共和53名)のうち35名が改選され、改選議員の内訳は民主12、共和23。

上院では改選議員の多い共和党に不利に働くとみられており、上下両院とも民主党過半数を握る可能性あり。つまり、大統領・両院を全て民主党がおさえる「トリプル・ブルー(青は民主党のシンボル・カラー。共和党は赤)」も夢ではない(しかし司法は、一層保守化する)。

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4. このあと出席者の間で活発な話し合いがありました。アメリカ勤務者も多いので、国際問題への関心は高いです。

 アメリカの場合、二大政党の間で激戦になることが多く、常に政権交代の可能性があり、野次馬でも気になります。与野党が競い合う状況が民主主義の土台ではないでしょうか。

 国民が直接選び、民主・共和両党の政策の違いが明確に可視化されていることも大きいと思います。

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5.私は以下のような質問をしました。

(1)仮にトランプが敗けた場合、彼の性格として敗戦を「郵便投票」などを理由に認めないかもしれない。その結果、選挙で決着がつかずに最高裁に落ち込まれる可能性についてどう考えるか?」

(2) 「よほど僅差ならともかく、敗けを認めないのは難しいのではないか」というの

が、講師の回答でもっともな意見だと思います。

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(3) ただ、前例はあります。2000年、アメリカ大統領が史上初めて最高裁によって選ばれるという「ブッシュ対ゴア」事件がありました。フロリダ州の再集計をやめるという決定を不服としてゴア側が訴訟を提起。最高裁は5対4のきわどい判決で同州の決定を支持し、ブッシュの勝ちを認めました。

 この判決をゴアも「同意できないが、決定には従う」として受け入れました。大統領候補といえども最高裁の決定には従う。このあたりは「法の支配」が徹底していると言えるでしょう。こんな事態にならないことを願いますが、何をやるかわからないトランプだけに気になります。

「秋来ぬと目にはさやかに~」と「土蔵の再建」プロジェクト

  1. 茅野の里山はだいぶ秋めいてきました。道路沿いのキバナコスモスはいまが盛りでしょうか。稲は黄金色に実り、刈り取りも近付いてきました。

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 よい眺めですが、残念ながら本日東京に戻ります。

 田舎にいて秋を感じる一つに、風が変わったなという気配があります。

 藤原敏行の歌、「秋来ぬと目にはさやかに見えねども、風の音にもおどろかれぬる」(古今和歌集)です。

「秋立つ日によめる」という詞書がありますが、いまの季節感からすると1ヶ月遅いこの時期にふさわしいです。

――「おどろかれぬる」の「おどろく」は、「ふと、気が付く」で、現代の「びっくりする」という意味ではない。

 この歌のキーワードは「風の音」であり、秋が来たことを耳でとらえる、風の方向がかわり、季節がかわる、それが当時の日本人の感性であった。

その「風の音」は、おそらく萩か稲が風に吹かれてそよぐ音であろう。

「きのふこそ早苗とりしかいつのまに、稲葉そよぎて秋風の吹く」(よみ人知らず)というのもある。――

稲穂が揺れている光景を見ると、そんな講義を昔聞いたことも思いだします。

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  1. 平安時代を思い起こすのは、コロナのせいで文化活動も被害を受けている現状への懸念があります。

 (1)京都の冷泉貴実子の家は、藤原俊成・定家から続く「歌の家」ですが、毎月行っている歌会をリモートのオンラインでやるようになったとメールをもらいました。「エライ時代になりました」。

 

 (2)京都御所の北、同志社大学に囲まれた家は、唯一残る公家屋敷と言われます。

前回のブログは、京都「イノダの主」下前さんが東京での講演会で話をしたことを報告しました。同氏は、秀吉が応仁の乱で荒廃した京の街を再編成したことにも触れました。このときに、その一環で御所を整備し、公家町も形成されたそうです。

 

 (3)ここには、国宝5点(定家筆の古今和歌集・明月記など)をはじめ、5万点にのぼる典籍および古文書類が蔵に保存されています。

長年にわたって同家で代々、これらの維持保存を図ってきましたが、個人の努力では経済的にも限界があり、1981年に法人化し、現在は公益財団法人冷泉家時雨亭文庫として活動しています。

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 (4)現在5棟の土蔵があり、もともとは8棟あったものが、うち3つは時代とともに朽ち、中に収蔵されていたものはプレハブの建物に仮置きされていた。それが一昨年の台風により屋根が破損されてしまった。

 そこで元のように蔵の新築が緊急課題となった。多額の資金が必要ですが、国や地方自治体からの支援はありません。

 財団の資金だけではとても足りず、従来ならこれら古典籍の展覧会を開催して、その収入を充てることも可能でしたが、このコロナのなかではそれも難しい、ということで広く寄付をあおぐことになった由。このあたりの経緯は、彼女が文藝春秋9月号の「巻頭随筆」に「土蔵の再建」として寄稿しています。了解を得て、ここに載せておきます。

 

 (5)この文章を読んで、もとの職場の先輩から電話があり、「趣旨に賛同して寄付をしたい」と言ってくれました。「貧者の一灯」と本人は言っていますが、まことに有難い話で大いに感謝されました。私も早速、日帰りで上京し、同氏と六本木の国際文化会館で昼食をともにし、お礼を申し上げました。

 

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 3.「巻頭随筆」には、「思案にくれている時、京都新聞からクラウドファンディングに参加しないかというお誘いを受けた。ほとんど何のことかもわからず、このインターネットによる募金を始めると、コロナ禍で世の中不景気だというのに、一日で350万円という目標額に達してしまった。寄せられるツイートは温かい励ましであふれている。うれしい」とあります。

 クラウドファンディングは9月8日に終了しましたが、最終的には目標の3倍以上に達したようです。本人のお礼のサイトが文庫のホームページに載っています。

https://www.facebook.com/103372564732866/videos/230579555041374

 日本にも寄付文化が徐々に根付いてきたのかと感じているところです。インターネットの効用もあるでしょう。

 

 4.しかし、まだまだ、工事に必要な2億円には遠い道のりです。彼女には「こんどは英語で発信して、海外の外国人に参加してもらうクラウドファンディングを企画実施したらどうか」と提案したところです。

 英国にいる娘の友人にも日本文化に関心を持っているイギリス人もいるし、その中には京都に来て冷泉の家を訪れた人もいるので、多少は参加してくれるのではないでしょうか。

 海外に勤務すると、寄付文化が根付いているなと痛感します。

 個人はもちろんですが、企業も収益の一部を寄付に充てることは普通の感覚です。

 シドニーに勤務していた時は、日本の銀行の子会社とはいえ、いちおう豪州の銀行なので、財団やNPOから寄付依頼の手紙がたくさん舞い込みました。

 小さな子会社ですから、大したことはできませんが多少はこの国にお返ししたいという気持もあります。と言ってもたくさん来る依頼状を読んでも、どういう団体がどういう活動をしているか、その中からどういう基準で寄付先を選んだらいいか、現地事情をそこまで分からない日本人にはなかなか判断が難しいです。

 そういうときにお世話になったのが、社外取締役の存在です。

 オーストラリア人の社外取締役が3人いて、この人たちに相談して彼らの助言を入れて寄付先を決めたことがたびたびありました。懐かしい思い出です。  

 「土蔵の再建」プロジェクトも、海外向けのクラウドファンディングで、日本文化を保存する意義に共鳴してくれる外国人に参加してほしいと思っています。

京都から東京へ「東下り」

  1. 前回に続いてまた、京都から東京に出て来られた方のことです。「上洛」「帰洛」とは言いますが、京都人の東京行きは「東下り」でしょうか?

東下り」の語源は在原業平の「伊勢物語」でしょうか。「なほ行き行きて、武蔵の国と下総の国との中に、いと大きなる河あり。それをすみだ河といふ」とあります。ここで「名にし負はば、いざ言問はむ都鳥、わが思ふ人はありやなしやと」と詠みました。私は、彼が病床にあって詠んだという、「つひにゆく道とはかねて聞きしかど、昨日今日とは思はざりしを」(古今集)を時々、思い出します。

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2.前回のブログに、下前講師に同行して「東下り」した岡村さんがコメントを寄せてくださいました。岡村さんは「1年ぶりの東京に心が弾みました」とあります。行きたいところがたくさんあって残念だった。駒形の「前川」で隅田川を見ながらどぜう、吉原の「伊勢屋」、佃島の「天安」などの名前が出てきて驚きました。私はどこも名前も知りません。

 岡村さんは、祇園で生まれ、いまも祇園町の会長を続けておられます。そういう人が「八幡宮の鳥居をくぐった左にある「深川宿」の深川めしも、老舗の店自体がしつらえも含めて、僕には観光なのです。東京は、古い店がいつまでも残るためのエネルギーがあるのでしょうか。京都の店には不思議と興味を感じません」と書いておられるのは、とても興味深かったです。

 

3.さてと、東京赤坂での柳居子さんの「床屋談義」を聞いた感想を今回も続けます。

(1)本論は、古い京都の話で、応仁の乱後、秀吉がたくさんのお寺を移転させるなどの事業を行ったこと、廓のこと、さらには明治になってからの都市整備にまで及びました。

(2)本論の前に、ご本人も自分のブログに書いておられますが、話の枕を振られました。「私は、生まれてから京都を出たことがない。『井の中の蛙大海を知らず』というのは私のためにあるような成句です。ところで、このあとに続く言葉をご存知ですか?」という問いかけです。

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(3)これはなかなか巧い出だしだなと感心しました。

あとに続く言葉があるとは考えたこともなかっただけに、もちろん私は答えが出てきません。他の出席者も同じだったようで、しばらく間を置いて、誰からも答えがないのを待ってから、「『されど空の色を知る』という言葉が続くようです」と言われました。

井の中の蛙は広い世間のことは分かっていないが、井戸の底から見える空はいつも見ているからよく知っていると理解すれば、「京都については多少お話しできるでしょう」という話の出だしで、聞いている人は引き込まれます。

 

(4)面白いと思ったので、帰宅してから、書棚にある広辞苑を取り出しました。「井」でひくと、「井の中の蛙大海を知らず」の言葉と意味の説明がでてきます。出典も中国の古典『荘子』とあります。ところがその後の言葉は書いてありません。

 

(5)そこでパソコンで検索すると、ちゃんと出てきました。どうやら、「されど~」以下の言葉は誰が考えたか分からないが日本で付け加えたらしく、「されど空の青さ(深さ)を知る」など言い方があるようです。

 

(6)今の時代、まず広辞苑をひくなんて人がいるでしょうか。むしろたちどころにスマホをいじって、「ここに出ています」と答えてしまうのではないか。

 便利になったと言えばそれまでですが、私のような旧世代の人間には味気ないという気持も拭えません。何事でも、訊かれたら、疑問に思ったら、スマホですぐに検索して、答えが出てしまう。それで調べたことになる。

 

 その前に一瞬でも自分で考えてみる。自分の頭に答えがなければ、質問をした講師の答えを待つ、そのあとさらに疑問が湧いたら書物でも辞書でも探してみる・・・・・こういう時間に意味があるように感じるのですが、いまは、何でもすぐに機械に頼って調べてみる、検索する時代になりました。

そういう私自身、まずはウィキペディアのお世話になる(だから時々少額の寄付をしています)のが習性になっていますから、他人のことは言えないのですが・・・・

f:id:ksen:20200822143205j:plain4. 時代が変わったといえば、下前講師の話の合間に、松井教授のアレンジで、戦前の古い、懐かしい「犬のマーク」のついたビクターの手回し式の蓄音機が持ち込まれました。所有者は若い方でしたが、45回転のレコードも持ってこられ、淡谷のり子の「人の気もしらないで」などをかけてくれました。

 これもまた昔のことを思い出して、いい休憩時間でした。私の田舎家にもごく手軽なレコード・プレイヤーがあり、もう何十年も昔に買ったレコードが何枚かは捨てないで残していて、音はひどく悪いですが、時々聴いています。

 因みに今も日本ビクターでも使われている「犬のマーク」について、同社のホームぺ―ジには以下の説明があります。

――原画は、1889年にイギリスの画家によって描かれた。彼の兄が生前ニッパーと名付けた賢い犬を可愛がっていた。

 弟の画家が犬を引き取った。たまたま家にあった蓄音器で、吹き込まれていた兄の声を聞かせたところ、ニッパーはラッパの前で耳を傾けて、なつかしい主人の声に聞き入っているようだった。その姿に心を打たれた画家は早速一枚の絵を描き上げ、「His Master's Voice(ご主人の声)」とタイトルをつけた。それを知った円盤式蓄音器の発明者はこの画をそのまま商標として1900年に登録した――

「以来この由緒あるマークは最高の技術と品質の象徴としてみなさまから深く信頼され、愛されています」とあります。

 ということで、下前さんの話といい、合間のレコードといい、老人にはとてもいい雰囲気の企画で楽しい時間でした。

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f:id:ksen:20200905093724j:plain5. 最後になりますが、この「床屋談義」を「イノダ」の珈琲を飲みながら聞いたという贅沢にも触れておきます。

 下前さんは、おそらく60年、毎朝職場近くの京都堺町にある珈琲店「イノダ」で仕事前のひとときを過ごします。

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「イノダ」は1940年創業、「京都の朝は、イノダコーヒの香りから」のキャッチフレーズで知られます。1年365日、朝7時から開いていて、だから彼も一日も欠かさず顔を出せる訳です。

 私が13年宇治にある大学に勤務したときも、「イノダ」のすぐ近くのアパートに住み、しばしば出かけました。そのお陰で下前さんと昵懇になりました。

 この「イノダ」は東京にも東京駅八重洲口の「大丸」百貨店の中にあります。下前さんが「東下り」とあれば「イノダ」も黙っている訳にはいかないと思ったのか、当日は特別サービスの出前でした。こういう特別な関係もいかにも京都だなと思い、かつこれもまた洒落た企画だなと感じ入った次第です。

久しぶりに京都の方々に会い、「床屋談義」も聞きました

1. ここ10日間で、家人が1回、私が2回、合計3回日帰りで東京と茅野を電車で往復し

ました。

 因みに、家から中央線の茅野駅までは公共交通機関がないので、どちらかが車で送り迎えします。電車通学する高校生の子を持つ親は連日、車で送り迎えをする必要があります。地方暮らしもなかなかたいへんです。f:id:ksen:20200820145141j:plain

2.この間、年下の友人が1人で京都から訪れて一泊してくれました。有難くも嬉しいことです。

 狭い日本と言っても、京都と茅野の往来は面倒です。帰りであれば、まず茅野から中央東線塩尻で降り、中央西線に乗り換えて名古屋まで行き、新幹線で京都に行く、2回乗り換えで5時間はかかります。はるばるよく来てくれたものだと感謝です。ちょうど長女夫妻も休みを取っていましたので話も弾みました。

 彼は、京都検定1級の所持者で御所のすぐ南に住んでいます。古い町家で市の重要文化財に指定されて、昨年は一般公開もしました。

 NPOに長く関わり、山登りが趣味です。今年の初めには、友人とニュージーランドの南島にある、「世界で最も美しい散歩道」と言われるミルフォード・トレッキングに出掛けました。ガイド付きの山小屋に5泊する旅程でしたが、途中で40年に1度という大雨に見舞われ小屋に閉じ込められ、最後はヘリコプターで救出される事態になりました。貴重な経験をして、一緒に歩いた異国人との交遊や助け合いも強まった、という話を聞きました。

 家の周りを2人で散歩し、鹿にも出会いました。

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 根っからの京都人で、いつも京都の話を面白く聞きます。京都人特有の人との付き合い方と言葉遣いがあるそうで、

「あんたはん、いい時計してはりますな」という言い方を今回初めて聞きました。

「いやいや、安物ですよ」なんて応じると、「何も分かってない、東京の田舎者やな」となる。

翻訳すると、「ご自分の時計で時間を確かめたら如何ですか?大分長居していますよ。そろそろ引き揚げられた方がいいんじゃないですか」という意味だそうです。

 角が立たずに人と付き合っていく、洒落た日本語の文化ですね。

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3. 他方で、以下は東京に行った話です。電車も結構混んでいました。全員がマスクの光景は茅野も変わりませんが、それでも人間の多さが違うので、マスク姿の印象ははるかに強烈です。これがいまの日常なのだと改めて感じました。

  実は東京行きのうちの1回は、やはり京都に縁のある出来事でした。この日、京都からはるばる上京した下前さんの講演会「床屋談義」に参加しました。

 松井孝治氏というもと民主党の国会議員が、いまは慶応義塾大の教授をしています。この方がシンクタンクも主宰して、さまざまなイベントを企画していて、今回は代表的な京都人を招いて東京で京都の話を聞こうと実施したものです。当日は赤坂にあるシンクタンクのオフィス内会議室で開かれて、マスク姿の40人強が出席し、まことに盛会でした。

 京都からも下前さんの友人飯島・岡村の両氏が招かれて上京し、私も声を掛けて頂いたので喜んで出かけました。

 京都には、1月末に従妹の家で「新春かるた会」という集まりで出かけて以来、新型コロナの中上洛していません。京都に行くと必ず「イノダ珈琲店」で朝食をとり、この方々とも会えるのですが、すっかりご無沙汰しており、残念に思っていたところです。そういう、「京都のお仲間」と7カ月ぶりに東京で会うというのも楽しいものでした。

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4.下前さんは、柳居子と号し、たいへん博識な知識人かつ趣味人で、しかも家人が「何でも出来る人ね」と感心するように、料理も上手です。この日は、お手製の「ちりめん山椒」を持参して頂きましたが、家人は「錦小路で売ってるものよりおいしい。絶品」と感嘆し、早速二人で炊き立てのご飯に載せて賞味しました。

 しかもご友人の書家がラベルに「くもり、柳居子製」と命名して揮ごうしてくれたそうです。人脈も多いのでしょう。

 毎日365日、ここ15年以上ブログを書き続けていますが、本業は三代続く散髪屋さんです。

 理容は、明治の文明開化から始まった職業ですが、当時なかなか洒落た仕事だった、同氏の先祖ももとはと言えば刀を扱っていたそうで、それで明治になって西洋からの「理髪」文化にすんなり転業出来た、と聞いたことがあります。 「天皇陛下にまともに刃物を向けられるのは私たちだけじゃないでしょうか」とよく言って笑います。

 しかも本来は西洋渡来の「散髪」が日本風の接客に進化して、これがいまや一部の外国人観光客に話題になっています。柳居子さんの技術と京都人らしいコミュニケーション能力のせいもあって、彼の「理容店」を初めて訪れた外国からの観光客が、髭を剃ってもらって感激してSNSに投稿し、それを知った観光客が次々に訪れるという事態になっています。

 今年の初めには、英国から来たジャーナリストだかが、同店での散髪の模様を数十分のビデオに撮影し、You tubeで流したところ、何と300万回以上のヒットがあったそうで、驚くべき反響です。世界の有名人ですね。「いまはコロナで駄目だが、行けるようになったらここで散髪してもらうためだけでも京都に行きたい」というコメントもあったとのこと。

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5.この下前さんに何とか東京に来てもらって京都の話をして欲しいと、上述の松井教授が長年にわたって説得、今回やっと応諾して上京したのですが、何と東京に来るのはお嬢さんの結婚式以来20年ぶりとのこと。この日も講演が終わったあと、二次会に六本木の国際文化会館までお連れしましたが、もちろん泊まることなく、そそくさと引き上げました。

 そういえば私の従妹も生粋の京都人で氏と同じく他の場所で暮らしたことはありませんが、用事があって上京する時も可能な限り日帰りで帰洛します。京都人はほんまに京都が好きなのだなと思います。

 

6.今回は余談ばかりで、講演「床屋談義」の中身に触れる紙数がなくなりました。松井教授と柳居子さんとの仲を紹介して終わることに致します。

 松井先生の実家は、松井本館といって京都の老舗旅館です。「下前理髪店」はすぐ近くです。この日の講師紹介でも、「祖父から息子にいたるまで四代にわたって頭の面倒を見てもらっています」という紹介がありました。単なる「理髪と客」の間柄ではないようです。

 これまた、いかにも京都らしい「付き合い」だなと感じました。人や場所の移動の多い東京では考えられない濃密な人間関係ではないでしょうか。