バイデン新大統領の評価とホワイトハウスからの手紙

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  1. 今回はアメリカの話。就任して4か月強過ぎたバイデン大統領の内政面での評価が

高いようです。

(1)5月28日には2022会計年度(今年10月~来年9月)の予算教書を議会に提出し、「大きな政府路線」を鮮明にしたと報じられました。

・すでに、3月には約200兆円の(1)「アメリ救済計画法(the American Rescue Plan)」を議会で成立させています。

(2)今回はこれに加えて、

・気候変動対策をはじめ大規模インフラ投資を通じて雇用創出を図る「アメリ雇用計画(Job Plan)」

・育児や教育を支援して、格差の是正・セイフティ・ネットの拡充を目指す「アメリ家族計画(Family Plan)」

の2つを目玉にして、かつその財源として、

・大企業・ウォール街への法人税増税高所得者所得税増税を打ち出しています。

・銃規制や移民受け入れなどについても法改革を目指すとしています。

 

(3)共和党は、財政赤字が拡大し、経済成長を阻害しインフレを促進するとして反対で、どこまで議会を通るかは不透明です。

たしかにインフレは心配で、日本のメディアも懸念する記事が多いようです。しかし、きわめて意欲的な政策で、成功してほしいと思っています。

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  1. エコノミスト誌も、「就任100日間のバイデンの適性」と題する記事を載せて、評価しています。(1) 登板時は、課題が山積だった。コロナ感染は増え続け、民主主義の危機が叫ばれ、人種差別と社会の分断が拡がっていた。

   しかもバイデン自身に対する期待はさほど高くなかった。

(2)しかしいま、ワクチン接種は当初の予定以上に進捗し、今年は大幅な経済成長が見込まれている。「救済計画法」の成立も大きな成果である。

――と指摘して、

(3)就任当初では、大恐慌下に登板したルーズベルト大統領(FDR)がもっとも成果を上げたと言われる。

しかし、バイデンの滑り出しはFDRに匹敵すると言える。

しかもオバマ政権以上にリベラルな政策を打ち出しているとして、“fascinating but incompetent(面白いが無能)”なトランプに対して、“boring but radical(面白味はないが過激)”なバイデンと評しています。

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  1. 私が感じるのは、

(1)政策目線が「救済・雇用・家族」にあり、まず救済を優先し次いで雇用・家族に向かうことを、明快に示している(日本のコロナ対策など、私にはいまも全体像がつかめない。大きな目標設定と分かりやすい内容説明を欲しい)。

(2)これも日本政府からは聞こえてこないが、巨額の支出の財源はどうするのか誰もが懸念している(所得減、増税、年金減額?)。バイデンは、果敢かつ「ラディカル」に大企業や富裕層への増税を打ち出している。(年間所得約4千万円以下の層には増税しないと明確に言明している)。

の2点です。

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  1. もう一つ、国民に対する「説明」です。

以下は、「笑い話」でもありますが、実は私ども夫婦のところに「ホワイトハウス」から長い手紙が来ました。表が英語、裏はスペイン語です。

(1)バイデンの署名入り(もちろんコピー)で、私と妻あての二通です。

ただ、書き出しに「My fellow American(アメリカ国民の皆さん)~~」とありますので、我々に届いたのは何かの間違いだということはすぐわかります。

 

(2)内容は、「3月に成立したアメリカ救済計画法の中身を知ってほしい。施策の1つとして皆さん一人一人(高額所得者を除く)に2000ドルの支払いを行った。まだ受けとっていない人がいたら早急に、担当役所のサイトをチェックするか電話をしてほしい」というものです。

 

(3)そして、やや泣かせるような国民に呼びかける言葉で終わっています。

―――「私は大統領に就任してすぐに、皆さんへの救済は検討中だと申し上げた。救済計画法はこれを果たすためのものです。私は、救済される資格のある皆さん全員が法の恩恵を受けることを確かめたいのです。

 我が国にとって、いまは長く苦難のときです。しかし前途は明るいと私は信じています。ワクチン接種は進み、経済は回復途上にあり、子供たちは学校に戻ります。私たち皆が一緒になって努力しない限り、国家としてできることは何もないと私は心から信じています。大統領ジョー・バイデン(署名)」

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  1. 以下は推測ですが、なぜ手紙が私どものところに来たか?10年弱のアメリカ勤務があり、少額の年金を受給しています(日本で確定申告をしています)。どうやら、海外を含めた「年金受給者」にも出状したのではないでしょうか。

 明らかに、お粗末な事務のチョンボです。しかし、アメリカという国は、こういう細かい事務では割といい加減である。しかし国の根幹に関わることでは国民にきちんと説明し、呼びかける。その呼びかける相手に多少の範囲オーバーがあっても、気にしない。そんなおおらかさを感じた次第です。

自粛の日々を、ご近所と交流しながら過ごす。

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  1. 東京は緊急事態が延長されて、「緊急」が「常態」になりました。外出は医者通いのほかは、近くの駒場公園までゆっくり散歩をするぐらいです。

 医者通いは、ワクチン接種も含まれますが、我が家の第1回接種は私は5月30日、妻は6月5日です。自治体によって対応が違うようで、私が聞いた限りでは例えば小平市川崎市は、集団接種と並行して個別接種が充実しているようです。川崎市武蔵小杉に住む友人夫婦は、かかり付けの医院に行ってすぐに予約ができて、2回目の接種も終えたと言っていました。他方で電話やネットが繋がらずに、子供たちやご近所の世話になった方も多いです。職員の対応・現場の苦労はたいへんだろうと思いますが、我々もいささか振り回されていますね。

英国にいる娘夫婦もニューヨークに住む友人も、どちらも混乱なくとっくに接種を終えました。NPOやボランティアが協力しているという話も聞きます。

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2.散歩に訪れる駒場公園は旧前田侯爵邸跡で、重要文化財。広い庭には大きなクスノキもあります。休日には家族連れが憩い・遊ぶ姿を見かけます。「不要不急の外出は自粛」と言われても、このぐらいは許されるでしょうね。

散歩の途次には、駒場小学校に通学する子供たちも見かけます。よく喋るので「スズメ君」と妻が呼んでいる、仲良しになった男の子は2年生に進学し、もう黄色い帽子はかぶらず、相変わらず元気で歩いています。

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  1. 家に居る時間が増えて、いろいろ新しいこともあります。

隣近所の人と話す機会も出てきました。お向かいに住む男性は70歳を超えて現役を退いていますが、庭いじりや植木の手入れが好きで、長い時間を外で過ごします。時には、気さくにご近所の奥さん方の植木の相談に乗ったり、自宅の切り花を届けてくれたりして、頼られています。

 先週の天気の良い午後、妻が声をかけて小さな庭に招いて小一時間ほど、珈琲を飲みながらマスク着用で3人でお喋りをし、花の手入れを聞いたりしました。

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3. 違う人生を送ってきた人の話を聞くのはなかなか面白いです。

彼は現役時代は和食の料理人でした。いろいろ話してくれました。

・料理をつくるだけでなく、花や季節の基礎的な知識も必要。

・献立表は自分で考えて、墨で書く。従って、習字も習う必要がある。

・献立表を和紙に書いていくと、どうしても最後に余白ができる、そこをどう埋めるか工夫する。絵を描く人もいるが、彼の場合は、毎月変える献立に合わせた「俳句」を考えて載せるようにしていた・・・・

――などと聞いて、「和食の料理人には教養も必要なんだ」と感心しました。

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・「どんな俳句を作ったんですか?」と訊いたところ、ほとんど忘れてしまったが、

「菜の花の続く舞台を蝶が舞う、という句があった」と思い出してくれました。

「菜の花の和え物」が先付けで出てくる、そのあとも蝶が舞うように料理が続く、そんなきれいなイメージでしょうか。

・ときに料理の名前やレシピも自分で考えるそうで、「祇園豆腐」と名付けた料理を教えてくれました。

――だしを下に敷いて、卵豆腐を乗せる、煮たどぜうを豆腐にまぜるーー

という料理で、なぜ「祇園」と名付けたかというと、「祇園というと祭り。祭りだから“だし”が出る」。そして「料理人用語で、「どぜう」のことを舞妓と呼ぶ」からそうです。後者は、舞妓さんの踊る姿が何やらどぜうを思わせるかららしい。

 とにかくプロの料理人ですから、妻は、植木だけでなく料理のこつも教えてもらえるので、喜んでいます。お近くの、貴重な存在です。

そういえば、「浅草駒形どぜう」の支店が渋谷にあって、友人2人と昼から酒を飲みながら「どぜう料理」を楽しんだのはコロナの直前だったかな、と懐かしく思い出しました。

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4.隣近所から得る地域情報もけっこう大切です。

これは別のご近所の方からの情報ですが、世田谷区が「オレオレ詐欺」防止のための・電話につける録音装置を高齢者に配ってくれるという情報を伝えてくれた人がいます。

我々老夫婦はこういう情報にうといので、助かります。近くの交番で入手できるというので、早速妻が受け取ってきて、ご近所の助けも得て固定電話に取り付けました。装置は、高齢者であることなど本人確認をして、無料で無期限に貸与してくれるそうです。

我が家に電話をすると「この会話は録音されます」という音声が出て、それから通じるという仕組みです。電話をかけてきた友人などは、ちょっと驚くか、人によってはあまりいい気分ではないかもしれません。しかし、詐欺電話を防ぐ対策にはなりそうです。

世田谷区と警察が一体になった高齢者向けの施策なのでしょう。

こんな風に、家で過ごす時間が増えると、いろいろとお近くとの交流が増えて、これはこれで良いものです。

『院政、もうひとつの天皇制』(美川圭)を読む

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  1. 日本の中世史がご専門の美川圭・立命館大学教授から『院政、もうひとつの天皇

制』増補版(中公新書)を贈っていただき、このほど読み終えました。いま渋谷の丸善ジュンク堂に平積みになっています。

2006年に初版が出て5版を重ね、この4月25日に増補版が出ました。「院政とは何だったのか」という終章が加えられ、新たに人名索引が巻末におかれました。

新書本に索引があるのは珍しいですが、有難いです。とくに本書は、人名が無数に出てくる(藤原~だけで130人以上!)、しかも同じような名前が多いので、系図と索引で彼らの関係を何度も確かめながら読むことになります。

 というわけで、私のような素人には決して読みやすい本ではありませんが、とても面白かったです。

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  1. 著者によると(以下の要約は簡略すぎて、正確でないかもしれませんが)、 (1)院政とは、退位した天皇である上皇(院とも呼ぶ。出家して法皇)が絶大な権力をにぎる、日本独特の政治体制である。

 最高の人事権である、天皇を決める「王の人事権」を完全に掌握することが必須であり、そのため直系の子や孫を天皇の地位につけた上皇が、その親権を行使して政治を行うのが院政で、単なる元天皇である上皇院政を行えるわけではない。

 

(2)もともと上皇という称号は、7世紀末、持統天皇が孫の文武天皇に譲位したときに始まる。

(3)但し、11世紀末の白河院政に始まり、12世紀の鳥羽、後白河、13世紀の後鳥羽までが典型的な院政とされる。

(4)歴史的背景には、

・それ以前の摂関政治(「王の人事権」を、代々天皇外戚となった藤原氏が実際上にぎる体制)からの変化

上皇が最大の荘園領主となっていく過程

・院近臣と呼ばれる、実務能力にたけた中・下級貴族が存在感を強める

・寺社の存在と、彼らの強訴に対抗するための武士への依存と彼らの台頭、そして対決、

などがあげられ、保元・平治の乱(後白河)承久の乱(後鳥羽)後醍醐天皇の倒幕といった武士を巻き込んだ権力闘争を経て、院政そのものは江戸時代まで残るがまったく形骸化していく。「王の人事権」を武家政権が握る時代に移っていく。

 

(5) ということで、本書は、天皇制が変貌し、武家政権が成立していく出来事を「院政」という視点でとらえているところに面白さがあります。

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  1. 著者は、(1)「院政は形骸化しつつも、意外に長く続いていく」。

(2)しかし、「(典型的な)院政とは平安末から南北朝期の日本にのみ存在した、きわめて特殊な天皇制のあり方である。まさに「もうひとつの天皇制」なのであった」と述べます。

(3)そして、「明治以降の近代天皇制においては、天皇の譲位ということ自体が行われなくなり、院政は歴史上消滅する」

(4)としたうえで、今回の明仁上皇から今上天皇への代替わりの意義について「あとがき」で以下のように述べます。

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――院政といえば、マイナスイメージがあり、とくに明治から昭和戦前までの天皇制は親政を金科玉条のものとしてきた。

――戦後、昭和天皇が退位の意志を表明することもなかった。

――「ところが、父昭和天皇をもっとも近くから見てきた現上皇は、戦後の日本国憲法のもとでの天皇制を父よりも深く考えたように思える。にもかかわらず、このたびの譲位について識者の中には否定的な見解もあった。現在の憲法を逸脱するかたちで、天皇が譲位の意志を示されるということは、何らかの政治行為につながるのではないかというわけである。

 しかし、実際はどうだったか。(略)上皇となると、国事行為はもちろんのこと、膨大な儀式と巡幸もとりやめたのである。それは、現在の天皇制のあるべき姿が戦後の憲法下にあることをはっきりと示し、それと矛盾なく譲位の意志を表明しうると天皇自ら体現したことに他ならない」。――

 

(5)こういう著者の指摘は、なるほどと、改めて今回の譲位の意味を再認識しました。

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  1. 最後に、個人的に面白いと思っているのは、英国の王制との比較です。

「世界で退位しない王が2人いる。英国のエリザベス女王ともう1人は?」、
「答えはトランプの王様」というジョークがあるように、英国では自らの意志での譲位という慣習・事例はないのではないでしょうか。

 このあたりを、ケンブリッジ大学で研究されたこともある美川教授に、機会があれば伺いたいものです。

 もう1つ、後鳥羽上皇が仕掛けた承久の乱は1221年、そして英国ジョン王時代のマグナ・カルタ制定は1215年と、ほぼ同時期の出来事です。

しかし、方やマグナ・カルタは曲りなりにも「専制君主から国民の自由を守るための英国最初の憲法制定」という意義づけがなされる。

対して、承久の乱は所詮、天皇側と武士政権との権力闘争ではないのか?

この違いはどこから来るのか?素人の誤解もあるかもしれませんが、そんなことを考えています。

「なにか邪悪なものが迫ってくる」(エコノミスト誌続き)

  1. 今回も英エコノミスト誌5月1日号「中国と台湾」の続きです。前回は「論説」を

紹介しましたが、今回は「解説」と「ビジネス」です。

「論説」は、何としても米中の戦争を回避すべきという“提言”が中心でした。

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  1. 他方で「解説」の方は、情勢判断を主にして「台湾をめぐる戦いは、北京でもいますぐ(imminent)とみる人は少ないかもしれない。しかし恐ろしいことに、全く考えられないシナリオでもない」という、英国人らしい二重否定の文章で終わります。

記事の見出しは「なにか邪悪なものが迫ってくる(Something wicked this way comes)」です。こういう表題を付けたがるのがいかにもエコノミスト誌。

これは『マクベス』の4幕1場に出てくる魔女の言葉です。3人の魔女の一人が,

「親指がぴくぴくするぞ。よくないものがこちらへ来るぞ」(木下順二訳)

と言っているところにマクベスが登場し、マクダフとの戦いを予言する場面が続きます。英国では中学生からシェイクスピアを読ませるそうですから、「ははん」と思いながら読む人も多いのでしょうか。

 

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  1. 以下は、台湾側から見た動きの要約です。

(1)米中の「あいまい」戦略のもとで台湾は豊かな民主主義国家となった。アジアで初めて同性婚を合法化したように、国民は多様性と自由を享受している。

(2)この間、中国は忍耐のしびれを切らしてきたようだ。台湾が繁栄し住民が満足するほど、「平和的に統一する」ことが困難になると焦っているようだ。

(3)特に蔡英文総統は、穏健な現実主義者で、表立って中国を挑発せず、「独立」を口にせず、具体的な成果をあげることで満足感を高めている。中国は彼女を嫌悪している。

――中国がより強圧的になってきた背景にこのような事情もあると同誌は言います。

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4.同時に特徴的なのは、

(1) 2020年のあるアイデンティティ調査によると、成人の66%が「自分は台湾人」と回答している。「台湾人と中国人の両方」は30%、「中国人」と答えたのはわずか4%に過ぎない。言うまでもなく中国共産党は「彼らは100%中国人」と主張している。

(2)しかし他方、別の調査で「中国と武器を持って戦うか?」という質問には「イエス」と答えたのは半分以下にとどまる。

 

5.それなら台湾政府は自らの生存をどうやって守ろうとしているか?

(1)台湾は,仮に中国が侵攻してきたら、自分たちだけでは勝ち目がないことをよく理解

している。

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(2)しかも、成功した民主主義が、それだけでは自国を守る国益に結びつかないことも

残念ながら理解している(painfully aware)。

 

(3)だからこそ大事なのは、台湾を守ることが東アジアの平和維持に必要であり、アメ

リカやその仲間たち自身の国益にも適うのだという認識を拡げることだ。

 

(4)加えて最も重要なのは、台湾の半導体産業の存在がグローバル・サプライチェーンにとっていかに重要かを世界に理解させ、その優位性を維持することだ。

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6.エコノミスト誌はこういう見立てをした上で、世界最大の半導体製造企業TSMC

(台湾積体電路製造)について、とくに同社の拠点集中戦略について、「ビジネス欄」で紹介します。

(1)「危険と隣り合わせに生きる(living on the edge)」と題した本記事は、「米中の技術競争の下でいかに自らを不可欠な存在にするか」に自国の将来を賭ける同社の姿を紹介します。

(2)同社は半導体の先端技術で世界をリードしていて、アップルもアリババも全面依存しているが、その地位を維持するために毎年技術開発に巨額の投資をしている。

(3)かつ、「台湾に資産も知恵も集中させる」したたかな戦略をとる。長期資産の97%が、6万人近い社員(半分が博士か修士)の90%が台湾にいて、研究施設・工場も中国やアメリカの誘いに対して、ごく一部を除きほぼすべてを自国内に留めている。

(4)専門家は「同社の優位性は当分揺らがないだろう」と述べるが、この戦略が有効である限り、TSMCは安全保障の担保となり、アメリカが台湾を見捨てることはないのではないか。

(5)もちろん、米中がこのままこのような状況を放置するかどうかは分からない。危険はある。技術で他国に追いつかれる可能性もある。

しかし台湾はこの「綱渡り戦略」に自らの生存を賭けている。

―――というような内容です。

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7.アメリカやその同盟国の支援を期待しつつも、決して期待すぎない。裏切られるか

もしれない。

まずは自らの力で自らを守る。それには「優れた民主主義と国民の満足度」だけでは足りない。「自分たちのためにも台湾を見捨てるわけにはいかない」と他国が考える状況を作ること、そのために必死になっている姿と覚悟に、読んでいて心を打たれます。

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日本には、「これがあるから世界は日本を見捨てない」という何かがあるでしょうか?

 

エコノミスト誌がとり上げる台湾問題

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  1. 今回は、国際面の大きな関心事を取り上げます。

 バイデン政権下、米中対立が新しい局面に入ったと言われます。中国に対決する明確な姿勢を示し、その中の一つに「台湾問題」があります。アメリカの主導により、4月16日の日米首脳会談後に続いて5月5日ロンドンで開かれたG7外相会議の共同声明でも、「台湾海峡の平和と安定の重要性」が強調されました。

 

  1. 台湾問題について種々の報道がなされている中で、英国エコノミスト誌5月1日号は、「地球上でいまもっとも危険な場所」と題して、2つの記事(論説と解説)を載せました。

 しかし、副題は「台湾の将来については、米中の戦争回避の努力が不可欠である」とあり、何とかして両国の衝突を避けたいとする願いを表明しています。

 そのためには、「過去70年続いた“あいまい戦略”を続けるしかない。戦争でしか解決できない対立は先送りできることが多い」として、「かつて鄧小平が述べたように、より賢い次の世代に任せるべきだ」と提言しています。

f:id:ksen:20210501211650j:plain3. ここで言う「あいまい戦略」とは、

(1)中国はあくまで「中国は一つ」であり台湾は抵抗勢力に過ぎないとの立場を守る(しかし力で制圧することまではしない)。

(2)アメリカは「一つの中国」に同意しつつも、実際には「二つの中国」があるかのように振る舞う。

(3)両国は長年、こういった「高度な曖昧さ(high-calibre ambiguity)」を巧みに使って平和を維持してきた。

 エコノミスト誌は、きざな引用が好きで、ここでは『グレート・ギャツビー』で有名なアメリカの小説家F.スコット・フィッジェラルドの言葉を紹介します。

――「第一級の知性かどうかは、二つの相対立する考えを同時に抱えつつ、しかも知性を働かせることが出来るか否かにかかっている」。

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4.その「あいまい戦略」が今や変化し、崩れようとしている、というのがエコノミスト誌の見立てです。

(1)背景としては、中国に対する、以下のような米国の見方の変化がある。

中国は、権威主義的・国家主義的な色彩を強め、軍事力の強化にも努めてきた。

台湾海峡での中国の軍事力は臨界点を超えて、台湾を武力で手に入れる行動を抑止できないのではないか。

 

(2) すぐに軍事介入がないとしても、中国は様々な「アメとムチ」を使って台湾を親中国にすべく行動するだろう。香港の制圧で自信を深めた同国は、台湾の経済・社会不安と分断を促す様々な戦略、サイバー攻撃などを駆使してくるだろう。

(3)しかも、習近平国家主席の心中が分からない。自らの在任中に「台湾統一」を成し遂げ、歴史に名を残したいという野心がどこまで強烈か、そのための具体的な行動に対する決意はどこまで強く、またいつまで待つつもりか?

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5.しかし戦争は避けなければならない、と同誌は訴えます。

(1)戦争そのものの悲惨さは言うまでもないが、世界的な経済への打撃も甚大である。台湾は半導体産業の重要な拠点であり、先端チップで実に84%のシェアを占めている。

 

(2)台湾が米中衝突の舞台になるリスクが大きい。

 

(3)逆にアメリカが台湾を守ろうとしなければ、台湾の民主主義は死に、アメリカに対する世界的な信頼は揺るぎ、「パックス・アメリカーナ(米国による平和)」は崩壊する。

 

(4)だからこそ、「あいまい戦略で先送りするしかない」と同誌は言います。

そのためには、アメリカは実に難しいバランス戦略をとらなければならない。

一方で、曖昧さが「弱さの表れ」ととられないように、同盟国と協力して対中抑止力を高める。人権を含めて言うべきことは言い、台湾を守る姿勢は崩さない。

同時に、アメリカが危険な方向に方針変換したと中国が受けとるような行動――例えば、台湾独立の支持とか、軍艦の台湾への寄港など ――は控えるべきである。

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6.こういうエコノミスト誌の主張は、いささか迫力に欠ける印象は否めません。

決して、勇ましくはない。しかも中国がどう出るかわからないので、成功するかどうかは分からない。中国は単に時間稼ぎと受け取るかもしれない。

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―――いろいろ考えると、まことに難しい問題に直面していると言わざるを得ません。

日本を含めた民主主義国は、「(台湾における)自由と民主主義を守る」という基本的な姿勢を鮮明にして、そのメッセージがどれだけ中国を動かすか?に賭けるしかないような気もします。

台湾の将来は日本にとって重大な問題です。そして「そんな生ぬるいやり方では、有事を防げない」と思う人も少なくないかもしれません。

他方で、「台湾の将来なんて関心ない、香港だって救えなかったじゃないか」とクールに考える人も世界には多いかもしれない。

 「地上でもっとも危険な場所」と呼ばれて住む人たち自身は,何を考え、どう行動しようとしているのでしょうか?個人的には「頑張ってくれ」としか言えないのですが・・・

コロナ禍にあって、養老孟司さんは「ひょうひょうと年を重ねる」

  1. 前回報告したPCトラブルの件では、幸いに身近の先生の助けでダイナブック

動くようになりました。

 世田谷区のワクチン接種の予約はネットか電話かで行います。お陰で私は、新しいPCを使って5月30日の予約ができました。

 しかし、この成功に過信したのか、妻の予約もしてやろうと余計な親切心を出して挑戦したところ、パスワードの入力に失敗しました。いちど入力ミスをすると、その訂正が厄介で、以後ログインができない状態です。

 かように、老人がデジタル時代に生きていくのはなかなかストレスがたまります。

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2.もちろんデジタル社会の利点も大きいです。

前回のフェイスブックで、PCダウンのためMasuiさんのコメントに返事ができず申し訳なく思っていたら、岡村さんが適切に対応してくださいました。お二人は面識がなくとも、ITを通して繋がるという面白い時代になりました。

 

 また、私のフェイスブック友達にはElio Ratto君というイタリア人がいますが、彼とは55年も昔、アメリカのテキサス州ダラスで一緒に学びました。その間旅行をしたり、よく遊びました。古い友人です。

 帰国してから彼はローマの銀行に勤めてアリタリア航空のスチュアーデスと結婚し、新婚旅行に日本にやってきました。我が家を訪れたときの写真もあります。

 以来音信普通になっていたのですが、お互いにフェイスブックに参加していることを「発見」して、また「友達」になりました。

デジタル時代では、こういうことがあるから面白いです。 

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3.古い友人といえば、悲しい話もあります。

4月の初めに妻と二人で長野県茅野市の田舎家に5泊しました。

帰京したところ、多くの留守電が入っていました。長い間ご無沙汰している小学校の同級生N君からで、「この度施設に入った。携帯電話の番号は~」という伝言が何回も入っています。

その中には朝早いのや夜遅く掛けてきたものもありました。

しかし指定の電話番号にかけると「今は使われていません」という応答でした。

電子メールを入れたところ「宛先不明」で戻ってきました。

最後の手段として、前の住所に手紙を出しました。

「ひょっとして転送してもらえるかもしれないと思って、一応出してみます」と書きました。

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  1. 数日して、若い女性の声でわが家に電話があり、「Nの娘です」と名乗られました。

幸いに以前の自宅は、お嬢さんが住んでいる。それで私の手紙を見て連絡をくれたものです。

 そして、「実は父は昨年末とつぜん認知症になりました」と告げられました。 

・まだ初期の症状ではあるものの、徐々に進行している。

・人によって症状は異なるようだが、彼の場合は四六時中携帯電話を離さず、知る限りの友人やかっての会社の同僚に電話する。

・今ではPCもやらず、本も読まず、テレビを見るのと携帯が何より大事になっており、取り上げようとしても応じないので困っている。

・時間の見境なくかけるので迷惑を被っている人も少なくなく、そろそろ使用できない状況にせざるを得ないと考えている。その時の本人の精神状態が心配ではある。

―――というような話でした。

留守電の回数が少し尋常ではないなと思っていただけに、驚きは少なく、むしろ悲しい気持ちでした。

 お嬢さんからは、「お留守で電話にお出になれなかったのは、かえってラッキーだったかもしれません」と言われました。

 電話が通じても、きちんと会話が通じるとは思えないとも。

 施設の住所も教えてもらったので、「いちど訪問して直接顔を見れば、昔のことを少しは思い出して会話が成り立つかもしれない」と訊いてみました。

しかしこのコロナ禍で来訪者は断っており、娘さんといえどもずっと会っていないという返事でした。

 このまま会えずに終わってしまう可能性が高いのかなと寂しく、昔を懐かしく思い出しています。

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5.4月16日の毎日新聞は、『バカの壁』の大ベストセラーで著名な解剖学者養老孟司さんを取材して、主として「老い」をテーマに記事にしています。

そして、83歳になる「ひょうひょうと、スマートに年を重ねる養老さん」と紹介します。

――「さっそく近況を尋ねてみた。1年以上続くコロナ禍で外出が制限され、昆虫採集や自然散策が好きな養老さんもつらい思いをしているのではないか、と。

 表情は暗くない。オンラインでしょっちゅう、虫好きの仲間と顔を合わせているという・・・」。

 しかし養老さんは同時に、デジタル化への批判も口にします。「技術には裏表が必ずあって、使い方次第です」、「向こう(機械)に勝手に基準があって、人間の居心地のいいようになっていない」と語ります。

ワクチン接種の予約に苦労しているだけに、ご指摘の通りと思いました。

PCダウンのこと・友人の絵を国立新美術館で見たこと

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  1. 我が家にも、「新型コロナウィルス接種券」が世田谷区役所から届きました。

75歳以上の対象者全員に4月27日までに届けるとあり、予約は28日からインターネットか電話で受け付ける、接種はまず区の施設から、連休明けから順次実施するといった内容です。

 「予約」は混雑しそうで、果たしていつ通じるかどうか。

 

  1. ネットの方が電話より早そうですが、実は私のパソコンは、最近ダウンしました。

 救助隊の長女の亭主が駆け付けてくれて応急処理をしてもらいましたが、「重症」で本日の土曜日再び自宅に来てくれて目下対応中です。

 ただし今後も不安が残るというので、ダイナブックの小さいPCをもう1台急遽購入し、初期設定など自分できないので、これもやってもらいました。

 ということで、いま彼がまだいますので今のうちに新しいPCでブログを書いてみようと1日早くアップしています。

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  1. パソコンは便利な機械ですが、一度トラブルと私のような技術音痴人間にはお手上げです。(1)そもそも、なぜ動かなくなったのか、理由が分からない。

 過去に一度だけはっきりした原因があって、お茶を飲みながら操作していて、誤って誤ってPCにこぼしてしまったことがあります。そのためハードディスクが破損して動かなくなり、メーカーの修理センターまで持参しました。

 こういう過失は反省して、以後気をつけるようにしています。

 

 (2)  しかし、今回を含めて他にもトラブルは何度も起きていますが、その原因が私には分かりません。従って、教訓を得ることがなく、再発防止ができず、これが悩みです。

 やはりPCは精密機械なので乱暴に扱ったりしないように、とはかねて注意されているのですが、どうも生来不注意で不器用なことも影響しているかもしれません。もっと優しく接する思いやりが必要かもしれません。

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(3)  それと、このコロナ禍で、PC君いささか働きすぎという事情も影響しているのではないか。皆様もそうでしょうが、ステイホームで、PCに向かう時間が格段に増え、一日のほとんどをさわっていると言っても過言でないかもしれません。

 とくに私の場合、スマホの小さいキーボードが苦手で、ほぼ100%、パソコンを頼りにします。

そして人に会う機会が減った分、メールの交信やネット検索が格段に増えました。おまけに、ZoomやLineなど新しい使用法も加わりました。

 これでは、我が愛するPC君もさすがに、「俺の使用者はブラック企業だ、過重労働だ」と悲鳴をあげてついにストライキを起こした、その気持も理解できるように思います。

  

(4) 働きすぎは、人間でもロボットでも機械でも、よくありません。

 PCは何と便利なものかと、このコロナ禍のなかで痛感しているだけに、いったん動かなくなるといささか禁断症状になってしまう、こんなことではよくないと反省もしました。

 PCへの感謝を忘れずに、時には少し休暇をあげる。こちらはその間は、昔通りに活字の本を読んだり、日記や手紙など手書きの文章を書く、そういう時間の過ごし方も大切だろう、と改めて感じました。

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4.それと、「不要不急の外出は自粛しろ」と言われて、その通りご指示に従わないといけない

けど、やはり人間は社会的動物、十分の注意をしつつ少しは外に出ることも大事ではないか。

 と思って、緊急事態宣言の直前の23日の金曜日は、六本木の国立新美術館に行って絵を見てきました。

(1)「光風会展」という公募の展覧会で、昔の職場の友人から「入選した」という案内を頂いた

ので、出掛けたものです。

 彼の絵は「吹雪く夕べ」と題して、「トリニティ・チャーチを真ん中にして、その他のビルをアレンジしたものです」という本人の説明です。

 色合いと画像が素敵です。眺めながら、絵には前景と人間の姿も大事だなと感じました。

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(2)「トリニティ」とは三位一体の神を指すそうですが、ニューヨーク市の南端、マンハッタンの

金融街に近く、ブロードウェイとウォール街の交差点に位置する、古い英国聖公会の教会です。 

ニューヨークの連邦準備銀行証券取引所もすぐ近くです。2001年の9.11同時多発テロで攻撃され倒壊した世界貿易センタービルも近くでした。

実は、昔私がこの友人と一緒に働いた銀行の建物も、教会のほぼ向い側にありました。

絵のお陰で、ニューヨーク勤務時代など懐かしく思い出すよい機会になり感謝しています。

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(3)公募ですから、素人の皆さんの絵が沢山出品されています。

 受賞作品の1つ「雪が降る」は、オーストリアのヴォルフガングという街の風景だそうです。「この光景を見て、何が何でもこれを描きたいと大事に大事に持って帰りました」と作者は語っています。

(4)会場にはけっこう人も出ていました。

私は、昨年1月から、映画館、音楽コンサート、美術館などまったく足を踏み入れていません。こういう建物の中に入るのは、コロナ後今回が初めてです。

久しぶりに、絵を愛する画家たちの力作を拝見して、気持ちよく美術館を後にしました。