ksen2006-02-03

ひょっとして、司法取引に関心のある方がおられたら例によって、ネット百科事典の解説をご覧ください。利点と問題点とが整理されていますが、私は、いちばんの利点は、事実を喋るというインセンティブが働くことではないかと考えています。
日本の場合、喋れば不利になるという思いが強いために「記憶にありません」を始め、嘘をつくことへの抵抗が少ない。我々も、被疑者からは、真実をあまり期待していないのではないでしょうか。司法取引は、むしろ、嘘をつくのは大罪、それよりも司法と取引をして真実を語ろうという心理に、被疑者を向けるのではないでしょうか?従って、社会復帰もしやすいし受け入れやすい・・・となっていくのではないかと思います。


マイケル・ミルケンについては、金融界の方を除いてあまり関心がないかもしれません。1980年代特に後半のアメリカは「M & Aの時代」「GREED(欲望)の時代」と呼ばれましたが、ミルケンはその象徴的存在でした。machidaさんがブログにこの事件を取りあげたノン・フィクション『Den of Thieves、ウォール街・悪の巣窟』の邦訳を紹介しておられます。私も実はこの本、エッセイの題材に取りあげたことがあります。また、オリバー・ストーン監督の映画『ウォール街』(1987年)もミルケン他をモデルにしたと言われています。
映画の中で、マイケル・ダグラス扮する企業買収家がターゲット先の株主総会で”Greed is good. Greed is right. Greed works・・・・”と演説する場面が印象的です。


マイケル・ミルケンは、投資不適格とされていたジャンク債を発行して、ハイリスク・ハイリターンを狙う投資家にはめ込むという金融手段で、2流の投資銀行だったドレクセル・バーナム・ランベールを一躍、トップクラスに押し上げました。その後、違法取引で会社も本人も起訴され、ジャンク債市場の暴落にあって、会社も倒産しました。

少し長くなりますが、エッセイに書いたミルケンたちの行動原理について以下3点補足します。
1. 彼らの多くが、ユダヤ系で、成績優秀、有能かつ猛烈なワーカホリックだという点。ミルケンはとくに際だっており、カリフォルニア大学バークレー校をsumma cum laude (最優等)でペンシルベニア大学ウォートンスクールを「オールA」で卒業。1969年にドレクセルに入社後は、ロサンゼルスのオフィスで朝の4時半から夜の8時まで猛烈に働き、ほとんど私生活のない毎日だったそうです。一度休暇を取って家族とハワイに滞在した時も、NY市場の開いている朝3時から8時までは仕事をしていたとのこと。
2. どこかの国と違って、組織暴力や政治資金とのつながりはいっさいなく、選挙に出ようなんて露ほども考えず、その動機は純粋に個人のGREED(強欲)であったようにみえます。ジャンクボンド市場を切り開くことで巨額の富を得たミルケンの、86年時点の純資産は実に30億ドル(3千億円強)で、全米でも十指に入る富豪になったそうです。彼らの行為は、100パーセント自らのリスクと責任とに依っており、誰かに命令されたとか脅かされたとかいうことはみじんもなく、その個人主義的な悪への衝動は、一種の爽快ささえ感じさせます。
3. そして最後に、度々触れた司法当局に対する変わり身の速さです。これに対する司法の方もきわめて現実的・妥協的であり、有罪さえ勝ち取れば、刑の軽減も裁判の回避も辞さず、身ぐるみ剥ごうとまでは考えず、アメリカン・プラグマティズムの見本のような行動をとります。

何れにせよ、日本のGreedだのホリエモンだのとはいろんな意味で少し桁が違うような気がします。。だからこそ、桁違いのフィランソロピストも生まれるのかもしれませんね。真面目な同胞からは批判されそうですが、海外では、ホリエモン程度で大騒ぎしているのか、と思っている人もいるかもしれません。