ksen2006-02-06

今日もまだ、マイケル・ミルケンに登場してもらいます。

1.まずは彼の主な慈善事業・非営利活動は以下の通り。
(1)ミルケン・ファミリー財団・・・1982年に正式に発足。教育と医療の研究助成。前者では85年以来全国教育者賞を設け、「教育のオスカー賞」として知られている。
(2)ミルケン・インスティチュート・・・経済調査を主とするシンク・タンク
(3)前立腺ガン財団・・・本人が末期の前立腺ガンを奇跡的に克服したこともあって、その治癒に力を入れており、この分野では世界最大の組織とのこと。

以上の通り、(1)の活動は起訴以前からスタートしています。


2.インベストメント・バンカーとしてのミルケン
80年代のミルケンについては、自らの利得のために違法取引に手を染めた悪の張本人・GREEDの象徴というレッテルとは対極的な見方もあります。
即ち、金融のイノベーター・変革者であり、それまで資本市場へのアクセスが叶わなかったアントレプレナーに対して、ジャンクボンド・LBOといった新しい金融手段を開発し、事業拡大・M&Aへの道を切り開いたという評価です。これらのアントレプレナーの中には、黒人や女性も含まれます。
90年代になると、さらに1歩進めて、彼の行為は違法ですらなかったと主張する学者まで現れます。
これにからんで、最近、『巨大投資銀行』(上下2巻、黒木亮、ダイヤモンド社)を面白く読みました。金融以外の方にはちょっと専門的すぎるかもしれませんが、80年代半ばからアメリカの投資銀行に働く,何人かの日本人バンカー・トレーダーの活動と時代とを題材にしています。フィクションですが、モデルらしき実在の人物もいて、多少この世界に関わりのあった人間にとっては興味ある内容です。
この中で著者は、登場人物の2人の日本人バンカーに以下のように言わせていますが、これは上述した、90年代後半の「ミルケン修正主義(Milken Revisionism)を取り入れたものでしょう。
・・・・
「年末までには判決が出るだろう。たぶん有罪だよ」
「それにしても『帝王』から一気に犯罪者に突き落とすなんて・・」
桂木は複雑な表情・
桂木にはミルケンがそれほど悪いことをしたとは思えない。
「色々な思惑が絡んでいるからなあ」
橘は考え込む顔。「ジュリアーニ(連邦検事)は次のニューヨーク市長を狙って、金持ちのミルケンをやっつけて大衆にアピールしたい。ウォール街エスタブリッシュメントは、自分たちの領域を蚕食してくる成り上がりのドレクセルを叩きつぶしたい。議会はアメリカの不景気をLBOのせいにするため、スケープゴートを探している。・・・・・」


3.何れにせよ、この人物きわめて、controversial(論議の的となる)な存在であることは間違いないでしょう。
そして何と言っても、一時はウォール街にその名を轟かせ、巨富を得、一転して犯罪者、そして今や「医療を変えた男」(FORTUNE誌)と呼ばれて一級のフィランソロピストとして復活したという生き方は、華麗で・ややうさんくさく、アメリカの象徴ともいえるダイナミズムを感じさせます。