再び野口健さん、ノマドとハイブリッド

今回も野口健さんについて書きたいと思います。

その前に、前回十字峡さんからの面白い指摘があったので、
私たち夫婦が、昨年1年(730日)どこにどれくらい居たかを考えてみました。


およその数字ですが、東京に390日前後、京都市宇治市に280日前後、
茅野市に70日前後といったところです。

その東京の選挙結果を、妻は遅くまでテレビで見ていました。


以上の数字を考えながら、例のNHK緊急インタビュー第2回「世界を襲う5つの波」
ジャック・アタリが言った「21世紀はノマド(移動する人たち)が増える」
という言葉を思い出しました。


私の場合は、彼の言う意味ではなく、やむなくという面が多いですが、
この「ノマド」というコンセプトはよく分かりますね。


21世紀の人間は「ノマド」と同時に「ハイブリッド」が増えるのではないか
という気がします。



10日に來学した野口健さんから頂いた『確かに生きる、落ちこぼれたら這い
上がればいい』(集英社文庫、2009年6月)を読み終えて、そう思いました。

当日、父上の野口教授は息子さんを紹介して「正義感と実行力、この2つには
感心している」と述べましたが、それ以外にも、人柄の良さに加えて、
「生命力」を感じます。

なぜこんな人間が育ったのか。家庭の教育もあっただろうということで
父親は子育ての成功例として、たびたび新聞やテレビに登場します。

もちろん、それもあるでしょうが、「ハイブリッド」であることも、
大きいのではないか。

著書の冒頭によれば・・・・「僕のじいちゃんはエジプトとレバノンの混血で、
ばあちゃんはフランスとギリシャ、親父が日本と、
僕には5つの国の血が流れている」。

様々な血が流れ、様々な文化の影響を受けていることが、
その人間を大きくさせているのではないか。


彼はもちろん「ノマド」」でもあり、様々な・異なった血が混じり、
自分の居る場所を自由に変える人間の典型でしょう。
こういう人たちが世界を変えていくのではないか、という
気がします。

『確かに生きる』は前に出した本を加筆したものだそうで、
よく知られた話もまた出てきますが〔例えば、英国立教で暴力事件を起こし、
1ヶ月自宅謹慎になったときに、植村昌巳
の本に出会い、登山家を目指すようになったエピソード〕、実にいい本ですね。


この本は「橋本龍太郎氏、衛藤潘吉氏、野口容子氏に捧ぐ」とあります。
橋本元首相は山仲間。かれがいかに敬愛していたかは、この本を読むと
よく分かります。衛藤さんは彼を精神的にも経済的にも支えた、もと
亜細亜大学学長。


そして、
野口容子さんは、彼が「育ての母」と呼ぶ人で3年前に京都で亡くなりました。
私が始めてお会いしたのは日本国シドニー総領事夫人でしたが、
なんとも庶民的な人柄の方でした。「うちのお父ちゃん・・・」というので
誰かと思ったら、総領事のことでした。海外でいろんな外交官夫人にお会いしました
が、こんな人は初めてです。生まれも育ちも京都です。



この本で印象に残った言葉や出来事をすべて書く紙数はとてもありませんが、
1つだけ紹介します。


あとがきによると、彼は2007年1月、いまはエジプトに住む、
生みの母、野口モナさんを日本に招待したそうです。
24年ぶりの来日だったそうです。
以下、彼の文章です。

・・・小学校5年生のときにかあちゃんは他の人の子を妊娠して家を出て行った。
そして両親は離婚。僕は父に引き取られ、母は祖国エジプトに戻った。

・・・最後に会ったのは8年前。エジプトで再会。・・・かあちゃんの厳しい生活環境に
胸が痛んだ。いつか日本に呼びたいと思いながらも、複雑な過去を抱えているだけに
実現できないでいた。自分の結婚式、また娘の誕生のときなど、きっかけは何度か
あったものの勇気がなかったのも事実。

そして昨年、父の再婚相手で僕の育ての母、容子が病で亡くなり、
もっと生きているうちに親孝行するべきであったと悔やみ切れない気持ちで一杯だった。・・・

〔略〕

(どんな仕事をして生活しているか?という健さんの質問に対して)
「ビルのトイレなどを掃除している・・」

かあちゃんの告白に僕は心から嬉しかった。遠く離れていたが同じ仕事をしていた
のだ。翌日、かあちゃんは国に帰ったが、いつの日か一緒に富士山でゴミ拾いを
したいと心に誓っていた。・・・・

いかにも健さんの人柄が匂ってくるような、いい文章です。