英国における社会起業家養成機関

滞在中の少しまじめな時間(他が不真面目というわけではありませんが)
についても記録しておきます。



8月2日(月)に、「社会起業家のための学校」(スクール・フォー・ソーシャル・アントレプレナー、SSE)を訪問し、ニック・テンプルという政策&広報担当のディレクター(日本流に言えば、部長さんでしょうか)に会って2時間弱、いろいろと話を聞きました。
http://www.sse.org.uk/school.php?schoolid=6


1. 実はやや衝動的ですが、せっかく英国に居るので少しは社会起業家に関連する動きを知りたいと思い、グーグル検索で調べて、面白そうだと思って朝直接電話をしたところ夕方会ってくれることになりました。
こういうフットワークの軽さが、NPOの良いところですね。大企業だと、(特に日本では)紹介でもないとなかなか会ってくれないでしょう。

2. 場所は、ロンドンの東、いわゆる「イーストエンド」といわれる一角です。

19世紀ディッケンズの「オリバー・ツイスト」の舞台になったあたり。
かっては悪名高い・物騒な場所。いまは再開発されていますが、それでも、英国の言い方を使えば、労働者階級と移民の街でしょう。
いわゆる山の手の「ウェスト・エンド」(メイフェア、ナイツブリッジチェルシー等々)とはまったく雰囲気が違います。

地下鉄で、シティ駅やバンク駅(「バンク」は中央銀行・バンクオブイングランドのこと)を通りすぎて東へ、ベスナル・グリーンという駅には初めて降りました。
すぐ近くに「子供のための博物館」というのがあり、世界の様々な玩具や子供用の乗り物やお人形が展示されていました。

もちろん非営利組織であるSSEがこういう場所にオフィスを構えているのは当然でもあり好感も持てて、これがウェストエンドあたりにあったら、ちょっとどうかなという気になります。オフィスも古いビルの一角にある粗末なものでした。

3.SSEは「スクール」という名前がついていますが、まあ「養成塾」といってよいでしょう。1997年に、(私は知りませんでしたが)英国では著名な社会起業家である、マイケル・ヤング卿が設立。以来、社会起業家を育てるプログラムを実施して、すでに500人の卒業生を出している。
  今年であれば、180人が応募して面接で40人が入学したとのこと。19歳から73歳まで幅広く、男女はだいたい半々とのこと。


3. コースは原則として、週に1回、終日で、1年間で修了する。
 プログラムの特徴は、徹底して実践的なこと、1対1のチューターがつくこと、自分で考え・発表し・仲間と話し合うこと、社会企業の現場を知ること。
 従って、教科書はない。理論は教えない。講師陣はすべて活動家であって、大学の教員や研究者は居ない。例えば、金融や財務、マーケティングなどの知識習得は必要だが、それらは活動家の話から実践的に学ぶ。もちろん卒業生も講師や現場提供の大きな役割を果たしている。


4. フランチャイズ組織をとり、ロンドン以外に英国に7箇所、提携校があり、海外にはすでにアイルランドとオーストラリア、今後も増やしたいと考えている。

財務について詳しく聞く時間がなかったが、自立した組織のようで、基金、寄付金および提携校からのフランチャイズ・フィーが主な収入。政府からは設立時に援助を得たとのこと。学生からの授業料が収入に占めるのは全体のわずか5%とのことで、きわめて安い授業料だと思われます。


5. 印象に残ったのは、彼の「ロングテール」という言葉です。

ロングテールを知っているか?」と訊くので
「もちろん知ってる」と答えたところ、
「私たちが目指しているのは、そこなんだ。」と図に描いて説明してくれました。

ご承知のように、ロングテールとはマーケティング用語の1つ、アマゾンの手法がその代表例で、あまり売れない商品がネット店舗での欠かせない収益源になるという考え方です。

彼によれば、概して英国の社会起業家に対するアプローチが一般に米国と違うのはその点だと思う。
 米国はどちらかといえば、少数の傑出したリーダーを育てて、エリートによる大きな組織を大事にしようとする。
我々は、規模を重視しない。小さくても、できるだけ多くの人に、社会やコミュニティを変える機会に参加してほしい。
MBAのような資格がなくても大丈夫だということを証明したい。
もちろん、英国でもオックスブリッジのような名門大学が講義プログラムに取り入れているが、これはアカデミックな内容である。
我々は、小さな規模・草の根の実践家・活動家を育てる。


6. このテンプルさん、まだ若者ですが、遠い日本から突然現れた年寄りに、熱心かつ丁寧に応対してくれました。

「遠い日本」と書きましたが、何と彼は奥さんと2人で休暇をとって、1ヶ月の日本旅行から帰国したばかりとのことでした。

暑い日本、円高の日本ですが、それでも大いに楽しんだと、好印象をもって旅したようで嬉しいことです。

会話の時間が限られていたので、日本での体験談を詳しく聞くことができず、まことに残念でした。

1ヶ月の間に、東京、箱根、京都、大阪、広島、高野山、を訪れたとのこと。
「大阪では天神祭りを見物した。クレイジーだが実に面白かった」と。
私は、彼らが広島にも立ち寄ってくれたことが印象に残りました。

テンプルという苗字は「お寺」ですが、これも日本人と話すときに良い話題になったようです。
京都でタクシーに乗って「京都にはお寺が4万もあるよ」と運転手さんが言うので
「今日は、4万と1になりましたね」とジョークで答えたと話してくれました。