東北関東大震災と日本人の心性

福島原発事故の進展にいまひとつ明るさが見えないいま、用件があって明日から2日京都に居る予定です。
せめて京都は少しは明るいとよいのですが。


今回も海外から拾った大震災関連の記事の紹介です。
記事といっても、事実の報道ではなく、むしろエッセイ的なものが私の主たる関心で、この時期、例えばアメリカ人が日本人について何を書いているかフォローしています。


1. ご紹介したい文章が幾つかあるのですが、今回は少し前になりますが19日付のニューヨーク・タイムズ紙に、もと東京支局長ニコラス・クリストフ氏が「日本人が教えてくれること」と題して寄稿している内容です。
彼が11日直ちに同紙に載せた「日本への同情、そして賞賛」については、
「がまん(gaman)」と「がんばってください(ganbatte kudasai)」と題する13日ブログで拙訳を紹介しました。

http://d.hatena.ne.jp/ksen/20110313


2.今回の文章も趣旨は変わっていません。
前回は大地震の報を聞いて自ら取材した阪神大震災時の日本人の行動・心性を思い起こしたもの。

今回の寄稿は、福島原発事故を知って再び、日本人の
・私心のなさ
・ストイシズム
・規律
に触れた文章です。そして、なんと、忠犬ハチ公の物語を紹介し、これが日本人の大事にする忠節(loyalty)と堅忍(perseverance)と義務(duty)、献身(dedication)の象徴であること、

「出来れば、いつの日か、原発事故の作業にあたる人たちの像を建てて欲しいと願う」
と書きます。

かって日本に5年住んだという氏は、日本人は、不可能と思われるような困難に威厳(diginty)と気品(grace)をもって立ち向かう偉大な民族であると称えます。


3.もちろん、前回も書いたように、いじめや閉鎖的であることなど日本社会には問題も多い。日本のコミュニタリアニズム(共同体意識)は弱まっている。

「しかし、それでも私たちアメリカ人は、ほんの少し、日本社会に近づいた方がよいのではないか」


「日本に暮らしたとき、息子の誕生パーティにミュージック・チェア(音楽が終わると1つ足りない椅子に座るゲーム)で遊ぼうとしたが大失敗だった。日本の子どもたち、特に女の子は他人を押しのけて自分が椅子に座ることを嫌がった・・・」

と書く同氏は、以下のように締めくくります。



「私たちアメリカ人は、いうまでもなく、我が強い。人生や暮らしを勝ち負けでとらえようとする。ミュージック・チェアを嬉々として遊ぶのがアメリカの子ども達である。

しかし私は、私たちも、共通の善のために自分の欲や利得を少し我慢しようとする日本人の心性に学べればよいなと願っている。
今は日本の悲劇に同情を寄せる時期であることは言うまでもない。
しかし同時に、ほんの少し学ぶ時期でもあると思う」。


4.正直言って、少し面映ゆいところもありますね。

氏は、
「実は、日本で仕事をしていた時は、日本政府の無能力や二枚舌についてしばしば批判的な記事を書き、日本を敵視していると批判されたこともある人間です」

「しかし、本当を言えば、その時から、私心のない・礼儀正しい日本人がとても好きだったのです」と書きます。


5.(感想1)
ニューヨーク・タイムズと言えばアメリカでの一流の新聞で、このコラムをどれぐらい多くの読者が共感をもって読んだかは分かりません。


それは別にして、私が感じたのは以下のようなことです


(1) 人は得てして、自分がいま住んでいる場所や人や、政府やリーダーに対しては、欠点が多く目について不満が出てくるし、批判的にもなる。

(2) 対して、自分がかって住んだ、そしておそらくもう2度と住む機会が無いであろう国や街や人々に対しては、良い思い出だけがいつまでも残り、第2の故郷という想いが強くなる
(もちろん、不愉快な経験が多くて、いつまでも忘れられなく、その土地や人が嫌いになって離れるというケースもないことはないだろうが、少ないのではないか)。


少なくとも、私であれば、12年暮らした京都・宇治であり、9年暮らしたニューヨーク,3年半のシドニーであって・・・・・懐かしい・良い思い出とともに語る気持ちしか出てこない)


(3) ということは、出来れば多くの人に、(日本の中であっても)1つの土地に居続けるだけでなく、あちこちを移動して、あちこちの人を知り、街を知るという機会を持ってもらいたい、という気がする。

(4) まことに大げさに言えば、これ、世界中の人が仲良くなる、世界平和への第1歩ではないだろうか。


(5)てなことを書いたら、おそらく千年も先祖代々、京都に生まれ・住み、離れたことのない私の従妹から大いに反論されるかもしれませんが・・・・


6.(感想2)
最後に、クリストフ氏の忠犬ハチ公の文章を読んで、5年以上昔に、京都を訪れた
あるアメリカ人(ミセス・アリス・テッパー・マーリンの夫でニューヨーク市エコノミスト
からやはりハチ公の話を散々聞かされたことを思い出しました。
ブログにも載せました。

http://d.hatena.ne.jp/ksen/20051229
http://d.hatena.ne.jp/ksen/20051231
アリスからは震災直後、お見舞いのメールを貰いました。
直ちに、NYのジャパン・ソサイエティに行って募金をしたと書いてあって、嬉しかったです。

なお、ここで紹介したエッセイのオリジナルのサイトは以下の通りです。


http://www.nytimes.com/2011/03/20/opinion/20kristof.html?_r=1&scp=1&sq=The%20Japanese%20could%20teach%20us%20a%20thing%20or%20two&st=cse