1. はじめに、前々回のブログで豪州でのちょっと冷たい反応を紹介しました。
有難いことに、これを読んだ在シドニーの友人(奥さんは日本人)から長いメールを貰いました。
ごく一部の「愚かな」人たちの言動はどこの国にもあるし、無視してほしい、いま豪州の大多数の人は悲しみと応援の気持ちで日本を見ているという趣旨で、
お礼をすると同時に一部の情報を軽率に紹介したことのお詫びもしました。
2. 他方でここ数日私は、「危機におけるリーダーシップ」について考えています。
もちろん、そんな資格も経験も能力もないのですが、それでも以下のようなメッセージを伝えたいと思います。
(1) 何度も言うが今は批判しても仕方ない。
これは無益であるだけでなく、時に有害になると思うからです。
批判したことでリーダーシップや対応が改善・向上することが期待できるなら、する意味があるが、どうも効果は逆ではないか。
メディアの、特に夕刊専門の大衆紙、読んだことはないが、売店で見かける某紙の昨日の見出しは
「この国の再生復興とても無理」「東電お手上げ、制御不能」・・・等
中身は知らないが、こんな見出しは「有害」と思います。
またまたリンカーンばかり持ち出しますが、あの「人民の人民による・・」のゲティスバーグ演説で知られ、民主主義の権化のように言われる彼は、
南北戦争にあたって、戦争に批判的なメディアを厳しく統制し、徴兵制の施行に反対する動きを抑えつけた。民主主義を踏みにじるという強い非難にも動じなかった。
私は、もちろん報道管制を主張している反動のつもりは毛頭ありませんが、いま少し思いやりと品性を保ってほしいとは思う。
(2) 仮にリーダーに対する批判が意味ないとしたら、それでは今何が必要か?
私は
・良きスピーチ・ライターと、
・良きアドバイザーだと思います。
仮に「想定外」の事態であったとしても我々は歴史に学ぶしかないのです。
阪神大震災、関東大震災、そして言うまでもなく、日米戦争において、
時のリーダーはどう行動し、どう判断し、どう対処し、どう発言したか?
もちろん良き・悪しき(反面教師としての失敗)の両方の先例から知恵を得ることが大事と思います。
リーダーにはいま自分で調べたり勉強したりする時間はないでしょう。
とすれば、良きアドバイザーが過去の危機から・歴史から、学ぶことを、先人がどうしたかを伝えることが
求められているのではないか。
メディアの役目はそこにあるのではないか。
3. そんなことを考えていたら、ニューズウィークに興味深いコラムを見つけました。
タイム誌とニューズウィーク誌の最新号はこの大震災を特集していますが、後者に
「connecting the dots(点と点をつなぐ)」というコラムがあり、この号のコラムはいま世界中の危機に直面している
オバマ大統領を取り上げています。
以下要約します。
(1) 「この困難な時期にあってオバマはアドバイスを得るために過去の大統領の事例を調べているはずである。
世界に起きる数々の災害、危機、そして戦争の最中にあって、最良の先例となる大統領は誰か?」で始まり、
(2) アメリカの大統領は世界の危機に責任を負っており、これほど重い・かつ孤独な責務はない。
たったひとりで決断しなくてはならない。
過去においても、
彼らは時に疲労困憊し、猛烈なストレスに見舞われ、精神的にも肉体的にも追い詰められた。
(リンドン・ジョンソンは個人として危機的な状況に陥ったこともあった)
とくに今、オバマは、アメリカ国内の多くの問題のみならず、イラク、エジプト、リビア、アフガン、テロの懸念、中国、
北朝鮮の動き、欧州(ポルトガルなどの財政危機)さらには日本の災害・・・・これほど多くの危機にいちどに直面している大統領は
過去にも少ないのではないか。
人間ひとりで抱えるにはもはや、能力の限界、ブレイキング・ポイントに近づいているのではないか。
(3) 現在のところ、オバマは、このような苦境にあって、リンカーンやFDルーズベルトと同じような、
冷静さと沈着さを保っているようにみえる。
しかもオバマにとって幸いなことに妻ミシェルの存在によって、リンカーンほど孤立感は深くないはずである。
(リンカーンはさまざまな事情から精神的に不安定な妻トッドを抱えていて、彼女から慰めや支えを期待することはできなかった
−伝記を読んでいて、夜眠れす、悪夢におそわれる、彼の孤独に胸をつかれる思いがすることがある)
(4) 危機において大衆は大統領に対して、一方でロマンテティックな勇敢さを期待し、他方で静かなる有能さを発揮してほしいと願うものであり、
大統領はこの2つの緊張に引き裂かれることになる。
いまオバマが学ぶべきは、JFケネディのような前者ではなく、アイゼンハウアーが、1956年の冷戦時、
ハンガリー動乱とスエズ運河国有化の危機にあたってとった、冷徹かつ現実的な決断と行動ではないか
4. 紙数もあってこの危機とアイク大統領の行動についての中身は省略します。
しかし私が、この文章を読んで、なんとなく嬉しかったのは、アメリカにはこういうことを書くコラムニストが居るのだという読後感であり、
オバマもさぞ勇気づけられるだろうなという思いです。