なぜいまソーシャルビジネスか?

1. osamuさん、4月16日付コメント拝読しました。
   吉村昭さんの『三陸海岸津波』、海に生きる人たちの厳しい暮らしが伝わってきますね。
三陸海岸は私はまだ訪れたことが無いのですが、美しい海岸とおいしい魚、素朴な漁村と人々を故吉村さんはたいへん愛して何度も訪れたようです。いまの惨状と厳しい被災地の様子をみたら、どんに辛く思うことでしょう。


2. 私の方は、4月19日、京都で「なぜいまソーシャルビジネスか?」という話をする機会があったので、その記録を残しておきます。
KSEN(京都ソーシャル・アントレプレナー・ネットワーク)の仲間、ソーシャルビジネスネットワーク(SBN)の常務理事でもある植木さん経由依頼があったもので、参加者は主として京都の中堅・中小企業の経営者約50名、場所は全日空ホテルでした。

3. ソーシャルビジネスは「地域おこし、少子高齢化、環境・貧困問題といった社会的課題にビジネスとして事業性を確保しながら取り組む活動」と定義されますが、まだ十分に認知された言葉ではないでしょう。
   経産省の声掛けで2008年、研究会の報告書・提言が出て、将来大きく発展するポテンシャルのあるビジネスと位置付けました。調査時点での日本での市場規模2400億円と推定していますが、例えば英国では5兆円以上の規模がある由です。


4. 研究会の提言を受けて2010年12月には植木さんが関わっている上記SBNが発足し、11年3月には経産省の名前で、「事例集―地域に「つながり」と「広がり」を生み出すヒント」が発表されました。


この事例集は、全国121の事例を集めています。
そのうち京都は5例あり、今回の話は京都の経営者が相手ですから、これを簡単に取り上げました。

5例は以下の通り、株式会社が3つ、NPO法人が1つ、公益法人が1つです。

(1) 植木さんが経営する株式会社カスタネット ――寄付+ギフトの通販サイト「ソーシャルバスケットのキフト」を稼働させ、ビジネスと社会貢献が融合するモデルを構築。
(2) 株式会社マイファーム ――「農耕地のオーナーと都市生活者のニーズを結びつけ、耕作放棄地の問題を解決するソーシャルベンチャー
(3) 株式会社旅のお手伝い楽楽 ――介助スタッフが行程に同行し、要介護者の旅行をふくめて外出のサポートを行う。
(4) NPO法人エクスクラメ―ションスタイル ――障害者が働く場(作業所)と企業とを結びつけて作業所で製造したものを企業に販売する橋渡しを行う。
(5) 公益財団法人京都地域創造基金 ――2009年に日本初となる市民出資のファンドを発足。NPOの経営基盤強化のため資金支援をおこない、かたがた寄付文化の促進をはかる。

5. 以上、何れも持続性のある事業として育っていくかどうか課題も多くありますが、夢があり、注目される・期待したい取り組みです。

たまたま、この5つとも私は個人的にも全てご縁があり、頑張って欲しいと願っています。

例えば(3)の楽楽を立ち上げた佐野さんはまだ20代の若者です。
同志社大学在学中に大学のビジネスプランコンテストで優勝し、卒業後,起業しました。

同氏には、2009年10月、古巣の京都文教大学での「社会起業論」の授業に外部講師として来てもらい、想いと苦労話を語ってもらいました。
これは以下のブログに報告しております。
http://d.hatena.ne.jp/ksen/20091029/1289796669


また、NPO法人エクスクラメ―ション・スタイル副理事長の吉野さんとは2009年1月に京都府NPOパートナーシップセンター主催の「社会的責任を考える研究会」で現代を動かす新しい力〜社会起業家とは」と題して対談をしたことがあります。
http://blog.canpan.info/kyotoprefnpo/archive/2


この2人とも、それ以来、想いを捨てずに活動を持続していることに敬意を表したいと思います。


また、京都府地域創造基金は、京都NPOセンターが立ち上げ、いま「災害ボランティア支援センター」のセンター長をしている藤野さんが関わったプロジェクトで、私もささやかながら基金に出資しています。有意義なNPOの支援に役だってほしいと願っています。


6. これらの「ソーシャルビジネス」にあたって大事なのは、
社会起業家精神(ソーシャル・アントレプレナーシップ)という思考と行動原理だと思います。
社会起業家」は人間の視点でとらえ、
社会的企業ソーシャル・エンタープライズ)」は組織からとらえ、
「ソーシャルビジネス」はこれを事業活動の側面からとらえる、

根っこにあるのは同じと思います。


ただ、ソーシャルビジネスという言葉を打ち出したのは、これからの成長産業戦略の1つとして、ビジネスのすそ野を広げたいという狙いがあるのでしょう。

東日本大震災の悲劇のあと(「戦後」になぞらえて「災後」という造語を使う人もいます)、どういう社会や経済の姿を展望していくか?


「豊かな社会」から「よい社会」へのパラダイム転換がいっそう必要だろうという認識が高まっていく中で、そのためにビジネスも一定の役割を担うとすれば、「ソーシャルビジネス」はそのための1つの方向性を示す動きになるだろうし、なってほしいと考えています。