イチローと松井、日米のギャップ

1. フェイスブックの木積さん、加藤わこさん、お礼がたいへん遅くなりましたが、コメント有り難うございます.
木積さんには、無学なのがばれてしまい、篆書(てんしょ)と隷書を間違えてしまい、失礼しました。ケニアの話をソーシャルビジネス普及のセミナーで聞きたいものです。
わこさんはプロですから、木積さんのケニアでの書道の授業をクラウドファンディングに結び付けるような企画を検討願えないか?という気がします。

2. 私の方は猛暑の京都に2週続けて往復し、1泊して、「ソーシャルビジネス町家塾」の第2回にも参加して昨夜、山に戻りました。

車中、茅野図書館で借りた『イチロー革命』(ロバート・ホワイティング著、松井みどり訳、2004年)を読みましたので、今回はイチローとマツイの話です。


3. イチローのNYヤンキースへの電撃移籍は、7月23日のNYタイムズとシアトルタイムズ(何れも電子版)が大々的に報道しています。
前者はスポーツ欄に大きく紙面をとり、後者は1面です。前者はNYのユニフォームを着たイチローがシアトルの球場で顔を見せて、後者は彼が同じ場面でファンに向って深々とお辞儀をしている写真が載っているのも面白い。

両紙とも移籍が本人の申し出、かつチームも望んでいたことだったという認識で一致しています。


もちろん残念がっているシアトルファンの意見も多く載っていますが、冷たいコメントもない訳でない。
いつも記者会見で日本語しか使わないことへの批判もありました。
それだけのせいではないでしょうが、アメリカに今だに、根強い、人種差別、偏見、反日感情があることは、ホワイティングも指摘しています。


4. 他方で、ほぼ同じ時期、マツイはタンパベイ・レイズから戦力外の宣告を受けた。
私は、野球の技術はさっぱりですから、この2人に、米メジャー・リーグでやっていける実力で違いがあるかどうかについての判断は出来ません。
ただ、どうも、マツイは、アメリカで生きて行くタイプではないような気はする。
ホワイティングもその点を指摘しています。
本書を執筆するに当たって様々な選手等に取材したそうですが
「いちばん、気分よく話を聞けたのは、松井秀喜だ。親切で、暖かく、協力的で、ユーモアのセンスもある」と言います。
またアメリカに行くにあたって、知人や元同僚の以下のようなコメントも紹介している。
「松井は苦戦すると思うよ・・彼は“あまりにも日本人すぎる”んだ。イチローや野茂は、ほかの日本人とはちょっと違う。彼らは独立心が旺盛だからね。・・アメリカで成功するには、日本人を捨てなければやっていけない。松井は謙虚すぎる。奥ゆかしすぎるし、相手に合わせようとしすぎるんだ。」
「あいつはとてもやさしいんですよ。そのやさしさがどうも野球にそぐわないんだな。彼の長所は、いいやつだってこと。でも、いいやつすぎるのが、彼の弱点なんです」

ホワイティングはまた以下のようなことも書いていて、今もこの通りとすると、面白いですね。

「マツイの主張によって、故郷にある<松井秀喜野球記念館>の入場料は無料だ。名古屋の<イチロー博物館>が、チケット1枚8ドルするのとは、なんと対照的だろう」

5. イチローの方はと言うと、インタビューが大嫌い。
ホワイティングももう10年も前ですが、本書執筆のための取材にあたって若干苦労したようですが、しかし
「彼はとても知的で、落ち着いた、思慮深い若者だという印象を受けた」と書き、

同時に「イチローほどクールな日本人には会ったことがない」というあるアメリカ人スポーツライターの言葉を紹介しています。


面白いのは、イチローの孤独癖は、日本の元チームメイトにもあまり評判がよくなかったこと、シアトル在住の日本人の目にも、好意的に映らない、点をあげたうえで、逆に

アメリカ人はイチローが好きだ・・・アメリカ人のチームメイトには受けがいい。彼は同僚にスペイン語でも英語でも話かける」としたうえで、
「ある皮肉屋に言わせれば、イチローが溶け込む努力をしているのは、祖国日本よりもむしろアメリカだろう」という言葉を紹介しています。


6. ホワイティングは、文化人類学者ル―ス・ベネディクトの、「恥じ」をキーワードにして分析した日本人論の古典『菊と刀』にあやかって、1997年に『菊とバット』を書いて以来、野球を通して日米のギャップとその相互の良し悪しと相互理解について、書き続けています。彼がもっとも評価するのは、野茂英雄の挑戦と勇気です。


私はと言えば、今年も夏の集中講義で、アメリカとビジネスについて、毎日3コマ、5日間のお喋りをする予定です。

2004年にイチローが80年ぶりの「年間最多安打」の新記録を達成して以来、これで7年続けて、イチローを取り上げて、「日米の違い」について喋っています。
1年ほど前のブログにも、このことに触れました。
http://d.hatena.ne.jp/ksen/20110912
そろそろ、イチローも卒業するか、と考えていたのですが、今年の講義も取り上げる材料が出てきたようです。