京都でジャック・ウェルチを読む


1.8日振りのブログです。この間、茅野・京都・東京を移動ばかりしており、PCには触りませんでした。たまにPCから離れた生活を送る、いやPCだけでなくテレビも携帯もない昔の生活を思いだす機会も悪くないなと感じているところです。


2.といっても、現代人としていつまでも文明の利器を無視する訳にも行かず、やっとPCに向かっています。
京都は紅葉シーズンで観光客に賑わっていましたが、私はもっぱら、前々回に報告した「京都府人づくり事業」の研修生と一緒に、ジャック・ウェルチの『ウィニング、勝利の経営』(2005年)を読みました。


大学でのゼミと同じように、各自が分担を決めて発表をして意見交換をするというものです。ジャック・ウェルチがGE のCEO 時代に提唱した「ワークアウト」(自らを点検し、徹底的に話合うこと)をちょっと真似たいと考えたのですが、なかなか活発なj時間を持つことができました。

大学のゼミでも同じ本を読んだことがありますが、今回のゼミが大学生よりはるかに活発だったのは、彼らが「大人」であることに加えて、実社会での様々な経験をもとにした意見が言えるからでしょう。


3.ここでは、なぜジャック・ウェルチの本を読むのか?について、私自身の頭の整理もあって書いておきます。

(1) ジャック・ウェルチは、1981年にアメリカの巨大企業GEの史上最年少でCEO(最高経営責任者)に就任、2001年まで21年間にわたり、「強烈なリーダーシップを発揮してGEの変革の取り組み、同社を時価総額で世界NO1の企業に育て上げた。産業界・メディアから『20世紀最高の経営者』と称賛されている」(邦訳の著者紹介から)。
もちろん、彼の強烈な個性と強引な経営姿勢もあって、「称賛」と同じくらいの批判も浴びています。

(2)「人づくり事業」研修の仲間と共に、なぜこの本を読むか?といえばまず第1に、学校を卒業してしまえば、なかなか、強制されて1冊の本を読むという機会がないだろうと思うからです。
前回のブログで、「読んだ本より、読みたい本が大事」という大村はまさんの言葉に共鳴したことを書きました。
しかし同時に、強制された「読む」という体験も大事だろうと思うものです。


(3) それなら、なぜ、ジャック・ウェルチか?
おそらく、彼は「代表的アメリカ人」の1人であり、その意味で我々日本人の対極にあるような、しかし無視できない「人間類型」と考えるからです。
彼が繰り返し語るのは、(少なくともビジネスにおいては)、人間が全てであり、「競争」と「評価」と「選別」を通して人を育て・鍛えることがもっとも大事だ、という信念です。
それは、私個人にとって、もっとも欠けている信念だと思うし、大方の日本人もここまで突き詰めて考えないのではないか。

だからこそ、特に、これから実社会で(しかもグローバル化した)生き抜いていこうとする中年や若者にとって、こういう「人間=他者」を知る意味は大きいのではないか。

因みに、アメリカ人と「ビジネス」について補足すれば、
アメリカ人の主たるビジネス(本分)はビジネス(事業活動)である」と1925年に言ったのは第30代カルビン・クーリッジという大統領です。
すでに、19世紀の半ばにアメリカを2年弱視察して『アメリカの民主主義』を著したフランスの政治学者A・トクヴィルは「アメリカ人を最も強くゆり動かしている情熱は、政治的情熱ではなく、商業的情熱である」と指摘しています。


(4) ウェルチはそういう意味からも「代表的アメリカ人」言えるでしょう。
著書『勝利の経営』は彼のCEOとしての経験をもとに、「勝利の法則」を披露したものですが、「はじめに」の宣言を以下、引用します。

・・・勝利することは最高だと思う。単に「よいこと」ではない、「最高」なんだ。
ビジネスで勝つのは最高だ。
なぜなら会社が勝っているときには、そこで働く人たちも成長し、大きくなる。
(略)勝てば社会にお返しすることもできる。・・勝利はみんなを向上させ、世界をよりよい場所に変えてくれる。」

「政府は経済のエンジンを補助するものであって、エンジンそのものではない。勝っている会社、そこに働く人々こそが、健全な経済を支えるエンジンだ。彼らは政府に歳入をもたらす。彼らこそが自由で民主的な社会の礎(いしずえ)なのだ」・・・


そして、「勝つためには人がすべてだ」
だからこそ、我々は勤勉でなければならない。努力しなければいけない。
「ストレッチ」(自らの目標設定を高く設定すること・背伸びすること)しなければならない。
というのが、ウェルチの(「自立独行の人」を理想化するアメリカ人の)信念です。

(5) そのためには、「人」を「組織」をどう鍛えていくか?
ウェルチが本書で繰り返し・繰り返し語るのは、以下のようなことです。
・組織には、「揺るぎない理念(ミッション)」と「行動規範」が不可欠。
 ――しかも、それは現実的かつ具体的であること。ミッションはトップが決めるが、行動規範に関しては組織の全員が発言の機会をもつべきである。
・率直であること。
――「率直さを引き出すためには、報酬を与え、誉め、語りつづけることだ。率直に行動した人はみんなの前で大々的に誉めあげる・・・」
・誰もが言いたいことを言えるオープンな企業文化→どんな人間であっても敬意を持って接し、発言を認められること。
――「私の信念はこうだ。「世界中の人が発言権と尊厳を求めており、誰にでもその権利がある」
能力主義によって、評価し、選別すること。
――「それが強者生存のダーウィン主義に聞こえると言うのなら、(私はむしろ)選別はもっとも公平で優しい制度だと反論しよう。最後にはすべての人を勝者にしてくれるのだから」

4.ジャック・ウェルチは、「率直さ」や「オープンな組織文化」の大切さを強調しながら、その実現がGEにおいてもどんなに困難であったかを語ります。
「日本人はこれが本当に苦手なんだ。率直になろうとすると、どうしても場がマイナスの雰囲気になってしまう」
という苦労を職場で悩んだことのある女性からは、
アメリカ人にとっても難しいことなんだ」というのは、新鮮な発見だったようです。と同時に、彼女はこれから自らが小なりとはいえ経営者を目指していることもあり、
どうしたら「明るい率直さ」を引き出し、
「出る杭を探して、彼らを誉める文化」を作れるか?
考えるきっかけになったようです。