「一匹狼」のエドワード・スノーデンはモスクワ空港に?


1. 前回は、30歳のアメリNSA国家安全保障局)のもと契約社員エドワード・スノーデンを取上げ、
「正義を貫こうとした英雄か?謀反人か?」意見が割れていることを伝えました。


アメリカ政府が「スパイ法」違反容疑で訴追し旅券を無効にする一方、当人は香港で自国の機密の諜報活動を暴露したあとロシアに飛び6月23日にモスクワ空港(
上の写真)に到着。
以来、空港内の乗り継ぎエリアに居ると言われているが、誰もその姿を見かけない。
「これは不思議だ」と7月4日付けのWP(ワシントン・ポスト)が伝えています。

(1) 彼はロシアへの亡命申請を取り下げ(プーチンが条件を付けたからと言われている)、ボリビアエクアドルなど20カ国以上への亡命を模索しているようだが、まだ交渉はまとまっていない模様。

(2) アメリカ政府だけでなく、数多くのメディア関係者やジャーナリストが彼に接触し、取材しようと必死に空港内のコーヒー・ショップなどを探し回っているが、彼の姿を誰も見ていない。

(3) WP紙の記者は空港内の職員や店員やロシア人旅行者に訊きまわっているが、誰もが
「不思議だ。ロシア政府は彼の出国は自由だ、と言っているが、ここでは政府は何をするか分からない。(中国も)ロシアも彼から、アメリカの諜報活動について必要な情報を全て入手するだろう。そのあと、彼をどうするだろうか?」
などと気になるコメントもしています。

(4) 彼は自らの行動を「人々のプライバシーの権利と自由を守るため、アメリカ政府のやり方が許せなかった」と発言しているが、それなら、なぜ、人権にもっとも鈍感な国であるロシア経由亡命しようとしたのだろうか?判断がややナイーブだったのではないか?と疑問を表明する人もいるようです。


(5) 香港滞在中には、「スノーデンを守れ、アメリカに強制送還するな!」といったデモも同地であったようですが、ロシアでは少なくとも空港内のロシア人の反応はクールだとWP紙は伝えています。

つまり「この国では政府の盗聴なんて全く珍しくもないので、ニュースになんかならないわ」という空港内のある店員の発言に代表されるように、もともと政府に対する信頼度は極端に低い国柄のようです。


(6) 他方で、スノーデンの暴露で、インターネットや電話の通信記録の情報収集のほかに、在米の大使館での長年の盗聴活動についても明らかになり、


これに対してドイツ、フランスなど欧州諸国が、「これが友好国に対するやり方か!」と猛烈に憤慨しているという報道も賑やかです。
ところが、同じく4日の英国の新聞は
・ フランスも今回暴露されたアメリカの「プリズム・システム」(インターネットなどの個人情報の収集)と同様の情報収集活動をやっていることが明らかになった
・ 在外大使館での電話盗聴などは、各国が昔からやっていることで、珍しくも何ともない
といった記事を載せています。


2. こんな動きを追いかけながら、私が考えるのは以下のようなことです。
(1) 今回のスノーデンの行動の意図・背景は何だろうか?
(2) 国家・政府に対する信頼は国によってどう違うだろうか?
(3) 国家と個人の関係、とくにアメリカの場合は?


このうち、(1)については、本人が主張しているように、本当に「正義感」から出たものかどうかはまだ分かりません。
「まだ」と書きましたが、永久に分からないかもしれません。
NSAのために働いていたときは年収2千万円もあったという彼が、なぜ職はおろか、アメリカを捨ててまでこういう行動に踏み切ったのか?
正義感か?それとも何らかの私的な動機か(国家・政府に対する個人的な恨み・悲憤など)?どこかに協力者がいるのか?
等々は不明です。


(2)については、ロシア人の自国政府に対するクールな反応を紹介しました。
ここで、以前ブログで「エコノミスト誌」の北欧特集を紹介したことを思い出しました。
http://d.hatena.ne.jp/ksen/20130218
北欧諸国が豊かな・国民の満足度の高い国づくりに成功しており「新・北欧モデル」として注目されているという内容ですが、その理由の1つに、国や政府や公務員等に対する「信頼度」の高さがあります。

その対極に、イタリアの「見返り社会」やアメリカの「訴訟社会」があるとエコノミスト誌は言いますが、ロシアやアジア・中東・アフリカなどもっと汚職やガバナンスに問題のある国は多いでしょう。


同誌はEUの調査を載せていますが
「制度やシステム(原語はinstitutions)に対する国民の信頼度調査」で「どちらかと言えば信頼している」と答えた回答者の割合は、
フィンランドは60%近く、スゥエーデン、デンマークで55%弱なのに対して、EU27カ国は33%程度、ロシアに至っては25%(つまり回答者の4人の1人)、という数字が出ています。

この統計に、アメリカや日本や中国があるかどうかは分かりませんが、アメリカも決して高くはないでしょう。


(3) の、国家と個人との関係ですが、
この点は紙数がなくなりました。一言だけ言うと、スノーデンのケースは良くも悪くもいかにもアメリカ的だなという感じがします。

最近のエジプトのような、大衆による大規模なデモや抗議行動とは全く違って、
個人がたった一人で、意図や理由はともかく、国家や政府と対決する。
これは、中国やロシアや、おそらく日本でもなかなか見られないのではないでしょうか。


そして、権威の力を借りずに、自分の力で自らが考える「正義」を実現しようとする、少なくともそういう行動を取ることで一定の人々の共感を得ようとする・・・

そのためには銃を使用することも厭わない、まさに西部劇「許されざる者」のクリント・イーストウッドのような「一匹狼」を評価する文化と伝統が背景にあるのではないかと思います。