図書館と読書と小説いろいろ


1. 我善坊さんコメント有難うございます。
ご指摘のように、教育と勤勉が日本の発展を支えてきたのでしょうね。
現状はどうか?福沢諭吉の『学問のすゝめ』を多くの人が読み直したらどうかと思います。


2. 前回、茅野市の快適な図書館の話をしましたが、今回はその続きです。
もちろん人口6万人の町の図書館ですから沢山の蔵書がある訳ではありません。
それでも英米の翻訳小説などもそこそこ置いてあります。
東京でよく行く世田谷区梅が丘の図書館よりきれいな本ばかりで、すぐに借りられることが多いです。
さすがに新刊の好評な本はそうはいかず、家人は大ベストセラーの、石油の出光佐三を主人公にした『海賊とよばれた男』は7ヶ月待ちと言われた由。


読む本が見つからないと嘆くので、私が東京に日帰りした日、渋谷の本屋で出版されたばかりの『天佑なり』(幸田真音)を上下2冊、買ってきました。
「日本経済を救った男の熱き生涯」というのが本のキャッチコピーです。
家人は、こういう、快男児の物語が大好きで(連れ合いと違った男性像?)こちらは高橋是清の物語です。

私は、昔、「自伝」を中公文庫2巻で読んでたいへん面白かったので、幸田さんの本はさほど興味がなく、そもそも新刊本も自分ではまず買いませんが家人のために奮発したものです。


3. 家人の読書の趣味は、日本の小説が基本で
とくに、山本周五郎藤沢周平池波正太郎が愛読書のベスト・スリー。
それに寝る前はかならず「サザエさん」を広げます。どこから聞いてきたのか真偽のほどは知りませんが、東大の総長だった矢内原忠雄氏も愛読して、就寝時に同じ習慣だったという話を数回聞かされました。あの矢内原さんが本当かどうか私は今でも疑っています。

とくに池波さんの勧善懲悪物が大好きで、『剣客商売』は繰り返し読んでいます。私はあまり読みません。
主人公の秋山小兵衛という60歳のもと剣客が強くて格好良い、欲がないというか、ちょっとしたお金を気前良く人にあげる、そこが良い、というのが常盤新平の解説だと教えてくれました。
江戸の町の名前が詳しく出てくるので古い地図や「江戸東京物語」(新潮社編)を参照しながら読み進むのも臨場感があって楽しいようです。


好みがだいぶ違うので、私が勧めることは殆どないのですが、これなら面白いと思うかなと勧めて、結果として大いに満足してくれたのは例えば以下のような書物です。

(1)『錦繍』(宮本輝新潮文庫)1組の男女の14通の手紙からなる、まあ恋愛小説と言ってよいでしょうか。
これを読むと、アルゼンチンの作家ボルヘスが書いているそうですが、
「もし小説を読むことがなかったら恋愛なんていうものはなかっただろう」という言葉を思い出します。
あるいは、「読者よ、続きを書くのはあなただ」という言葉で終わる小説の1つでしょう。

(2)『静かな大地』(池澤夏樹朝日新聞社)明治の初め、北海道日高に移封させられた淡路の武士の子孫とアイヌの人たちとの交流を描く

(3)『西行花伝』『背教者ユリアヌス』など辻邦生のよく知られた歴史小説


そして翻訳小説はほとんど読みませんが、19世紀、推理小説の元祖といわれるウィルキー・コリンズの『白衣の女』(岩波文庫全3巻)を勧めたところ、これは面白いと言ってくれました。
因みに、私は宮本輝池澤夏樹は(とくに最近は)さほど読みませんが、(1)と(2)は印象に残ります。


4. 読書の好み、とくに小説の好みは本当に人によって違います。
こちらが、いいな、と思って紹介しても、全く面白くないと思う人もいる。ここが難しいし、面白いところです。
家人は『錦繍』をえらく気に入って何人か友人に勧めたり贈ったりしたようですが、評価は真っ二つに分かれるようです。

小説を読むのは、「贅沢」(吉田健一)であり、「現実的価値が何もない」から愉しいのであり、「読みたい人だけが、自分の好きなように読めばいい」代物なのでしょう。



5.ところで私の場合は家人と違って、「読む本がなくて困る」という状況は全くなく、読みたい本、読むべき本が、(何れも時間つぶしのような本ばかりですが)再読・未読をあわせて書棚にたくさん積んであります。
同時並行で5〜6冊は読んでおり、それなのに、なぜ図書館に行ってわざわざ新たに借りるのか?

いろいろ理由はありますが、
(1) 例えば、『チャーチル』(ポール・ジョンソン)の邦訳が最近出たのを、茅野市図書館の「新着図書案内」コーナーで発見、早速トップで借りました。
原著が2009年に出た時にすぐ買ったのですが、「ツンドク」状態でした。昔はチャーチルの伝記を結構英語で熱心に読んだのですが、加齢とともにだんだん億劫になってきました。

(2) 例えば、ジョン・アービングの『ガープの世界』の邦訳。
彼はそれこそ好き・嫌いがはっきり分かれる作家だと思いますが、私は「好きな作家の1人」で原著をかなり読んでいます。
ところが代表作の1つの本書は大昔読んだとき、彼独特の英悟の言い回しがさっぱり分からず、茅野市図書館にきれいな訳書上下2巻本があるので借りて、何十年ぶりかで原著を横に置いてときどきチェックしながら再読(と言えるかどうか?)して、たいへん面白かったです。

ということで、公立図書館の存在に大いに感謝している者ですが、
それにしても、やはり日本語で読むのは楽だな、英語はいつまで経っても、幾つも読んでも、難しいなあと痛感しています。