「日米中韓関係」とジェラルド・カーティスさんのメッセージ

1. 皆さまコメント有難うございます。
柳居子さん、天皇のお田植え行事の紹介、興味深く拝読しました。
こういう行事や風俗、約束事、「和の精神」のような「価値観」までも、本当に日本古来に根差したものか、「創られたもの」ではないのか、確かに再考してみる必要がありそうです。
十字峡さんご指摘の通り、「世田谷市民大学」であって「区民大学」でないことは「市民力」を育てる意図にあってとても大事な意識だ、とは間宮陽介学長(京大名誉教授)が強調しておられました。
我善坊さんのご意見もあらためて勉強になりました。
「学界の常識を市民の常識にする必要がある」、おっしゃる通りですね。

他方で、桜や紅葉を愛で、四季の変化に心を通わせ、詩歌によむというような「文化」は日本人の心性に根差したものであるように思いますが、どんなものでしょう。
東京の桜は、いまは八重桜が華やかですが、徐々に終わりに近づいています。

2. 桜と言えば、「4月のある朝、桜が満開に咲き誇る靖国に(On an April morning at
Yasukuni Shrine in Tokyo〜〜)大勢の参拝者が訪れた」という出だしで始まる、タイム誌4月28日号の特集は「愛国者(The Patriot)」と題して、安倍首相の特集です。
表題の後には以下のリード文が続きます。
「安倍首相は、より強力で断固とした(assertive)日本を夢見ている。なぜそれが、多くの人たちを不安かつ不愉快にさせるのか」。


筆者は、ハンナ・ビーチという日本人を母に持ち、日本語と中国語に堪能なタイム誌記者&東南アジア支局長。
文章は、事実を伝えるという姿勢に終始しており、特定の立場から批判しようという意図は感じません。
しかし、たまたま中国にも韓国にも同じように、「ナショナリスティック」な政治リーダーが登場したことが不安定を増していること。
何と言っても昨年12月の靖国参拝が同盟国・友好国を「失望」させたこと。
安倍首相には歴史を修正しようとする意志が本当に無いのか?(河野談話を「見直さない」との発言は本当か?)
等々に触れています。


また、「神道政治連盟」なる組織の存在について、安倍氏が会長であること、連盟に所属する自民党議員が、与党になる前の152名から今は270名に急増していること、19名の閣僚のうち16名がメンバーであることも「事実」として書いています。

3.そんな記事を読みながら、私が思いだしたのは、16日夜六本木の国際文化会館であった「日米中韓関係―課題と展望」と題する「公開プログラム」です。
200名の定員はフルハウスで、皆熱心に聴いていました。

パネリストは高原明生(東大教授、専門は現代中国)とジェラルド・カーティスコロンビア大学教授、専門は日本政治)の2人で、興味あるスピーチでした。
その中で印象に残ったのは高原・カーティス両教授が全く同じメッセージを強く言われたことです。事前に示し合わせたとはとても思われません。
それは
「どんな国にだって、忌わしい・触れたくない過去はある。
しかし、そういう過去を、例えば日本が日中戦争の加害者であったことを決して忘れてはならない。
歴史を直視し、誤ちを誤ちと認める勇気を持つこと、それが真の「誇り」ではないのか」
(高原さん)
アメリカにも(奴隷制度のように、ベトナム戦争のように ――というのは筆者の追加ですが)恥ずべき過去はたくさんある。そこから目をそむけないこと、逃げないこと、そういう国こそ「誇りある国」と言えるのではないか」(カーティスさん)

ということは、「歴史を政治問題にしない知恵がいちばん大事」ということだと私は理解しました。
「南京だの、慰安婦だの、いちいち否定し、反論することで日本が得ることは何もない。
それよりも、もっとポジティブに・積極的に、日本の存在が戦後、9条を含めてどれだけ世界の平和に貢献したかを自信を持って語るべき」とはカーティス教授の言です。


4.今回は、カーティス教授のメッセージをもう少し紹介します。

(1) 彼はコロンビア大学で博士号を取り、同大学教授。自民党の政治家に密着し、それで博士論文を書き「代議士の誕生」という出世作ともなった。
どちらかと言えば(例えば『敗北を抱きしめて』の著者ジョン・ダワーに比して保守的で、日本の政治家とも幅広いネットワークを持ち、CIAの情報提供者として名前を挙げられたこともある。
奥さんは日本人で、日本語・中国語ともに堪能。
この日も、Q&Aを含めて見事な日本語で終始した。
(蛇足ですが、カーティス教授とジョン・ダワー教授は2人とも日本研究の専門家・知日派ですが、70代半ばと高齢です。
素人ですから詳しくは分かりませんが、彼等の後継者が育っていないのではないか、アメリカの学者で日本研究をやる人が減っているのではないか、とちょっと心配しています。例えばハーバードにはライシャワー記念東アジア研究所があるが、最近は中国研究者が増えているのではないか)

(2) 発言その1――日米、日中、米中の「三角形」(日本はアメリカに従属しており“不均衡な三角形”だと言う人もいるが)の関係において、日本側の、とくに右派の人たちに誤解があるのは、日中関係が悪化すれば、それだけ日米にはプラスになるという主張である。
こういう理解はナンセンスである。
日・米・中の2国間関係はそれぞれに「ウィン・ウィン」の関係にある。
このどれかがおかしくなれば、必ず他の2辺にもマイナスになる。日中関係が良くなることは、日本・中国の双方にとってプラスであるだけでなく、アメリカにとっても、ひいては日米関係・米中関係にとってもプラスである。この認識がもっとも大事。

(3) その2――同盟というものは常に、同盟国それぞれにとって「巻き込まれないか?」「見捨てられないか?」の2つの不安を抱えながら存在するものである。
今は昔と逆で、日本は「見捨てられないか?」アメリカは「巻き込まれないか?」の不安が高まっている。
アメリカからすれば、だからこそ靖国参拝は困るので、日本はどうしてそこを理解してくれないのか。「失望した」という発言は同盟国に対する最大級の強い意思表示である。「見捨てざるを得ない」かもしれないような状況を作っているのは日本ではないのかという気持ちがアメリカの「失望」という言葉に表れているのだ。

(4) その3――カーティスさんは今回中国・韓国も訪問し、日本滞在では安倍首相や官房長官を初め、何人かの政治家に会ったそうですが、それらを踏まえて、彼からの発言で注目されたのは、
「(安倍さんの歴史認識等について厳しいことを言ってきたが)楽観的すぎると思われるかもしれないが、昨年に会ったときより、安倍さんが少し“反省”している、変わってきているように見えた。中国も少し柔軟になっているように感じる。その点に期待している」というコメントでした。
(本当にそうでしょうか?)

「だからこそオバマ大統領が訪日で安倍さんにどういうメッセージを出すかが大事だ。
(そのメッセージとは上述のように、「悪化した日中関係は日米双方と日米同盟にとってもマイナスだというアメリカの認識を伝えること」に尽きる)
今年のAPECの総会は、11月に北京で開催される。その時に習近平主席と安倍さんの首脳会談が実現するかどうかが、大きな鍵になるだろう」
という発言で締めくくりました。