京都鳥羽での藤見・同志社キャンパス訪問など

1. 4月の末、大型連休が始まる週末、京都に1泊しました。
今回はもっぱら遊び&私用で27日の日曜は夕方まで独りで行動。
まず京都駅から満員の臨時バスに乗って南に下がり、「鳥羽水環境保全センター」(京都市上下水道局)内の、120メートルも続くという見事な藤を見てきました。
新緑も青空も加わり、藤はまさに見ごろ。1年に4日間だけの「公開日」に当たりラッキーでした。大勢の人出でしたが、それでも東京の雑踏とは比較にならずゆったり・のんびり。

その日は、全国に千人も居ないという京都市検定1級の保持者、京都のことなら何でも知っているFさんと夕食をともにしましたが、彼もまだ行っていないということで、自慢ができました。
藤棚の一般公開に合わせて「太陽光発電設備見学ツアー」のイベントや、特設のテントでは、使用済み天ぷら油で作った「エコせっけん」を無料配布したり、「ごみの捨て方指導します」だの「環境啓発ブース」が設けられたりしていて、いい試みです。


2. 京都の藤を堪能したあと、今度は、今出川まで地下鉄で同志社大学キャンパスに行き、創立者新島襄の資料コーナーを覗いたり、建物の写真を撮ったりしました。
福沢諭吉を読む」という世田谷市民大学のゼミが4年目に入ってまだ続いており、福沢はだいぶ読み終えたので同時代の知識人も学ぼうということで、4月は中江兆民、5月は新島襄と決まり、新島は私の発表となったため、京都にさほど縁のない仲間のゼミ生のために、同志社の写真をパワーポイントで見せようか、と考えた次第です。
私事ながら京都滞在の一時期、仕事の合間を見つけて大学院アメリカ研究科に通ったところですので、久しぶりに懐かしかったです。

キャンパスはもと薩摩藩邸、決して広くはありませんが、戦災にも遭っていないため礼拝堂を含む赤レンガの古い建物が残っていて、国の重要文化財が7つあります。
新島は、慶応義塾福沢諭吉と異なり、生前に公にされた著作は1つもなく、著述家ではなく教育者であり、キリスト教の牧師であり、宣教師であったことが大きな特徴です。
いまの同志社学生に、キリスト教精神がどこまで根付いているかは疑問なしとしませんが、大学にはいまでも象徴的な存在として「神学部」があり、チャペルも幾つもあり、「チャペル・アワー」も常時開かれています。
正門近くには、「良心の碑」が建っています。
新島襄が学生にあてた手紙に書いたという「良心の全身に充満したる丈夫(ますらお)の起こり来たらんことを」という字句が彫られていて、「一国の良心」となる人物の育成を使命とした新島の教育理念を端的に示す言葉として知られています。


明治の初めには、キリスト教が、とくに侍階級のエリート子弟にとって、「個人の魂の救済」というより、日本を文明化し近代化する、そのための「一国の良心」として理解され、受容されていったということだと思います。

いま日本ではキリスト教信者は人口に比してまことに少ないですが、その理由は、1つはキリスト教が「個人の心の救済」というテーマにしか触れなくなった、「一国の良心」なんて口にしなくなった、もう1つは、今の日本に、一国の良心を担う「精神のエリート階級」が居なくなったという社会状況にあるように考えます。


3. 26日(土)には、周りをすっかり同志社に囲まれた家で「いとこ・かるた会」というのがあり、これが今回の京都行きのメインでした。
この「かるた会」、昨年は金沢で、今年は京都で。
亡き母の兄弟が8人もおり、従っていとこの数も多く、賑やかに集まって百人一首を取り合うのですが、さすがに高齢化が進み、先細りの懸念もあるので、今年から、次世代・次次世代にも可能なら参加してもらおうということになりました。
40代の娘の連れ合いが初参加で早速チャンピオンとなり、百人一首の伝統が、小さな家族の中ではありますが、継承していってほしいと願っております。

「うた」はやはり日本人の心の1つであろう、と思う者です。
とくに「百人一首」の歌は(古今和歌集や新古今を中心に)、本居宣長の言う「めめしさ」であり、「ますらおぶり」に対する「たおやめぶり」である。

本居宣長の歌論とは、人間の本性は、めめしく弱いものであり、それを肯定し、そのことを「歌の世界」を通して相互理解するのが「もののあわれ」であり「やまと心」である、とは本日の市民大学講義で聞いたことです。

4. 講義を聞きながら、京都での「かるた会」と翌日日曜日の朝9時、泊まっていたホテルでNHKテレビの「日曜討論」を観たことを思い出しました。
普段はまず観ませんが、一人を過ごす京都では朝からTVを付けて、オバマ大統領訪日と首脳会談をテーマに4人の有識者が話あう番組を見て、なかなか面白かったです。
出席者はもと外務省の岡本行雄氏、ゼミの先生である高原明生東大教授など。


オバマさんが尖閣を含めて日本の施政権内は安全保障条約が適用される(ただし残念ながら、尖閣の領有権については中立的な立場をとったが)と明言した」ことは評価する、というのが当然ながら4人の一致した意見でした。

ただし、皆さんも触れていましたが、
共同記者会見でオバマさんが、日中関係について以下のようなことを言ったことも留意しなければならない。
「言葉による挑発を避け、どのように日本と中国がお互いに協力していくことができるかを決めるべきだ。
米国は中国とも緊密な関係を保っている。中国は世界にとって非常に重要な国だ。平和的な台頭は支持している。国際的な秩序を守る責任があると中国に伝えたい。
安倍首相に申し上げたが、事態がエスカレートし続けるのは正しくない。
日本と中国は信頼醸成措置をとるべきだ。
国際法や規範に反した国が出てくるたびに米国が武力行使をしなければならないということではない」


以上の点を踏まえて岡本氏が、日本にとって「国際世論を味方にすることが真に重要だ」
と最後に強調されました。
そして
「いま中国は厖大な予算を使ってアメリカで世界で、自国が正しいというキャンペーンを繰り広げている。
それに対して、日本は、決して、感情的、扇情的、攻撃的になるべきではない。
挑発に乗らないことが大事である。
日本人は、世界で好かれている。それは、おだやかでお人好しで、平和主義で保守主義の日本人というイメージである。
このイメージを日本人自身が損なってはいけない」
という言葉が印象に残りました。

岡本さんの発言を聞いて、
我田引水と言われそうですが、
「歌を好み、百人一首に興じ、遊びと教養と「もののあわれ」を大事にする「めめしい」日本人という存在」をもっと知ってもらい、応援してもらうこと。

こういう戦略が大事ではないのか、と改めて思いました。