再び日本人とは誰か?人種と国籍と・・・

1. 台風の合間を縫って、信州に短期間滞在し、壇香梅の葉が黄色く色づき、すすきが風に揺れたりするのを眺めてきました。

2. 1週間に1回の更新を目途にしていますので(それにも「何の意味があるかな」と思ったりしますが、自分自身の思考と記録の整理が主です)、お礼が遅くなりました。我善坊さん、arz2beeさん有り難うございます。
「結果的に二重国籍のまま」ということがあり得る、という話は面白いですね。たしかに国籍法は面白いことに罰則規定がありません。黙っていても何の咎もないわけです。
但し、現実には難しいのではないか。つまり二重国籍は、日本と外とを往来するから意味があるので、その際は旅券(パスポート)が要る。これには国籍の記入が必要ですから、例えば中村博士が「国籍離脱の手続きをしていない可能性もあるのでは」はちょっと、無理でしょう。日本国籍でないと日本の旅券は取れませんから、公文書虚偽記載になってしまうのではないか。
「日本人とは誰のこととたくさんの人が思っていると思います」というご指摘もたいへん面白いです。
お二人以外にも多少興味を持って頂いた人もいて、友人3人と会食の際、1人の方から話題が出て、「あるハンガリー人の友人から『どこの国がいちばん多くノーベル賞を受賞しているか知っているか?ハンガリー出身のユダヤ人だ』と言われた、と教えてくれました。強烈なユダヤ人気質ですね。これは人種意識でしょうか?
そこで、今回もう少し考えてみたくなりました。


2.「日本人とは誰のこと?」というとき、「人種」と「国籍」とを区別することが大事だと前回書きました。憲法で「(日本」国民は〜」というのはもちろん後者です。
毎度言いますが、ドナルド・キーンさんも「100%日本国民」です。
「人種」の方はあいまいです。
(1)ユダヤ人、アラブ人、黒人・・・等いろいろと言われますが、例えば「初の黒人大統領」と言われるオバマ大統領の母親はご承知の通り白人です。
テキサス・レンジャズのダルビッシュ投手はどうでしょう?


(2)いちばん良く知られているのが、ゴルフのタイガー・ウッズです。
英文のウィペディアによると、母親は、中国人とタイ人の混血でオランダ人の血も入っている。ベトナム戦争にも参加したもと中佐の父親は、“mostly(ほとんど)”黒人の他に、白人とたぶん先住民と中国人の血が入っていると言われます。
こういう人物を人種は何人か?と問うことは意味がないのではないか。
しかし彼は肌の色から黒人とみなされて、保守的なゴルフコースでプレイ出来ない経験を何度もしました。
彼自身は「カブリネイジアン"Cablinasian"」と言うそうですが、これはおそらく皮肉もこめた彼の造語で Caucasian, Black, American Indian, and Asianから合成したもの。因みに、コーケシアンという英語はアメリカに住んでいると実によく聞き・よく目にします。まあ、日本で「白人」というのに近いと言っていいでしょう。

3. 細かいことを書いてきましたが、この問題でいま私が考えているのは以下のようなことです。
(1) まず純粋に「人種」というのは、混ざり合っている時代に、あまり真剣に考えない方がいいのではないか。
「人種としての日本人」を考えると、立派な日本人もいれば、(自分のことを棚に挙げてと言われそうだが)碌でもない日本人もいる。後者のような人に限って「日本は単一民族の国で、いまやアイヌも(琉球人も)居ない」なんて発言するのではないか。
 ある民族の「血」を純粋に保持する人たちがどれだけ居るか知りませんが、タイガー・ウッズの例が典型的なように、意味があるとは思えません。
 「スコットラン人とは誰か?」というのも難しい問題で、9月18日の住民投票にあたって,人種ではなく、イギリス人,EU・英連邦の国民を含めたスコットランド在住者(resident)に投票権を与えたのはきわめて当然かつ賢明な判断だったと思います。
だからショーン・コネリーのように自他ともに許す、かつ独立を支持するスコットランド人でも、バハマ在住なので投票できませんでした。


(2) 次に、「国籍」についても、それが各国の国内法に基づく人為的なもので、しかも多重国籍を認める国が多くあるという認識を持つことが大事だろうと思います。
こういう冷静な認識は「在日」や「移民の受け入れ」を私たちがどう考えていくか、「ヘイト・スピーチとは何なのか?」等を考えていく上で重要でしょう。


もちろん「イスラム国」の脅威を考えると、出入国管理の難しさなどの課題は大きいでしょうが、他方でグローバリゼーションの時代をふまえて、どう対処するか、「効用」の観点から考えるという割り切りがあってもいいのではないか。
例えば私事になりますが、知人の女性で英国に住んでおり仕事の必要上、頻繁に大陸諸国に出張しています。日本人は彼女しか居ない職場で、上司や同僚と一緒の時、空港で彼女一人出入国管理の厳しい「外国人」用のゲートに並びます。連れは英国生まれでなくともほぼ全員多重国籍の国出身ですから「EU」旅券のゲートを通って簡単に管理を通ります。結果としていつも彼女が連れを大いに待たせてしまうことになる。
「このことだけでも二重国籍を認めて欲しいと思うことがある」という発言は、人によってはあまりに便宜的な発想だと思う人もいるでしょうが、日本人もグローバルに活躍する時代、「国籍」ってそういう「効用」が大きいのだという事実認識も持っておいてもいいのではないでしょうか。

(3) 最後に言いたいのは、「人種」と「国籍」は以上のように多少弾力的に考えた方がいいとして、もう1つ「〜〜人とは誰か?」という時に、文化・伝統・価値観・言語等から理解することがいちばん大事ではないか、ということです。
「日本人」であれば、ドナルド・キーンさんの日本の文化や古典に対する知識や愛情は、私を含めた碌でもない日本人の数十倍ではないか。
こういう人こそ、これからも続いてほしい「純粋な日本人」ではないか。

例えば、オバマ大統領であれば、半分は白人であるにも拘わらず、様々な理由で自らを「文化的存在としての黒人」と自己規定して成長してきた人物のように思われます。

ユダヤ人とは誰か?」という英国エコノミスト誌の記事を、今年初め面白く読んだことがありますが、要は「血」ではなく「ユダヤ教を信じ、価値観を維持する、それがユダヤ人」というのが今や通説とのことです。


スコットランドカタルーニャ住民投票においても、賛否は分かれるでしょうが、独立を主張する人たちの思いとしてあるのは
・人種あるいは血を守っていくなんてことは出来ないし、興味もないが、文化や伝統や価値観や言語は守っていきたい。
・そのためには、現代においては、「ネーション・ステイト(国家)」という器が、好むと好まざるとを問わず必要なのだという気持ちではないでしょうか。

そして、言うまでもなく、私たち日本人にとって大事なのは、日本人であることの幸せを意識すると同時に、アイヌ民族琉球民族や、「在日」と呼ばれる人たちの「悲しみ」を少しでも想像する、そういう力を失わない・・・
ということではないでしょうか。