「渋谷で朝食を」とカタルーニアの「鳥の歌」&カザルス

1. 9月初め以来、京都に出掛ける機会がなく寂しく思っていたところ、友人から、来
週数年ぶりに所用で上京するので澁谷で朝食を一緒に出来るか?というメールが来ました。

もちろん久し振りの再会に喜んでOKし、朝8時過ぎには出て行くことにして、「進々堂みたいなところがありますか?」という質問が来て、はて困りました。
渋谷は、我が家からバスに乗れば20分ほどの距離、歩いても40分ほどの散歩コースで、散歩の途次、コーヒーを飲むことは多いですが、早い朝食はとったことはなく、適当な場所があるかどうか。
まずは下調べに出掛けましたが、朝早くやっているのは、「タリーズ・コーヒー」や「ドトール」のような手軽で若者向きの店を別にすればなかなか見つかりません。
これはやはり、京都と渋谷の違いでしょうね。
寺町通りの「進々堂」にしても堺町の「イノダ」本店にしても、年寄りが朝から落ち着いてゆっくり時間を過ごせる場所です。早起きの老人には嬉しいことに7時か7時半には開いていて、コーヒーを飲んだり朝食をとったりする地元の人がいる。彼らの多くはほぼ毎日集まる常連で、仲間同士のお喋りの時間にもなっているようです。お店に滞在する平均時間は1時間といったところか。観光客も入ってきます。


他方で、渋谷の朝は忙しい通勤客・通学客の通る場所ですから、喫茶店に長く座る人はまず居ないでしょう。外で朝食をとる人だって、ファストフッドの店で(朝から吉野家の牛どんとか)手早く済ませるでしょう。
渋谷に住んでいる地元の人はもちろん居ますが、朝早くから街中に出掛けて、ゆっくりコーヒーを飲もうとは思わないでしょう。
渋谷にも、落ち着いて過ごせそうな素敵な店は幾つもあります。しかし、早くても10時開店というところばかりです。
ゆっくりしたいのは高齢者や子育ての終わった主婦あたりでしょうから、彼ら・彼女らが街中に出掛ける活動開始時間はその頃からなのでしょう。



2. ということで、最初の下調べは失敗。
そこで、今度はネットで検索すると、「渋谷で食べる朝食10選」というサイトが見つかりました。便利なものです。http://www.timeout.jp/ja/tokyo/feature/6705

それでもサイトを見ると、京都の街中に住んでいる人がイメージする「朝からゆっくり過ごすお店」という雰囲気とは少し違うようです。
駅の近くには、格の高い東急系のホテルがあり(行ったことはありませんが)、ホテルでの朝食も「10選」に入っています。ここは7時からやっていて、雰囲気も朝食も十分満足できるでしょうが、お値段は1人3000円とあり、年金生活者としては、朝食にこれだけ使うのはどういう人たちかな、と不思議に思うだけでとても行く気になれません(そもそも、ドレス・コードで断られてしまうかもしれない)。
「10選」のうち、ここは何とか良さそうだという候補が1軒、たまたまくだんのホテルのすぐ近くにあって、早速下見に行ってきました。
朝8時半から開店ですから「イノダ」や「進々堂」より遅いですが、それでも渋谷では早い方です。手づくりのサンドイッチがいろいろと置いてあってあとは飲み物だけですが、まあ落ち着いて過ごせそうな場所が見つかり、ほっとしているところです。

3. 何だかつまらぬことを書いてきましたが、
リタイアした高齢者は、朝をどう過ごしているのかな、と思いました。
朝早くから散歩に出掛ける人も多いかもしれない。どこかでちょっと休んで、コーヒーでもと思っても、なかなか老人の入り易い場所がないのではないか。
郊外の住宅地なら別かもしれませんが。

「朝をどう過ごすか」ですが、私であれば、東京に居る限り朝食は、自宅で老妻と二人。終わって、TVで朝ドラを見る人も多いでしょうが、私は天気予報ぐらいしか見ないので、すぐに(昔なら新聞を読むところを)PCに触る時間になります。
メールをチェックするのもこの時間ですし、電子版の海外メディアも覗きます。

返事をした方がよいメールもありますが、情報として受取るものも多いです。
例えば、母校の同期生のグループ・メールで、『謎の進学校・麻布の教え』という新書本が数日前に出たことを知りました。こんな本、誰が読むか知りませんが、
メールの発信者によると「全般に好意的な書きぶりですが、生徒、先生、OB、進学塾関係者等に2年間取材して得た感想は、「やっぱり麻布って変な学校」だそうです」と
あります。


また別のメールで、昔の職場の友人が、ロンドンから届いたという3分強のユーチューブを転送してくれました。
https://www.youtube.com/watch?v=N1jCBfPiUNE

「ロンドン在住のカタルーニャ(英語ではカタロニア)人たちが「スペイン政府がカタルーニャ住民投票を禁止したことに抗議」するもの。
バイオリン演奏は、カザルスがいつも弾いていた民謡「鳥の歌」です。
口を絆創膏でふさぎ、「VOTE(投票)」と書いています。
参加者が羽織っているのはカタルーニャの国旗です。
参加者が、持っているプラカードには、これまでにスペインから独立した多数の国々
の名前と独立した年が記されています」
とは彼の補足説明です。


見ていて何となくじんと来ました。ロンドンのスペイン大使館の前でしょうが、実に静かな抗議です。音楽が心に残ります。


4. 因みにこの友人は現役時代、スペイン勤務が長く、スペイン語・カタルーニア語に堪能で、カザルスの伝記を邦訳したこともあります。
私がカザルスと「鳥の歌」について触れるのはおこがましいのですが、最後に少しご紹介します。
(1) 20世紀前半の最大のチェリストと言われるカザルスは、スペインのフランコファシスト政権に抗議して、晩年は母の故郷プエルトリコに住み、1973年この地で死去した。
(2)生前、フランコ政府を承認した国での演奏は避けていたが、1961年請われて例外的にホワイト・ハウスでケネディ大統領夫妻の前で演奏(写真)。ここで、カタルーニアの民謡でカザルスがチェロ用に編曲した「鳥の歌」も演奏。

(3)1971年死の2年前94歳の時に、ニューヨークの国連本部でも「国連の日」を記念して演奏した。
いまもYoutubeで聴くことができるが、演奏に先立って彼がこの曲について語る場面も収録されている。
「カタルーニアはいまはスペインの州の1つですが、かっては異なる国でした」・・・
「ここで演奏する曲は「鳥の歌」という題ですが、鳥たちはこの空の下で、“Peace, peace, peace(平和、平和、平和) ”と鳴くんです」
「本当に美しい・この曲は、私の祖国カタルーニアの魂なのです」
と語ってから弾き始める。
http://www.youtube.com/watch?v=frizJZee0dE

カタルーニアが第二の祖国のような友人からのメールを読んだ朝は送ってくれたユーチューブを何度も見、「鳥の歌」のカザルスの演奏や愛弟子・平井丈一朗氏の演奏も聴き返し、幸せな朝のひとときを過ごしました。
国連での伝説的なカザルスの姿と言葉と演奏をいまもPCで(無料で)聴くことができるのは、本当に有難い時代になりました。