英国の総選挙と、英国の自民党と・・・

1.  十字峡さん有り難うございます。まさにその通りで「笹離宮」の理事長さん(薬品会社の社長)は安井先生の紹介で京都のHさん宅にお邪魔したと言っていました。

連休は田舎でこんな風に過ごし、白樺やカラマツの新緑は日に日に濃くなり、八ヶ岳と青空は連日美しかったです。田舎はまだ鯉のぼりを高く掲げる家があります。

2. 帰京したら、王子夫妻に第二子誕生と総選挙の報道で、日本でも英国が話題です。
誕生のニュースについては、翌日退院し、長男のときと同様に王子が自分で車を運転してケンジントン・パレスに帰るTVの映像を見て、例えば皇太子は何を感じたでしょうか?
そう言えば、日本の皇室は選挙権はない筈ですが、英国はどうなのでしょう?


今回の5年ぶりの英国総選挙については、日本でも詳しく報道していますが、以下、英国のメディアを覗いての情報です。


(1)投票率は66%、18~24歳も60%と平均より低いが差はさほど大きくない、スコットランド(以下ST)は71%と平均より高かった。

結果から言えることは
(2)保守党の331の単独過半数確保。
(3)労働党は25減らし232――票田だったSTでの敗退が主因、党首は辞任
(4)スコットランド国民党(Scottish National Party、SNP)が大躍進、スコットランド59選挙区の56を勝って第3党へ。前党首は「スコットランドのライオンがついに吠えた」と語り、保守党の幹部は「これはツナミだ」と叫んだ。女性の党首スタージョンNicola Sturgeon)の人気も与かった。

(5)自由民主党は49議席減らし、8議席と惨敗。保守党との連立は解消、党首(前政権の副首相)は辞任。
(6)移民の制限やEUからの離脱を主張する英国独立党(UKIP)は僅か1議席。党首は辞任。
といったところでしょうか。


スコットランドの支持を失い、これからの労働党は深刻でしょう。
他方で保守党はEUとの関係をどうするか、STに一層の自治を認める、場合によって「連邦制」に近い方向も考えざるを得ないかもしれない。EUとの関係がぎくしゃくすれば、
SNPの再度住民投票への訴えもいっそう強まるかもしれない。
最大の敗者は接戦を予想したメディア、との反省もあります。
これらを読んで、沖縄の人たちはどう思ったでしょうか?


3. 自由民主党の不振も深刻です。(英国の話です)
ここで少しこの党に触れますと、1988年に自由党社会民主党が合併した政党で、中でも自由党はかっての名門です。
19世紀後半から20世紀初頭は保守党との二大政党時代で、グラッドストン、アスキス、ロイド・ジョージなどの首相を輩出、チャーチルも一時在籍しました。グラッドストンアイルランド独立や自由主義を支持して、ヴィクトリア女王・デスレリー保守党の帝国主義と対決し、ロイド・ジョージは英国の福祉政策の充実に大いに貢献しました。
その後、普通選挙権による選挙権者の拡大のため労働党に票を奪われ第三党に転落し、以来、保守・労働の二大政党が続いています。

自由民主党は「中道を目指す、社会自由主義を標榜する政党(centrist, social liberal political party )」と言われます。(因みに、保守党は対して「中道右派」、労働党は「中道左派」です)
「幻想を抱かない理想主義」や「ラディカルな中道」という伝統と自らを結びつけ、今回辞任した前党首は「我々は、右でも左でもない。ひたすら、リベラルなのだ」と主張しています。

このように英国の政党は、党名が党の政策・主張・哲学そして支持層と見事に結びついています。
そして個人的には「ひたすらリベラル」の英国自民党の不振をいささか淋しく思う者ですが、
それ以上に強く思うのは、これこそが「自由民主党」である、
それなら、日本の「自由民主党」はいったい何なのかということです。


4.日本の「自由民主党」は英文名は当然「リベラル・デモクラティック・パーティ」です。
この政党と支持者が考える「リベラル」はどういう意味でしょうか?
いま私たちの世代にも、自民党と安倍某を支持する保守派は増えていますが、彼らにときどきネットやメールで「リベラルの輩(やから)」と揶揄されることがあります。

リベラルを攻撃する自民党支持者は、率先して自民党の名称変更を主張すべきではないでしょうか。

例えば、文部大臣が、国立大学では式の時に国歌・国旗を順守すべきという要請をするそうです。
個人的には「国歌・国旗」に特に反対する者ではありません。
しかし、それを国家権力が「要請」することは「リベラル・デモクラティック・パーティ」が決してやるべきことではありません。
ある国立大学が理事会や教授会で、式の時に国歌を歌わないと決めたなら、それが政権与党や文部省の意見と異なっても、その判断を尊重する・・・・こんなことは言うまでもありませんが、これが「リベラル」です。


日本の自民党の「理念」には「わが党は、すべての人々の人格の尊厳と基本的人権を尊重する、真の自由主義・民主主義の政党である」とあります。

「真の自由主義とは?」と考えます。国立大学に「国歌・国旗」を要請するのは「真の自由主義」か?
そのうち、私たち一人一人が「真の自由主義」のために「祝日には(鯉のぼりと並んで)国旗を出せ」と「要請」されるのではないか。

5. もちろん「リベラル」あるいは「リベラリズム」とは何か?はなかなか難しい問題です。
盛山和夫東大教授は『リベラリズムとは何か、ロールズと正義の論理』(2008年)で、


(1)今日の日本語では一般に「リベラリズム」と「自由主義」とを使い分けている。
(2)前者は、「社会のあり方を合理的に秩序づけるための原理を探求しようとするもので、「個人主義」「普遍主義」「平等主義」などの特徴の他に、アメリカの哲学者ロールズによって提示された「善に対する正義の優位」の考え方も含まれている。
(3)対して「自由主義」は、一般に「自由」を重視する非常に広範囲の思想をさすものとして用いられる。
(4)「ところが、(当たり前だが)英語では、Liberalismという言葉一つしかない」
と指摘しています。

自民党の支持者が「俺たちは、リベラルの輩とは違うんだ」と言うのなら、「リベラル」は自民党の言う「真の自由主義」とはどこがどう違うのでしょうか?
少なくとも英文名は「リベラル・デモクラティック」ですよね。
実態に合っているでしょうか?
保守党か日本ナショナル党かひょっとして八紘一宇党か知りませんが、名前を変えるべきでしょう。