ローラ・バセットのオウンゴールを英国メディアはどう報じたか

1. 本日のブログは珍しく、女子サッカーの話です。
といっても、「なでしこジャパン」については、山のような情報が流れていると思いますので、

1日の準決勝でなでしこに2-1で敗れたイ

ングランドの、オウンゴールで敗れた当事者ローラ・バセット選手について、英国のメディアがどう伝えたかを書いておきたいと思います。内容はご存じの通り、「決勝点は試合終了間際のロスタイム、右サイドから上がった川澄選手のクロスが相手DFのクリアミスを誘い、オウンゴールとなった」。


2.日本のメディアがどの程度取り上げたかどうか知りませんが、ともかく、英国人にとってはたいへんなショックだったようです。
イングランドが勝てば、女子にとっては初の、男子も1966年以来49年間決勝には進出していないそうですから、いかにこの試合に期待していたかが想像されます。


(1)まずは、英国のメディア記事を埋めた言葉は、
「cruel(あまりに残酷)」と「unlucky(不運な)」と「heartbreaking(胸が張り裂けるような)」の3つ。

(2)次に、オウンゴールの当事者ローラ・バセット選手は泣き崩れた、彼女は「heartbroken(打ちひしがれて)」、「inconsolable(慰めようがなく)」だったと報じます。

(3)そして、選手も泣き叫び、ファンも涙を流し、マネージャーのサンプソンも眼を真っ赤にして記者会見に現れた。

(ここで私は、Team-mates cried, fans wept・・・・という表現、選手は“cry”でファンは「weep」
という英語の違いに興味を持ちました。前者は悲しみを激しく態度に出す、後者はすすり泣く、というイメージでしょうか)

(4)そして最後に、ローラ・バセットに対する同情と応援と激励のメッセージが溢れたことです。
新聞にもインターネットにも、
チームメイトからも、プロの選手やOBや解説者や一般人からも、メッセージが殺到し,彼女のツイッターにも「元気を出して(Hold up your head high)!」「あなたが、いままでどんなにチームに貢献したかを知っている」「誰もがあなたを大好きだ」といった投稿が相次ぎました。

3. 誰でも、思わぬチョンボはあります。
不運もあるでしょうが、本人の気持ちとしては運が悪かったではすまないでしょう。自分のミスでチームが負けた、敗者になった、という気持ちはどうしても拭えないでしょう。辛いですね。
もちろん今回ほどドラマティックではないが、誰にもそういう経験はあるのではないか。
そういう時、周りは、他者はどう対応するか?
自分自身はどう乗り越えていくか?

たまたま朝の時間で家人と一緒に見ていたのですが、家人のコメントは「北朝鮮だったら、死刑になるかもね・・」でした。
日本だったら、どうでしょう?
敗者(とくに自らの失敗による)に優しく接するべきか?ミスはミスとしてそれなりに厳しく接すべきか?

4.英国以外で違った視点で報道しているのがあるかなと探したら、アメリカのニューヨーク・タイムズに、ちょっと距離を置いた視点での記事があり、以下、簡単にお伝えします。

(1) こういう出来事が起きた場合に、英国のメディアは得てして意地悪い記事を書くことが多い。
しかし今回は違った。バセットへの同情の記事に溢れた。

(2) 過去の男子選手の場合はこういう具合ではなかった。
例えば、1988年、イングランド男子サッカーチームの対アルゼンチン戦でベッカムがレッド・カードを貰ってペナルティ・キックで負けた時、
「10人のヒーローたちと1人の愚か者」という見出しをつけた新聞もあったように、ベッカムへは冷たかった。

(3) もちろん今回は、
ベッカムとは違って意図的ではなく、まったくのミスであること
・かつ試合終了直前の、まことに不運な時間帯だったこと
という違いはある。
しかし、それだけではなく、
バセット選手が泣き崩れたことも大きかったのではないか。
対して、男子選手が泣くことは許されるか(サッカーの英国選手に例があるが、あまり同情はされなかった)。

(4) ある社会学者は、
「男子のアスリートは、誰もがアスリートとして試合を見守る。
しかし、女子のアスリートは、誰もがまずは女性として見てしまう」
と発言し、
それに対して他の学者からは
「それは、性差別である。ローラ・バセットに同情するのは「性差別主義者」である」
「男女ともにミスはミスとして同じように扱われるべき。
さらには男子選手だって同じように泣いていいし、同じように同情されるべき」
と反論し、
一般読書の投稿は賛否両論、200近くに上っています。

5.以上、私はこの出来事を、前述したように
「失敗した敗者にはどう接すべきか?それは国民性によっても違うか?また敗者自身が立ち直るにはどうすべきか?」という問題意識で関心をもったのですが、
英米はそれに加えて「男女差別」の視点から捉えているところを興味深いと感じました。
何れにせよ、彼女は「私の名前なんか皆が忘れてほしい」「あの瞬間が無くなることが出来たらどんなことでもしたい」とツイターで嘆いています。
立ち直ってほしいものです。

5.最後に蛇足として、英語と日本語の違いを2つ、ご存知の方も多いと思いますが。

(1)日本ではサッカーでも野球でも「監督」と言いますが、英語では全て「マネージャー」です。「なでしこ」の佐々木監督と「イングランド・ライオネス(雌の獅子)」のマネージャー・サンプソン。
「監督」の方が何となくえらそうですね。
(2)日本のサッカー用語では「ロスタイム」あるいは「アディショナルタイム」といいますが、英語では「インジュリー・タイムinjury time」と言うようです。英和辞典には「(けがの手当てに要した分の)延長時間」と訳してあります。
わざわざ違う英語を使う理由は何でしょうね-