大統領予備選にトランプ旋風とエコノミスト誌の論説

1,  我善坊さん、コメント有難うございます。クロスワード・パズル、英米人が大好きですね。何故でしょうね?
私は英語のクロスワード・パズルは全くお手上げです。知らない単語のオン・パレードで、バイリンガルを自認する日本人でもこれが得意だという人が居るのでしょうか?


2, トランプ旋風に関する英国エコノミスト誌1月30日号論説と米国タイム誌1月18日号の特集記事を読みながら、今更のように知らない単語が多いのに驚きます。

もっとも、トランプ旋風があまりに「奇妙」なので、書く方も普段使わない「奇妙な」単語を使わざるを得ないという気持ちがあるのではないか。


3, エコノミスト誌は、「The brawl begins(ばか騒ぎが始まる)」と題して、いよいよ2月1日アイオワ、1週間後ニューハンプシャー、3月1日テキサス・フロリダを含む「山場」と、一連の予備選挙が続き、7月の党の指名大会、11月の大統領選、の長丁場について取り上げています。


「The brawl」とは、英和辞典を引くと「(騒々しい)けんか」とあり、次いで「(米俗)にぎやかなパーティ」とあります。英国人は原義で、アメリカ人の読者は俗語に沿って理解するのでしょうか。英語の多義性の難しさですね。

共和党の支持率トップのトランプと2位のクルーズが、ともに、党幹部や現役の議員や
知事やメディアなどの「体制(エスタブリッシュメント)」の意に全く反して勢いを伸
ばしていることを信じ難い思いで見ている人はアメリカ国内だけでなく、英国にも多い
でしょう。


エコノミスト誌の論調には、こういう成り行きに、やはり英国とは違うという皮肉と嘲笑が感じられますが、
同時に、ひょっとするとひょっとするかも、「けったいな」トランプか「超右翼」のテッド・クルーズかどちらかが選ばれる可能性が高いことへの大いなる懸念が読み取れます。
トランプを評する言葉には、「anomaly(normalではない、異常)」だの「sprawling(ぞんざいな), tumultuous(騒々しい) diatribes (痛烈な非難)of Donald Trump」だのが頻発して辞書で確かめる回数が増えます。

誰もが二人を「アウトサイダー」と呼ぶのは分かりやすいですが。


「Disintermediation」という言葉も使われて、intermediationが「仲介」ですからこれは「中抜き」という意味でしょう。
つまり、トランプが、既成の政治家、党の幹部、メディアなど伝統的な「体制」を全く無視して彼らを飛び越えて大衆に直接訴え、それが成功している。
「俺たちは怒っている。トランプは誰の世話にもならず、自分で稼いだ金で運動している、だから本音が言える。俺はそういう彼の「politically incorrect」なところが大好きだ」という白人の労働者階級の男の発言が代表的です。
「トランプが候補者にならなかったら、投票なんか行かないわ」という女性の声も紹介されます。


この「ポリテイカリイ・インコレクト」も訳しにくい英語です。
ネット検索すると「ポリティカル・コレクトネス」でウィキぺディアの日本語の解説が載っています。日本でもこのままカタカナで使うことが多いです。
アメリカで1980年代あたりから始まった、社会差別や偏見を含まない言動一般のこと。
例えば、黒人を昔は「二グロ」その後も「ブラック」と呼んでいたが、今は「アフリカン・アメリカン」。
アメリカン・インディアン」は「ネイティブ・アメリカン
「チェアマン(会長、議長)」は「チェア・パーソン」
「メリー・クリスマス」も「ハッピー・ホリデイ」と言う人が増えてきたそうです。
もちろん日本でも同じ状況です。
上にあげた労働者階級の男は、これを踏まえて「インコレクト」と否定形に使っている訳で、
「トランプは「ポリティカリイ・コレクト」で自分を飾ろうとしない(インコレクト)、本音を喋っている」と言いたいのでしょう。
トランプは、2003年から出馬表明の直前までテレビ番組の主役として登場し、人気を博しました。大衆の心をつかむ芸能人のセンスも持っているのでしょう。


4.ということで、以下エコノミスト誌の論説を簡単に紹介して終わりにします。
同誌は、
「これほど見苦しく、不透明で、不思議な選挙戦はきわめて稀だ」
「世界で最大の権力を担う人物を選ぶプロセスが、こんなにアウトサイダーに引っ掻き回されているのは、アメリカの歴史でも、前代未聞である」
として、以下続けます。

(1) アメリカ全土で、政治エリートと穏健な人々が、信じられない思いでこの有様を見守っている。
(2) その理由には、第1に多くのアメリカ人が体制派とエリートに対して怒っている、第2にポピュリズムがこの国に伝統にあることに加えて、第3に大統領が直接選挙で選ばれるシステムであることも大きい。

(3) もちろん過去の選挙でもポピュリズムを代表する候補者が人気を得た例は少なくない。しかし彼らは何れも長丁場の間に失速し惨敗するのが常だった。

(4) しかし、今回は様子を異にする。とくに共和党でそうである。民主党の予備選も、同じくアウトサイダーのサンダース氏がヒラリーを猛追している。しかしサンダースが全国的な支持を得るのは難しいだろう。

(5) 他方でトランプとクルーズはどうか?
少なくとも現時点では、このどちらかが、党の幹部や権力者の意に反して、党大会で指名を獲得する可能性が高いと言わざるを得ない。


(6) 我々エコノミスト誌は、そこを大いに懸念している。
仮に、ヒラリー対トランプ(あるいはクルーズ)の選挙戦になった場合、
・ヒラリーは決して選挙上手ではないが,相手がクルーズならあまりに右翼すぎて心配しなくてもよいだろう。
・しかしトランプとなると分らない。彼は右からも左からも不満層の票をある程度集められるからだ。中道層にだって厚かましく食い込めるかもしれない。
・しかも大統領選挙は、各州ごとの50対50の投票である。一握りの州での僅差が結果を決めてしまうことが多い。
・接戦になった場合には、選挙日に近くなってからのテロリストの攻撃や候補者のスキャンダルが現実化したとき、それらが勝敗を左右する決定的な要因になるのではないだろうか。

――――以上、何やら不安な予測をしていて、これからの行方が大いに気になります。