『保守主義とは何か』(宇野重規、中公新書)を読む

1. (JR東海からの「制裁」)についてここ2回書いてきました。
まだ友人から親切なメールが来ますので、感謝とともに報告します。
彼は、JR東海ジパング倶楽部・事務局に電話してくれて以下の回答があったそうです。


「車内での点検を強化するようになったのは、最近不正使用が目立つように
なったからで、会則の変更はなく、運用で対処している。
同様のクレームが増えているので、会員に注意を促す方策(例えば会員誌を
活用する等の方法)を検討中である。」


「同様のクレームが増えているから・・・」という言い方は、運用の変更を事前に周知徹底していないことを認めていると思いますが、それを今になって(制裁を科したあとで)「注意を促す」というのは、まさに「フェアでない・後出しじゃんけん」ではないか、と私は考えます。


2. (『保守主義とは何か』)
ところで我善坊さんから「保守主義」について長いコメントを頂きました。
今回は少し硬くなりますが、「和歌」と「短歌」の違いから離れて、

最近読んだ『保守主義とは何か、反フランス革命から現代日本まで』(宇野重規中公新書、2016年)を紹介し、政治思想としての「保守主義」を考えてみたいと思います。
「あとがき」で、著者は

(1) まず、「必ずしも自らを保守主義者とは考えていない」人間が保守主義を考えることに意味があるのではないか、と立場を明らかにします。

(2) その上で、「いまはむしろ保守主義におごりや迷走が見られるのではないか。
(だから)「劣化」が起きているようにみえる保守主義を批判的に再検討しなければならない」という問題意識に立って、「保守主義の源流」といわれる英国の思想家エドマンド・バークから説き始めます。

3.(「何を保守するか?」)
「保守するためには変わらなければならない」という有名なバークの信条(クレド)も紹介されますが、


もっと大事なのは、と宇野東大教授は以下のように語ります。
(1) 「批判的に再検討する」に当たっては、「一人一人が何かを守る」という原点に戻ることが必要ではないか。(P.5)

(2) 「守るべきものは何か?」は人によって異なる。


(3) しかし、少なくともエドマンド・バークに戻れば、彼の保守主義とは「個人の自由を維持することであり、民主化を前提としつつ、秩序ある斬新的な改革が目指される」。

(4) このように、「保守主義とはあくまで自由という価値を追求するもの」であり、だからこそ、早々と自由の確立を達成した英米保守主義が先行して確立したのも不思議ではない、と宇野さんは続けます。


(5) ということは(ここからは私見ですが)、「保守するためには変わらねばならない」という信条についても、

まずは「変えるべきでないものは何か?」を踏まえて、その上で「何を変えるか?」を考える精神の構えが重要であり、それは保守と反動とは全く異なるということでもあります。

4.(日本の現状は?)
このような観点からすれば、日本の現状についての著者の以下の認識と厳しい批判は、よく理解できます。

――(1) 戦後日本の保守主義は、本質的に「何を保守するのか」、曖昧さを残すものとなった。
現在、世に「保守主義」は溢れている。しかしながら、バークの定義に立ち戻るならば、日本に本当の保守主義が存在したのかは疑問が残る。(P.189)


(2) もしバークに従うのであれば、・・・イデオロギー的な転換を試みることには、あくまで慎重でなければならない。もし、それを変更するとしても、現行秩序に内在する自由の論理を発展させ、斬新的な改革をはかることが優先的な課題となるべき。
➡歴史の中に連続性を見出し、保守すべき価値を見出す保守主義の英知が今こそ求められている。(P.190~191)


5.(これからの保守とリベラルは?)
このような、バークに沿った著者宇野さんの立場からは、リベラルと保守がともに「自由」を守るという一点で、重なりあう点が多いということになります。


しかし、両者の対立軸がまったく無効になるとも考えにくい、と著者は以下のように述べます。


――人間の道徳基盤に<ケア><公正><自由><忠誠><権威><神聖>があるとすれば、リベラルが後三者よりもむしろ前三者を優先するのに対し、保守は後三者を前三者と等しく重視するという違いが重要である。(P.203)
――仲間との関係を優先する前者の立場が保守と、普遍的な連帯を主張する後者の立場がリベラルと親和性をもつといえる。このことは、政治において、共同体の内部における「コモン・センス」を重視するか、あるいは自由で平等な個人の間の相互性を重視するかという違いとも連動し、今後の社会を論じていく上で有力な対立軸となるであろう。

 ――いずれにせよ重要なのは、多様な志向の共存を可能にすることである。リベラルと保守とが生産的な対抗関係を維持することは、今後も引き続き重要な課題であろう。(P.204)


6.(最後に、もう一度リベラルの復権を)

(1)以上、宇野さんの内容をごく簡単に要約しました。
(2) 読みながら感じたのは「必ずしも自らを保守主義者とは考えていない」という著者の主張への共感です。
(3)さらに付け加えれば、著者の言うように「(いま、おごりや迷走が見られる)保守主義を批判的に再検討する」ことが必要であるとすれば、

「いま、あまり元気がないリベラルを批判的に再検討しつつ、その復権に期待すること」ももっと大事ではないか、と考えました。

最近、19世紀の古典、ジョン・スチュアート・ミルの『自由論』を新訳(2012年)で再読したせいもあるかもしれませんが、
私個人としては「もういちどリベラリストの諸兄、頑張れ!」と応援したい気持ちです。