『資本主義の終焉と歴史の意義』(水野和夫)を読む

1.(はじめに)
世田谷区の有志がボランティアで5年前に始めた読書会は、順調に続いています。
8月を除いて月1回の土曜日、梅ヶ丘の区民会館に20人ほど4時間も集まり、事前に多数決で選ばれたテキストを推薦者が発表し、皆で話し合います。
9月は、『資本主義の終焉と歴史の意義』(水野和夫、集英社新書)でした。

日本経済や社会のあり方、あるいは格差の問題を考えるきっかけになればと思って、本書をテキストに選びました。
2014年「週刊ダイヤモンド」ベスト経済書第1位、2015年「新書大賞」第2位に選ばれ、話題を呼んだ著作です。渋谷の丸善ジュンク堂には、2年半経った今も平積みで並んでいます。

2. (本書について)
(1)著者は「資本主義の死期が近づいているのではないか」という問題意識に立って論を進めます。その根拠の1つにここ20年も続く先進各国の利子率の異常な低下をあげ、
それは、成長の限界、もはやフロンティアが残されていないことを示唆していると言います。
(日本の国債10年物の金利がマイナスになっていることご承知の通りです)


そのような状況で無理に成長と利潤の極大化を追求しようとすれば、バブルや格差の拡大を引き起こすだけで、中間層の没落を通して、民主主義の基盤を破壊する。


(2)この問題意識に沿って著書は、アメリカの強欲な「金融帝国化」の現状と、それが1980年代半ばから始まったことを統計から説明します。

私は、1987年オリバー・ストーン監督の映画『ウォール街』やアメリカの格差拡大についても補足しました。

マイケル・ダグラスが投機家ゴードン・ゲッコーに扮して株主総会
「greed is good ,greed is right, greed works・・・」と演説し、株主たちの大喝采を浴びる有名な場面があります。アメリカ映画でもっとも有名な「せりふ」の1つと言われます。
https://www.youtube.com/watch?v=PF_iorX_MAw


またアメリカの格差が拡大し、中間層が減って二極化が進んでいることが、大統領選挙のトランプやサンダース現象につながっていると言われます。
これは最近の調査結果ですが、

・成人人口の比較で、1971年には「中流(middle class)」の81百万に対して「上流プラス下層(upper & lower)の合計はその63%しかいなかったのに、2015年には前者120百万に対して後者121百万と追い越した。
・1970年には、中流の所得の総額が全体の62%を占めていたのに、2014年には43%まで下がった。「下層」も10%から9%に下がった、上流だけが49%と増加した。

(サンダースやトランプを支持したくなる気持ちも分かります)


(3)またこれからの新興国の経済成長と近代化は、これまでの先進国のそれとは大きく異なり、すべての国民を豊かにするものではない。現代では資本はやすやすと国境を超える。このグローバリゼ―ションのため、貧富の二極化が一国内で現れるだろう。


(4) もちろん日本でも格差が広がっていると指摘します(例えば、金融資産を保有していない2人以上の世帯の割合が2013年に3割を超え、調査以来もっとも高い、など)。


(5)このような論述は、「資本主義には所得や富を資本家に集中させていく不平等化傾向が本来的に備わっている」として世界中に議論を巻き起こしたトマ・ピケティの『21世紀の資本』にも通じるでしょう。


(6)そして、近代資本主義・主権国家システムはいずれ別のシステムへと転換せざるをえないだろうと予測します。
しかしそれがどのようなものか、人類はいまだ見出していない。従ってまずはその前に、「脱成長」に舵を切り、経済の「定常状態」(ゼロ成長とほぼ同義)が普通の姿だと認識し、資本主義の「強欲」と「過剰」にブレーキを掛けなければならないと主張します。

3. (読書会と感想)
(1)読書会には新しい参加者も4人いて、中には厳しい格差の現状や弱者に冷たいいまの日本社会を嘆く発言もあり、心に残りました。

(2) 著者の警告を私たちはどう受け止めるべきか?「資本主義は終わる」と言われてもピンとこないかもしれません。また「ゼロ成長と不平等緩和はトレードオフではないか」という疑問もないではありません。


(3)しかし、矛盾を抱えたシステムであることには納得するのではないしょうか。
そして、その矛盾(格差や強欲など)をどうやって修正していくかについては、「資本主義とは本来的に倫理性を要求するシステムであることの確認から始めなければならない」(岩井克人)でしょう。
その上で、国家と資本主義を補足する領域としての強い「市民社会」に向けて、1人1人が、ささやかであっても考え・行動していく、そういった地道な努力の積み重ねが必要ではないかと改めて考えました。

発表では最後に、岩井さんの言う「倫理性」ある資本主義の実践者として2006年ノーベル平和賞受賞、グラミン銀行の創設者ムハマド・ユヌスの言葉も紹介しました。


――「(強欲なビジネスと)もうひとつのビジネスでは、すべての活動が他人の福祉のためになされる。(略)後者、つまり人間の利他心に基づくビジネスこそ、私のいう「ソーシャル・ビジネス」である。現代の経済理論に欠けているのはまさにこの考えだ」