Brexit(英国のEU離脱)の現状とこれから

1. 連休を利用して信州の田舎に短期間滞在しています。
7日の朝日新聞トップは「野菜高い秋、9月記録的日照不足」とあります。雨・台風の被害を受けた産地は気の毒です。
八ヶ岳山麓は幸いにたいしたことなく、
刈り入れ直前の稲穂が垂れる稲田と、隣にはすでに終わった田とが並んでいる、この時期の眺めを楽しんでいます。

人に会ったり散歩をしたり、20分ほど車で街まで降りて茅野市図書館でも静かな時間を過ごしました。

図書館に行く途中、田舎の、人もほとんど見掛けない2車線の車道を運転していたら、年老いた猫がゆっくり歩いて車道を横切っているので珍しい光景だなとちょっと驚きました。
おまけに、この猫は白い斜め線が引いてある横断歩道を悠々と歩いています。
頭いい猫だな、ちゃんと分っているんだ、と感心して、車を停めてゆっくりと通り過ぎる勇姿を見学しました。



2. たまたま当地に来る直前、東京での・ある小さなサロンで「英国のEU離脱(Brexit)の現状とこれから」と題して短い発表をしました。
この問題については国民投票直後には何度もブログで報告しましたが、その後3カ月強が経ち、ここで再度現状を整理したいと思います。


3.そもそもBREXITについて、整理すると以下の通りです。
(1) 2015年欧州連合国民投票法にもとづき、2016年6月23日実施。
投票者:約33百万人、投票率:72.26%、離脱票51.9%、残留票48.1%で離脱決定。
(2) 保守党支持の58%、労働党支持の37%、UKIPの95%が離脱に投じた。
(3) 党の分裂だけでなく、当日の世論調査でも、地域、年齢、社会階層、学歴による「分断」が指摘された。
        
(4) キャメロン首相は辞任し、後任は穏健な残留派のテリーザ・メイ元内相。
EUとの交渉をディヴィス(離脱担当相)、ジョンソン(外相)、フォックス(国際貿易相)の3人に委ねた。しかし真の決定権を持っているのは首相とハモンド蔵相の2人と言われる。

4.まず英国の政治について、
(1) メイ首相は10月2日の党大会で、2017年3月末までにEUに通告し、交渉を開始すると明言した(交渉期間は原則2年)。
同時に、「ハードな Brexit」の可能性を示唆した。

(2) 離脱後に想定される英国とEUの関係は、ノルウェイ方式、スイス方式、WTO方式の3つの選択肢(前2者はEUとの特別協定、つまり「ソフト」なやり方、
最後は協定なしの「ハード」な選択)がある。
もちろん、どういう交渉になるかはこれからの話で、Economist誌はこのような現状を、(EUとの)“まやかし戦争(phony war)”(WW2におけるチェンバレン首相時の英仏とドイツとの状態)と表現している。


5.(同・経済・金融)
(1) 金融市場―株式は直前に急落、その後BOE(中央銀行)の量的緩和政策もあり回復。
為替相場はポンド安が示現している。

(2) 経済――当初の悲観論より比較的安定している。ポンド安による輸出増、観光客増など若干のプラスもある。しかし、先行き不透明と将来不安もあり雇用・設備投資、個人消費などに悪影響、マイナスは大きい。


BOE(中央銀行)は2017年のGDPの伸びを2.3%から0.8へ下げた。


(3) 今後のハモンド蔵相の手腕にも注目。日本と違って、国債残高のGDP比は84%であり、財政出動の余力はある。中間層・低所得層のいままでの緊縮財政政策への不満もあり、その解消への財政支出増や税制改革もあり得ないではない。

(4) ポンドの急落で、いま、英国への観光旅行は絶好のチャンスです。

私はちょうど1年前に娘のところに遊びに行きました。
ロンドンの、開店して間もない「博多一風堂」のラーメン、おいしかったですが、
「白たま」11ポンド、当時の円で2000円でした。
今なら、1400円で食べられます。

6.(同・社会)
(1) BREXIT直後は「無政府状態」とか「分断=2つの英国」への懸念が見られ、移民
への攻撃も報道された。いまも双方の緊張、ロンドン市内でのデモも見られ、“it is still a very divided country”と10月1日Financial Timesは伝える)。


(2) 何れにせよEUとの交渉で離脱派・残留派双方を満足させるのは難しく、今後の国内安定・統一に向けてメイ首相の手腕が問われる。

(3) そもそも、離脱派の不満の淵源は、移民問題だけではなく経済政策、病院や学校、公共交通機関などの公共サービス、そして何よりも格差の広がりによる二極化にあるという見方も増えている。


「やせ掘った中間層からのしっぺ返し」や「行きつくところまで行ったグローバリゼ―ションへの反発」〈エマニュエル・トッド〉という見方であり、トッドは「イギリスとアメリカは、グロ―バル化の先鞭をつけた2か国であり、結果として経済格差がもっとも大きくなった国でもある」と指摘する。
その点で、労働党のコービン党首再選や、アメリカのトランプ現象・サンダース現象とつながる面もある(経済・政治双方の二極化)。

6.EU(欧州連合)についてについて触れる紙数はなくなりましたが、英国についてはこんなところでしょうか。

最後に、4の(3)で紹介した「まやかし戦争(phony war)」について補足しますと、
これは
1939年9月のドイツ軍によるポーランド侵攻の後、1940年5月のドイツ軍のフランス侵攻まで、ドイツとフランス・イギリスは戦争状態にあったにもかかわらず、戦闘が皆無に近い状態であったことを指し、

5月にヒトラーとの「宥和政策」を図ったチェンバレン首相は辞任し、満を持してチャーチルが登場、労働党も入れた挙党一致内閣を組成し、本格的な戦争に突入しました。
英国も、EUとの「戦闘」は来年3月までない、ということを皮肉っているのでしょう。