オバマにとっての「レトリック」と「2016年タイム誌今年の人」


1. 今週末は京都に行く予定なので早めにブログ・アップします。

前回紹介したオバマ退任演説について、もと職場の友人が「彼のスピーチには、ギリシャ・ローマの修辞技法(レトリック)が実に効果的に使われている」と教えてくれました。格調の高さにはもちろん内容が第一ですが、加えてレトリックも大事ということです。

友人によれば「ギリシャ人、ローマ人は演説を非常に重視し、それにはレトリックを駆使したようです。キケロ共和制ローマの哲学者・政治家)の演説を東大で教わりましたが、修辞技法がたっぷり出てきます」とありました。
彼は篤学の士で、私とほぼ同年齢で、いまも東大に通ってラテン語を学んでいます。


2.「修辞技法」には実にたくさんの「技法」がありますが、ほんの少し例をあげると,
(1) 首位反復(ラテン語でAnaphora)
(2) 三つの法則(古代ギリシャのtricolon)
(3) 二詞一意(hendiadys)
(4) 矛盾語法(oxymoron)

例えば、「首位反復」は、文章の最初の語句(首位)を繰り返すことで強調すること。

キング牧師の「私には夢がある〜」や「自由の鐘を鳴らそう〜」の「首位」が有名です。
彼は17分のスピーチで、前者は7回、後者は11回同じ「首位」のあとに異なる「〜」を「反復」しました。力強く迫力ある演説でした。

また例えば「三つの法則tricoln」は、同じ語数の単語や語句を並べること。
カエサルが戦いの勝利をローマに書いて伝えた「来た・見た・勝った(Veni, vidi, vici、ウィニ、ウィディ、ウィキと発音するらしい)」が有名です。
これを説明する英文ウィキペディアを読んでみたら、
「英訳すると、"I came; I saw; I conquered "だが、これはラテン語のように同じ字数とリズムになっていないので正確には「tricolnではない」と解説していました

ラテン語の凄さを感じました。

ここで脱線ですが、何十年も昔、超下手なゴルフを少しやりましたが、伊豆の川奈ゴルフ場は眺望の素晴らしいコースでした。
各ホールにそれぞれ短い「名前」がついていて、その1つのパー3のショート・ホールに,
このラテン議の「Veni, vidi, vici 」という名がついていました。
高いところから伊豆の海を見晴らしながらグリーンに向かって打ちおろす、爽快なホールです。


3. オバマさんの場合、学校でラテン語の授業を受けて「修辞学」を学び、基礎がしっかり出来ているのでしょう。

いまでも西欧で「学校教育でのラテン語が大事だ」と主張する人がいるのは、こういう伝統を踏まえているのでしょう。
日本であれば、漢学を学ぶこと、古文を学ぶことがラテン語に対応する筈、しかしいまの学校教育はどうなっているのでしょう。

「品格をもって書く・語る」には内容と同時にそれを支える「技術」を学ぶことが大事だとつくづく思います。


他方でいよいよトランプ登場ですが、彼はどんな格調の高い就任演説をするでしょうか。彼がラテン語を勉強したかどうかは知りませんが。


ニューヨーカーの一部にはオバマ大統領が去ることで「オバマ・ロス」が生じていると
NHKのBS海外ニュースが伝えていました。


例年タイム誌が選ぶ「今年の人(Person of the Year)」の2016年はむろんトランプさんですが(昨年ドイツのはメルケル首相)、すでに12月19日号で発表されています。

しかし私もいまいち気が乗らなくて、このところ、オバマさんのことばかり取り上げました。

遅くなりましたが、例年に倣って。簡単に報告致します。因みに「2016年今年の人」トランプ大統領に続いて、次点は敗れたヒラリー・クリントン、次々点は、最近話題の「ハッカー(タイム誌は、コンピュータ技術を悪用して他人のコンピュータに侵入・破壊を行う者を指しています)」です。


3. (1)「今年の人」にトランプ氏を選んだ同誌はとうぜん彼の写真が表紙ですが、それには「President of the United States」ではなく「President of the Divided States of America」
とあります。

同誌として精一杯の皮肉と懸念を示しているのでしょう。
彼自身と支持者との「分断・落差の大きさ」にも触れています。
トランプタワーの最上階66階から68階を占めるトランプの王宮のような豪華な邸宅と、そこに住むダイヤのカフリンクスをつけたトランプ。

そして彼が最大の感謝を捧げるべき支持者の多くは、豪華なトランプタワーの中に入っ
たこともない、「忘れられた人たち」と彼が呼ぶ労働者たち。
そしてトランプは言う「私は彼らを代表している。彼らは私を愛し、私も彼らを愛して
いる」と。(所得税もほとんど払っていない大富豪がよく言うよ・・・)。


(2) 彼が選挙運動中にやったことは「統一された明るい未来」を語る今までの政治家と正反対に、現在の分断されたアメリカを指摘し、新たなレベルの怒りをこの国に引き起こし、「変化」を約束したこと。その結果、この「デマゴーグ」が白人労働者だけではなく、2012年選挙の共和党候補者より多くの票をラティーノ、黒人、白人女性からも獲得したのだ。

(3) 不動産王であり、カジノの所有者、転じてテレビの人気パーソナリティで扇動者。品格に疑問なしとせず、政治経験はまったくない。

しかも彼の勝利は英国からフィリッピンまで世界中に拡がるナショナリズムの潮流を反映している。
インターネット革命の産物でもある。


(4)「タイム誌の今年の人」は2016年で90回目。「良くも悪くも、その年もっとも大きな影響力を持った人物」を選んできた。

今年(2016年)の人は果たして「良いのか?悪いのか?」
トランプの登場は、今回ほどアメリカ国内の意見が深く割れたことがないという点にある。

⇒2017年、支持者も批判者も、彼の発言のうちどれを、どの程度本当に信じていいのか、見出すことだろう。