花を愛でる、英国人と無駄話、嘘はつかない、


1. 我善坊さん、いつも丁寧かつ的確なコメント有難うございます。
「くに(country)」と「国家(nation State)」という表記については、某友人からメールで質問もあり、説明をつけた方がよかったかもしれません。
こういう表記にした理由を補足すると、以下の通りです。
(1) 我善坊さんのように「国(nation)」と「国家(state)」を区別するのが普通。
(2) 私は後者を「国家(nation state)」と書いたので、混同されないように「くに」の英語に「nation」を入れなかった。ここは正確には「国民国家(nation state)」とすべき。
(3) 前者を[国(nation)]ではなく[くに(country)]にしたのは、まさに我善坊さんご指摘のように、日本では((2)に書いた「“国民”国家」であることもあって)「ナショナリズム」が「nation」と結びつけられてしまう、その危険を避けたかった。


2.以上でお礼と補足を終えますが、前回は「真実は死んだのか?」というタイム誌の嘆きを紹介しました。
「人間はなぜ平気で嘘をつくのか?」と同時に、国際ニュースを見ていると、
「人間はどこまで残虐になれるのか?」と嘆きたくなります。
例えば、シリアの内戦で科学兵器が使われているという報道と悲惨な映像です。
欧米はシリア政府を非難し、政府とロシアは、反政府軍の仕業と応酬し、
―――ここでも、どちらかが平気で嘘をついている。
しかも、その結果が空爆というさらなる悲劇を招いている・・・・

これら一連の流れが、普通の神経の持ち主なら堪えられないと思うのですが、まるで日常の出来事のように報道される・・・
もし神がこの世を創造したのであれば、人間は神が作りだした最悪の作品ではないか、そんな気持ちにさえなってしまいます。


そんな世界にあって前回写真で紹介した英国の水仙の花やいま東京で盛りの花々は、最良の創造物の一つでしょう。
自分たちは、何とこの美しさに及ばないことか。そんな後ろめたい気持ちがどこかにあるから、私たちは花を愛でるのではないでしょうか。


2.いま欧州はイースター休暇とやらで、娘の友人が一家で日本にやってきて、彼らと半日付きあいました。桜は満開、良い天気で、喜んでいました。

六本木の国際文化会館で軽いお昼のあと庭に出て桜を眺め、東京ミッドタウンというホテル、お店、オフィスビル、美術館、公園などを備えた複合施設を散策し、リッツ・カールトン・ホテルのラウンジで憩い、そのあとバスで渋谷まで一緒に行き、そこから歩いて代官山まで行くという彼らと別れました。

英文のガイドブックに、お勧めの散歩コースがいろいろ載っているそうで、昨日は谷中に行った由。代官山も代々木富ヶ谷千駄ヶ谷などと並んでお勧めの1つだそうです。彼らが日本のどういうところに関心をもつかは興味があります。

谷中の天王寺幸田露伴の小説にある)は家人の実家のお墓があるのでよく行きますが、たしかに最近、外国人観光客の姿をよく見かけるようになりました。
しかも、若い人はとっくにご存知でしょうが、スマホを検索すれば、歩くルートも含め、すべての情報が英語で入手できる、便利な世の中になったものです。

夫婦と2人のお嬢さんの一家は、東京に3泊、そのあと高山、京都、宮島から箱根に戻って、帰途につく由。
泊りはいわゆる民宿で、「airbnb」という国際組織があってインターネットで世界中どこでも予約できるそうです。これも若者は先刻ご承知でしょうが、簡単な英語力で、ネット経由自分で何でもアレンジできる時代になりました。

東京の泊まりは東麻布で、京都も便利な場所にあるようです。こんなことを外国人から教えてもらうのですから、老人には面白いです。


3.六本木は面白い場所で国際文化会館のあたりは、大使館やクラブ・ハウスや学校(東洋英和)や教会(鳥居坂教会)があって閑静な一画ですが、交差点に向かって歩くと、細いビルが林立し、夜の歓楽の場所などが雑然と並び、通りすぎると今度はモダンな複合施設になります。
細いビルを指さし、「あれは和製英語で“ペンシル・ビル”と言う」と教えたりしながら、歩きました。
教会を見ながら「日本のクリスチャンは人口の約1%」と言うと、「そんなに少ないのか」とびっくり。「殆どが仏教徒か?あなたもそうか?」と訊かれました。
質問が多いのは欧米人の観光客の通例で、「なぜ、マスクをしているのか?」から始まり、質問攻めにあいました。

ミセスは40代の半ばでしょうか。ロシアで生まれ育ち、大学院はアメリカのコロンビア大学MBA、そこでオックスフォード大を出てやはりコロンビアに留学した英国人の夫と知り合ったそうです。
彼はオックスフォードのセント・キャサリン・カレジでは「化学」を専攻、コロンビアではやはりMBAを取得した。
彼らの学歴を聞いていつも思うのは、学部では、「歴史」だの「化学」だの「文学」だのリベラル・アーツを学ぶ。大学院で「法律」や「経営・金融」などの専門を学ぶ。こういう学びがきわめて当たり前だということ。
彼はロンドンで投資銀行にしばらく勤めたあと退職して、いまは風力発電の機械を製造する小さな会社を立ち上げたそうです。
「化学」と「経営」の知識はともに役立っているでしょうし、同じ会社で「宮仕え」を続けるという生き方に拘らないのも、日本ではまだ珍しいのではないか。


4.ミセスの方は、シティの某投資銀行の管理職で、「英国のEU離脱」の話題を話し合いました。
英国は、3月末に離脱の正式通知をして、これからEUとの交渉が始まる。
どちらにとっても厄介な交渉、2年で終わるか?
離脱によって、自他ともに認める「国際金融センター」の王者ロンドンがどうなるか?
パリやアムステルダム、フランクフルトなどに「金融センター」の地位を奪われるのではないか、英シティは地盤沈下するのではないかという懸念が拡がっています。
シティにはタチアナさんや私の娘のような外国人も多く、雇用や経済・社会に大きく貢献していますが・・・・

タチアナさんは、シティの地位が揺るぐことはない、とかなり楽観的でした。
英語・英国の法律・会計・人材などのインフラのほか、「大陸では労働規制が雇用者に甘すぎる。週35時間勤務、休暇は年6週間もある、これでは金融の仕事なんかできない・・」とよく働くキャリア・ウーマンらしく、雇用者天国のドイツやフランスに批判的でした。

それにしても、英国人だって一家4人ではるばる日本に来て2週間も滞在する・・・、「過労死」が問題になっている日本の雇用の状況とはだいぶ違うのではないか、と考えながら(Karoushiは英語の辞書に採用されているだろうか?)話し合いました。


日本人の老人と英国からの中年の夫婦と、桜を眺めながら、そんなよもやま話をした時間でした。
お互いに、利害関係も何もない、「一期一会」で「嘘をつく」必要などまったくない。

「嘘をつく必要がない、嘘をついたって何も得することはない、そういう状況をできるだけ多く自分の周りにつくる。そうすれば人は嘘をつかなくなる・・・のではないか」。
老い先短く、利害関係に巻き込まることがないから、こんなきれいごとを言えるのかもしれません・・・・