『ことばを鍛えるイギリスの学校』(山本麻子)のことなど

1. GWの連休が始まり、老夫婦で田舎に来ています。桜がちょうど盛りで、鯉のぼりも舞っています。


前回はイースター休暇で一時帰国した孫のことを書きました。
英国の小学校のことにも触れたいと思います。
といっても、とくに詳しいわけではなく、彼が通っている学校のことを両親から聞いて、『ことばを鍛えるイギリスの学校』(山本麻子、岩波現代文庫、2012年)という本を読んだ知識からの受け売りです。


2. 彼はいま5歳2か月ですが、昨年9月から学校(男子だけのカトリックイエズス会)の学校)に通い始めました。

入学したときは4歳7か月でしたが、『イギリスの学校』には、「英国では、義務教育の開始は原則として5歳である」とあります。
「原則として」とあるように、孫の学校のように5歳直前から受けいれるところもあって、何れにせよ日本より早いです。

入学試験などはなく、校長先生との面接がすべて。親の方もいろいろな学校を見てそれぞれの校長に会って、その中から選択したようです。「国教会の国イギリスで、カトリックの学校は珍しいのではないか」と言ったところ「そうでもない」という返事でした。それなりに納得して入れたのでしょう。

受け入れの時期も弾力的で、この学校の場合は、9月と1月の年2回受け入れます。新入生を一斉に迎える「入学式」などはなく、神父さんのミサがあり、そのあと先生と授業の紹介があって、それが初日で、「先生の数が多いので驚いた」と。


「新入学の子どもは、まずリセプション・クラスと言われるいわば「試しクラス」のような部門に入って、1年経って「第1学年(Year 1)」に進む。6歳前後に「2学年」に進み、11歳のころ中等学校の開始となる。
そして「16歳前後で、全員が受ける中等教育終了資格試験(GCSE)の終了をもって義務教育が終わる」と同書にあります。

彼の場合も目下「試しクラス」にいて、今年の9月から「第1学年」に進学することになります。


3.   しかし「試しクラス」といってもちゃんとした授業があります。生徒は1クラス十数人。
朝の9時から午後3時まで。しかも選択でそのあと1時間、「課外活動」に参加することも出来ます。彼は、チェス、ラグビーなどを取っている由。第1学年になると朝8時開始とのこと。

授業は、算数、地理、歴史、科学、コンピュータ、音楽・体育などの時間もありますが、多くは国語に割かれます。
かつ、「暗記重視のスパルタ式」と「表現力や発想力」を重視する教育との組み合わせのようだとは親からの情報です。

以下貰ったメールの続きですが、
「イギリスは、中学に上がるまでは、暗記重視のスパルタ式で、徹底的に知識を叩き込みます。算数だけはなく、国語の「語彙」や「スペル」も、細かいテストもたくさんあります。
その上で、同時に養ってきた表現力、発想力、論理性が、中学生以降、花を咲かせるようです」とあります。


4. 本書は、著者がイギリスの大学に勤めながら3人の子供を現地校に通わせた実体験をもとにこの国の教育について書いた本です。
まず「はじめに」で、イギリスの初等・中等教育の特色について述べます。

(1) イギリス人にとっての「教育」とは「独立して考えることができるようになるため」であること。

(2) 「一人一人がこの世で居場所を見つけることが大切」でありそのため「生徒一人一人の個人としての評価を重んじなくてはならない」。

(3) その上で、「(母語としての)英語」の教育を何よりも重視する。

(4) 生徒への接し方は、「加点主義」を基本とする。「イギリスの教育では個々人はみな違うという前提がある。能力も違う。どの子も居場所がなくてはいけないから、一人一人のよいところを評価してやることが大切だと思っている。だから、どんな小さなことでも、達成したことはほめてやり、それによってその子の発展を促すようにしているのだ。
また、個人の功績を正当に評価するということは、どの部分にだれがどのくらい貢献したかをはっきりさせることにもなる・・・・」。


5. 詳しく触れる紙数はありませんが、「国語、ことばを鍛えること」を最重要視することは、本書の以下の章立てからも推察されます。
・第3章:何より重要な「国語」―英語の先生がいちばん人気があり、親も子どもに対して、まず英語に秀でてほしいと思っているらしい、と著者は言う。
・第4章:まず、話す
・第5章:小さいうちからどんどん読ませる
・第6章:幅広い「書く」教育
➡ 5歳から7歳のころから、子どもたちは書くことを楽しみ、その価値がわかるように指導される。
こういう訓練を経て、13歳ぐらいになれば、シェイクスピアを初め、沢山の文学書を原典で読むようになり、「物語」や「劇」や「調査研究報告」を(時に共同で協力して)書きあげたり、発表したり、上演したりするようになります。

例えば、第3章について著者の説明を補足すると、
母語としての英語はすべての基本というのが、英国の初等教育
英国の国語教育は単に読み書き能力の助長だけではなく、公の場で個人として独立した意見を筋道立てて、まとまりとして、述べたり書いたりすることを重視している。

しかも、聞き手、読み手などを意識して、人前では決して他人を中傷しない、反対意見は人を傷つけないように上手に言ったり書いたりする・・・・などといった言語ルールも小さいときから教える・・・・
そのもとには「子どもは話すことによって学ぶ」という社会通念があるのだろう。
(その分、算数や理科では多少、他の国より劣るかもしれないとも指摘しています)」


6. 孫の「試しクラス」でも与えられた本を毎週読んで、皆の前で発表し、朗読したり、あるいは、3〜4人で交代して、自分たちで話題を選んで他の生徒の前でそれについて話し合い時間があったりします。
しかもその進み具合は個人のレベルに応じて異なり、早く進む生徒もいれば遅いのもいる、それを先生は個別に見ていくのですから、たくさんの先生が必要なのも当然かもしれません。「話す・発表する」と同時に、他の生徒は「きちんと聞く、質問する」ことも訓練されます。


7. 最後に、著者の山本氏が書いている「加点主義・ほめることの重要性」については、たしかに孫の「試しクラス」でも何かというとほめて賞状を出すというきめ細かいやり方には驚きます。
「今週のスター」だの、「書き方(ハンド・ライティング)賞」だの、ランチタイムで給食を3回お代わりしたら「ランチタイム・アワード」という賞まで貰いました。
放課後の課外クラスのチェス授業で「準優勝」という賞状を貰ってきて訊いたら参加者は2名だったそうで、これには笑ってしまいました。

というようなことで、いまのところは楽しく通学しているようです。
これが「第3学年」の8歳になると、少なくとも平日は寄宿舎に入れられるそうですから、果たしてどういうことになるやら・・・・