トランプ「ロシアゲート」と「憲法を守る」人たち


1. いまの「かの時」は、まだ薔薇咲き誇る「時」でしょうね。

前回のブログは、「かの時に我がとらざりし分去れの方への道はいずこ行きけむ」の歌を紹介しました。
たまたま直後に友人に会ったので、この歌を披露しました。「誰の歌か知ってる?」の質問に、博学な彼が珍しく知らず、ちょっと得意になりました。


「かの時」とは何時か?も話題になりました。庶民であれば、大学進学、就職、そして結婚の三大イベントでしょうか。 


(1)私事にわたりますが、私であれば、進学の「時」でした。

国立大学と、いま皇族の婚約で話題になっている国際基督教大学(ICU)の2つを受験して運よく合格し、どちらにするかで迷いました。


ICUは日米のキリスト教長老派によって設立され、マッカーサーも財団名誉理事長として寄付金の募集に尽力しました。英米流のリベラルアーツと英語力を教育方針とする大学で、いまは知りませんが、当時は入学試験もユニークでした。知能テストと論文(与えられた長い・人文科学の論文を読んで、自由に感想を書く)と面接の3つだけ。もともと受験のための勉強が大嫌いだったので、こういう入試は助かりました。

(2)それが、自慢話になって恥ずかしいですが、時効ということでお許しください。
「入学金免除のトップ3人の中に入った」という合格通知を貰ったのです。

理由は推測できて、面接の印象だと思いました。
アメリカ人の先生に「なぜICUを志望したか?」を訊かれて、広島原爆に遭ったこと、父親が原爆で死去したこと、大学ではアメリカの原爆投下問題を含めて日米関係を研究したいと拙い英語で答えたのです。
これが、おそらくアメリカ人学者のキリスト教精神に訴えたであろうことは十分に予想されます。

(3)もちろん「志望動機」は本心でしたから、ICUに学びたいと真剣に考えました。

しかし、母子家庭で2人の弟が居ます。当時ICUの授業料は国立の4倍以上でした。「授業料を援助してくれる制度はないだろうか?」という話しになって、親切にも義兄(姉の夫)が大学まで訊きに行ってくれました。「入学時には入学金免除の特典しかない。授業料減免の制度もあるが、それは入学してからの成績で判断される」という回答でした。
それも当然だろうなと思い、諦めました。


まあ、私の場合、所詮どちらを選んでも平凡な人生がとくに変わったとも思えませんが。


2. 自分の人生ではなく、もっと大きな「かの時」なら話は違うでしょう。例えば、
この4カ月、「かの時、ヒラリーを選んでいたら、どう変わっていたか?」と考えるアメリカ人も多いのではないでしょうか?


タイム誌の最新5月29日号が「トランプへの踏み絵(loyalty test)」と題して、いまホワイトハウスは機能不全におちいり、混乱し、士気は上がらず、まるで葬儀場に行くような暗い表情で歩いているスタッフが多い、という記事を載せています。早くも職探しを始めている人もいるとも。

こんなことを書いています。

(1) トランプの言動は選挙前と変わっていない。
・衝動的である。
・即興的・思い付きである
・感情を抑えられない。
・彼は「誰をも不安にさせることを好む(He likes everyone being on thin ice)」


(2) しかもトランプ大統領が部下にもっとも強く要求するのは、ボスである自分に対するloyalty(忠義・忠誠)である。

オーナー企業の経営者ならそれもありかもしれない。
しかしアメリ連邦政府の官僚がloyaltyを捧げ、守らなければならないのは「アメリカ合衆国憲法」だけである。
トランプは、この違いを理解していないのではないか。


(3) その結果、彼らは、国民と憲法を守る義務と、大統領を守り・自分のキャリアを守ることとの相克に悩むことになる。


3. しかし、タイム誌は、他方でトランプに抗して、「自分は何よりも憲法に対して忠実である」と公言する高級官僚が少なくないことも伝えています。
解任されたコミー前FBI長官もその1人。
彼の指揮のもとに、いわゆる「ロシアゲート」の捜査を継続しようとしたFBIで、空席になった長官の代行を務める次官も、「私たちは今後も、国民を守り、憲法を守るために、正しいと信じることをやる」と明言している。


司法省の副長官ローゼンスタインも同様の発言をして、モラー(Mueller)元FBI長官を「特別検察顧問」(special counsel)に任命して、ロシアによる大統領選介入疑惑やコミー解任に司法妨害がなかったかの捜査を命じた。

モラー氏は、、「上司の言いなりにならない硬骨漢」として評価が高く、コミー氏の前任のFBI長官をブッシュ・ジュニアオバマの両政権下12年勤めた。

彼もまた就任にあたって、「憲法を守るために、全力で与えられた仕事をする」と誓っている。

しかもローゼンスタイン司法省副長官が、モラーの任命をホワイトハウスに知らせたのは発表の直前だった。トランプ大統領に事前の相談も了承もなく、自らの権限で決断した。トランプがローゼンスタインにモラーの解任を迫ることは可能だが、そんなことをしたらニクソンの前例があり、かえって命取りになるだろう。


「なかなかやるじゃないか」と感じたアメリカ人が多かったか、或いは「そんなことは当然」と感じたか。

英国エコノミスト誌は「アメリカの“チェック・アンド・バランス”の勝利」と呼んでいます。


やはり、「忖度(そんたく)」という英語がない、というのが十分理解できます。
アメリカ合衆国憲法」は成文の法であり、「忖度」の余地は全くありません。


4. そうは言っても、タイム誌も、捜査がどう進展するかは不透明としています。この点は日本でも十分報道されていますが、

(1)そもそもトランプ政権に不利な証拠が立証できるかどうかが分らない。
(2)かってニクソンの「ウォーターゲイト事件」で議会が弾劾にかける決議をしたときには、上下両院とも野党の民主党が多数を握っていた。
今回は与党である共和党が多数。
従って、議会がどう動くかが予測できない。


(3) しかし、モラー氏が、トランプ大統領の意向を「忖度」することなく、独立して「憲法」に対してのみ忠実に、調査し、判断し、行動するだろうことは期待できるでしょう。
そして、それこそが本当の官僚の姿ではないだろうかと考える者です。