ロンドンの本屋「サッチャーズ」と「ウォーターストーン」

1. 前回は、2年半ぶりに乗ったロンドンに行く車内で、スマホも増えたが、本を読む
人もそこそこ多いこと、
小学1年生の孫が毎日学校から借りた本を読まされること、本の選択も、進み具合も自主性に委ねられている、しかし保護者はそれをチェックする必要があり、本人はクラスで発表する義務があること、など書きました。

2. いま日本で子供が「本」を(「誰も知らない小さな国」でも「ドリトル先生」でも「飛ぶ教室」でも、何でもいいけど)をどれだけ読むでしょうか?
そもそもどれだけの大人が、「実用書」以外の無駄な本(ディケンズでも漱石でもいいけど)を読むでしょうか?
世の中はすっかりテレビとスマホの時代になりました。
典型がトランプさんで、本はいっさい読まない、ホワイトハウスの自室にTVを3台置いて、暇さえあれば見て、そしてツイートしているそうです。(話題になった暴露本『炎と怒り』を読んだ友人の情報です。もっとも友人はこの本を「読むに値しない下らない本」と言っています。何を読むかが大事ですね))。


3. 我が家から歩いて7,8分の代々木上原駅前にあって40年続いた「幸福書房」が2月に閉店しました。
東京新聞は「ある幸福な書店の終わり」と題する記事で「小さな店内で独自の仕入れによる棚づくりを工夫し、評判の本屋だった」と報じました。
「最終営業日の夜、駅前の店頭にはちょっとした人だかりができた。(略)
詰めかけた人々の温かい拍手を聞きながら、これだけファンのいる店でも影響を避けられなかった出版不況の深刻さを思うと、寒風がより身に染みた」とも。


また、記事のでた同じ日、テレビのニュースでは、名古屋で長年親しまれた「メルヘンハウス」という「国内初の子どもの本専門店」が3月末で閉店したという映像が流れました。
――「一人でも多くの子どもに読書の喜びを」をスローガンに、立ちあげました。おかげさまで45年という長きにわたり、いい仕事をさせていただきました。メルヘンハウスとの出会いによって、本が大好きになったという子どもさんがたくさん増えたという喜びは、何ものにも代え難く思っています――
というあいさつ文がネットに載りました。

4. ロンドンの街を歩くと、本屋に入るのが楽しみです。場所が便利なので、ピカデリーにある、「ハッチャーズ(Hatchards)」と「ウォータースト―ンズ(Waterstones)」
に必ず寄りますが、今回もほぼ半日、この2軒で過ごしました。
どちらも健在で、外装も内部のレイアウトも昔ながらで、久しぶりに旧友に再会した気分でした。

「ハッチャーズ」は、1797年創業、英国で最古の書店だそうで、1801年以来200年以上同じ場所にあります。ディケンズの生まれる10年も前。

もっともウィキぺディアを検索したところ、いまは「ウォータースト―ンズ」の一部門になっているとのこと。
それでも、店員の応対を含めて昔ながらの本屋の雰囲気と店構えは維持し続けています。

2008年にリベラルな新聞「ザ・ガーディアン」が「世界の最上の本屋10軒」を選びましたが、英国からはここが1軒だけ選ばれました。
因みに、京都の一乗寺にある「恵文堂」も選ばれました。


他方で、親会社の「ウォータースト―ンズ」は大型チェーン店ですが「ハッチャーズ」のすぐそばの同じピカデリーに旗艦店を持っています。

大きな店、ゆったりしたフロアで、「立ち読み」ならぬ「座り読み」のスペースもたっぷりしています。


5. 今回も2軒を歩いて、あらためて気づいたのは、
(1)どちらも、ゆったりした雰囲気で、書物を眺めながらゆっくり時間を過ごしたい気持になるまことに快適な場所である。

(2)どちらも、児童書・子どもの本のコーナーが充実している
(6歳の少年が、毎日、学校から本を読まされるのも当然だなと思いました)

(3)どちらにも「ユーモア」専門のコーナーがあり、どちらも4つの棚を大きく占めている。

(4)今年は、英国で女性が参政権をかちとって100周年ということで、その獲得を目指して戦った活動家パンクハーストさんの伝記を初め女性の自主独立に貢献したと考える人たちの書物がたくさん展示されている。
因みに、エメリン・パンクハーストは、放火や投石もいとわない過激な行動で知られ、当時はテロリスト扱いされることもあった。法成立100年にあたる2月6日にはメイ首相は「私を含むすべての女性の権利を確立するため、猛烈な反対にもめげず、闘ってくれた」と彼女ら活動家を称えた。英国でさえ、女性の参政権が認められてたった100年しか経っていないことに、あらためて驚きます。



(5)ハッチャーになくて。ウオターストーンで気づいたのは「MANGA」の棚でここには
マンガの本を並べたコーナーが4つもあった。

――というようなところでしょうか。


6. 店内を歩きながら、大昔、チャーチルディケンズの伝記を購入したことを懐かしく思い出しました。
年をとったせいでしょうか、大部の書物を買う気力はだいぶ薄れて、今回は“ユーモラス”と思われる書物を2冊求めました。
『外国人嫌いのためのガイドブック(イギリス人篇)“Xenophobe’s guide to the English”』と『同(日本人篇)”to the Japanese”』です。

帰りの電車の中で適当に拡げたら、「イギリス人のユーモア」について、こんな文章が目につきました。


(1)イギリス人は、まことにユニークなユーモア感覚を持っている。
真面目な顔をして痛烈な皮肉や機知のある言葉を発するのが得意である。

(2)その底にあるのは、威張りくさった・尊大な存在を笑い飛ばす能力と意欲である。
その結果、彼らにとって人生は何とか暮らし易いものになるのだ。

(3)またイギリス人は、自分自身を笑うことが出来る人間は、あらゆる社会的な罪は許されると感じている。

(4)だから、イギリスでは、勉強するかどうかは個人の任意の問題(optional)である。
しかし、「humourのセンスを身につけることは、強制(compulsory)である」。


(5)「彼らはまた、およそ馬鹿々々しい・ナンセンスや言葉遊びも大好きだ」と書いて
、以下の「小噺」を紹介しています。
――男が医者の診療室に入ってきた。
「おや、随分久しぶりじゃないですか」と医者が声をかけると、彼は「いやあ、実は暫らく病気をしていましてね」と真面目な顔で答えた。―――