『議院内閣制―変貌する英国モデル』(高安健将、中公新書)を読む。


1. 本日は「西日本豪雨」の記事が新聞1面の大見出しです。
当方は早い梅雨明け宣言を聞いて早々と信州にやってきましたが、当地も強い雨が降りました。それでも、畑の草取りをしました。じゃがいもの花が咲き、ヤマボウシの白い花も咲いています。早くも災害の夏を迎えたところは本当にお気の毒です。


2. 前回のエコノミスト誌「民主主義はどのようにして死ぬか(How democracy dies.)」の紹介にコメントを頂き、有り難うございます。
フェイスブックMasuiさんからは「日本のジャーナリストや新聞は権力に対して厳しく批判すべき」しかし「最も不甲斐ないのは国民です。日本人はもっと政治に対して勉強し、日常の話題にすべきです」。

そして我善坊さん、「日本は、明治維新後の国家を欧米とは全く別の、民意から独立した権力として出発させてしまった。それが明治国家80年の「遠回り」だったと思う」。


3..どちらにも全く同感で、嬉しく拝読しました・
ということで今回は、(かなり硬い・長い報告になりますが)、同じような問題意識を「議院内閣制」の特性と欠陥という観点から取り上げた掲題の書(2018年1月刊)を紹介します。


4.(議院内閣制の特性と欠陥について)
(1) 議院内閣制とは、「内閣を頂点とする政府は、議会によって創出される」システムであり、
「強力で安定的な政府の創出と責任の所在の明確化(著者は「集権化=権力の集中」という言葉を使う)」という長所をもっている。


(2) 英国のそれは、長年、日本をはじめ、「理念型」や「モデル」として扱われてきた。

(3) しかし、英国の議院内閣制は、「多数代表型の二大政党による政権交代」がその本質であり、そこに欠陥もかかえている。
(注――「多数代表型」とは小選挙区制のもとで、絶対多数ではなく相対多数による政権党が権力を集約するシステムだということ)


(4) すなわち、
「利益の集約(多数代表なので国民の利益のすべてを代表・集約していない)」
「権力の基本的なコントロールが政党間競争と総選挙に委ねられている。総選挙の間の国民のコントロールは不十分になると言わざるを得ない」
という2つの観点から、「不完全なシステムである」。
即ち、権力のコントロールがシステム内在的ではなく、政党間競争とそれを受けた政治エリートによる自己抑制に依存するということ。


5. (英国における議院内閣制の問題と改革の取り組みについて)
(1) この欠点を、英国は従来から、政治エリートに対する国民の信頼と、彼ら自身による「権力の抑制的行使」によって補い、維持してきた。

(2) しかし、スキャンダルを含めて内外の問題を抱えて、英国でも政治家への信頼や「議院内閣制」の正当性が大きく揺らいでいる。


(3) そのために、「一連の国家構造改革」に取り組んでおり、それなりの成果をあげてきている。
その土台にある考えは、議院内閣制による「多数支配的デモクラシー」に、もう1つの・アメリ大統領制のような「権力分立型デモクラシー」の権力コントロールを取り入れることである。
即ち、権力者自身による内的抑制と政党間競争だけでは不十分で、「憲法に規定された、権力者に対する外からのコントロールを要請する」。




6. (ひるがえって、日本で考えるべきことは?)

(1) 日本でもいま、議院内閣制の欠陥が目立ち始めた、「集権化(権力の集中)」による緊張の弛緩もある、民意との乖離もある、というのが著者の問題意識です。


(2) 事態を改善するためには、まず英国が従来からやってきたような、「権力者の自己抑制」が日本では不十分ではないか、と著者は指摘します。
その基本は「政党間競争」である。
→「議院内閣制は、議会と政府が対立する以上に、融合する契機を内包している。それゆえに、政府・政権党と野党の間の緊張関係が、議院内閣制によって作りだされる権力をコントロールする上で不可欠なのである」
→「野党の第一義的役割は政府の監視とコントロールであろう。権力を担うのは政権党であって野党ではない。野党間の対立は、議院内閣制にあって、権力の担い手に対し、政党間競争によって課されるべき本来的な緊張の醸成を阻害する危うさをかかえている」。


(3) 権力者の「自己抑制」の具体例について、両国を比較すると、
・例えば、「選挙と選挙運動期間は、政党間競争を適切に機能させるうえできわめて重要な舞台である」。しかし、
 2017年英国と日本の両国で「突然の解散・総選挙」があったが、解散から投票日までの期間に大きな差があった。英国は49日、日本はたった24日である(2014年には23日)。

・例えば、「政党間競争を促す公的助成のあり方」に関していえば、
両国の政党助成の制度は対照的である。
 英国では、政権党はさまざまなかたちで優遇されているとの前提から、適切な政党間競争を促進するべく、資金的援助は野党に対して行われる。
 これに対して日本では政党の獲得議席数や票数と連動して政党交付金が配分されることから、勝者をさらに強くするように制度が作用している。
 この思想的差異は大きい。


(4) 実は、日本の憲法はむしろ英国以上に「権力分立型」の制度を取り入れている。(参議院の存在、違憲立法審査権など・・・)

(5) しかし、「単に制度があっただけではそうしたシステムは作動しないのであり、政党間競争を抜きにしては語れない」と著者は指摘して、
「議院内閣制を担う政治エリートたちが民意に寄りそうことを放棄すれば、それは純然たるエリート支配の道具に堕することになろう。
議院内閣制自体はデモクラシーを良くも悪くもする。政治指導者が不承不承ながらであれ、民意に向き合わざるを得ない緊張感こそ、議院内閣制をリベラル・デモクラシーにとって意味のあるシステムにする」
と本書を結んでいます。


7.以上は本書の私なりの要約です。
(1) 私のような庶民が感心しても仕方ないのですが、英国の政治指導者、とくに政権与党がイニシアティブをとって議院内閣制の欠点を補うべく、自己抑制や改革に取り組む姿は、やはり流石だなあと思わざるを得ません。

(2)例えば政党助成金が野党にだけ与えられるなんて、見事なものですね。
日本の政治エリートも本書を読んで、英国の動きを学んで、自分たちも、議院内閣制の弱点を補い、是正すべく努力しようという気持にならないものでしょうか。


(3) そして私たちのような庶民がせめてなすべきことは、まさにMasuiさんの言われる通り、「日本人はもっと政治に対して勉強し、日常の話題にすべき」ではないでしょうか。