米国トランプ大統領をめぐる話題と中間選挙

1. このブログは原則日曜日の朝にアップしていますが、今回は1日早い土曜日です。

たまにはトランプ大統領を取り上げることにしました。
(1)アメリカで中間選挙が近づいていることもあって、最近、関連のニュース(三面記事的な報道を含めて)がいつも以上に多い、
(2)たまたま、昔の職場の同期諸兄による9月勉強会でも、某君の丁寧なレジュメをもとに、この問題を話し合ったばかりである、
以上2つの理由からです。

2. いま、トランプ(以下“T”とも略)をめぐるアメリカ国内の話題は、このレジュ
メに沿って言えば以下の通りです。


(1) いわゆるロシア疑惑
――ムラー特別検察官の調査が大詰めを迎え、外堀がほぼ埋まった。
・2016年の大統領選挙でロシアとの共謀がなかったか?
・コミーFBI長官の解任はトランプの司法介入ではないか?
の2点で、包囲網が固まり、あとはTとの直接対決がどう展開するか?
(ムラーを検察官に任命した司法省NO.2の辞職が予測されている。ムラーの捜査継続への悪影響はないか?)


(2) 某ポルノ女優とトランプ
――大統領選挙前に、2人の関係についてのTに不利な発言を止める目的で彼女に払った口止め料13万ドルが、米国選挙資金法に抵触するのではないかという疑惑。
しかもこの女優、彼との関係を詳細に述べた暴露本を10月2日に出版予定の由。


(3) マケイン上院議員の死去
――国民的英雄で共和党の重鎮だったマケインの告別式(民主党オバマクリントン元大統領も参加)に、故人の遺志によりトランプは招かれず、彼はホワイトハウスに半旗を掲げることに抵抗していたが、周囲の説得で承諾。

(4) 元ワシントン・ポスト紙のスター記者であるボブ・ウッドワード(かってウォータ
ーゲート事件の報道でニクソンを辞任に追いやった)が書いた、9月11日発売の著書「Fear :Trump in the White House」がベストセラーに。国防長官の「Tの知能程度は小学5−6年生程度」といった発言を紹介するなど、政権の内幕を暴露して話題になっている。


(5) ニューヨーク・タイムズの匿名の「論説(OP-ED)」
―――9月5日付ニューヨーク・タイムズに匿名で、現職のホワイトハウス高官が「私は政権内の抵抗者の1人です(I Am Part of the Resistance inside the Trump Administration)」と題して寄稿し、痛烈なトランプ批判を発表。
Tは、セッション司法長官に対して、誰が寄稿したか突き止めるように指示したが、これは表現の自由に抵触するのではないかと批判されている。


(6) 話題性の高いドキュメンタリー映画の監督で知られるマイケル・ムーアが、トランプの選挙勝利とヒトラーの登場とを比較して皮肉った映画を完成し、上映中。


(7) 最後に、トランプが指名した最高裁判事候補カバナーをめぐるセクハラ疑惑で、上院での承認手続きが遅れている。
彼の高校時代&イェール大時代のセクハラ疑惑について3人の女性が実名で告発し、最初の1人は27日に上院の委員会で証言した。
両者の主張は真っ向から対立し、共和党民主党の非難合戦にもなった。
その後の上院司法委員会ではカバナー選任を本会議にかけることが承認されたが、他方で会議の前にFBIの調査も入るようで、まだまだ不透明です。
(カバナーが判事になれば最高裁の保守化が確実になるというアメリカ国内の懸念については、8月26日のブログに書きました。(http://d.hatena.ne.jp/ksen/20180826)。


3. これだけ、トランプの評判を落とすような出来事が立て続けに報道されているのがいまのアメリカです。
(1) それでも支持率は「支持43%、不支持53%」あたりでそれほど変わってはいない。
核となる「岩盤支持層」(オカルト教徒のようだとも言われる、低学歴の白人の男性が中心)に支えられているからと言われる。
(2) しかし、これらの出来事が中間選挙にどう影響するかは見もの。
(3) いまは、上下院とも共和党が多数を押さえている、最新の世論調査では、上院は共和党が若干有利。しかし下院では民主党過半数をとるのではないか、と予想されている。
(4)11月6日の選挙まであと1ヶ月ちょっとになり、トランプは勝つために“何でもあり”の政治行動に走るのではないか、とくに外交面で国民受けする奇策をとることで支持率の回復を図るのではないか、と懸念されている。

(5)仮に,下院で民主党過半数を取れば、トランプ弾劾の動きが出てくるかもしれない。
訴追は下院の過半数で決まり、弾劾の是非そのものは上院で審議され、3分の2の
賛成が必要。ハードルが高いので、可決される可能性はまずないだろうと予測されている。しかし、仮に訴追されればそれだけで大きな話題になることは間違いない。

➜ということで、これからが注目されます。



4. 最後に、NY TIMESの「匿名論説」について少し補足します。
――同紙は、「匿名の論説投稿」はきわめて異例だが、前例はある。同紙は高官である本人を確認し、内容は十分に信用できて、公表することに価値があると判断した。但し本人の安全を守るため、今後も身元を明らかにしない。―
という前置きで、以下の内容を載せた。


(1)トランプ政権は、過去のリーダーが経験したことのない試練に直面しています。
それは、政権内の高官の多くが、彼のやろうとする幾つかのことを阻止しようと懸命に努力しているということです。

(2) 私もその1人です。それは国家に尽くすことが最優先の義務だと考えるからです。私たちは政権を成功させたいと思っているので、批判勢力とは立場を異にします。


(3) 問題の根っこにあるのは、彼の「モラルの欠如(amorality)」です。彼は保守派の理想である、自由な精神、自由な市場、自由な人間存在、にほとんど愛着を持っていません。志向は、反民主主義であり、反貿易です。
彼は、判断の指針となるような原則を何も持っていません。そのリーダーシップのスタイルは、衝動的で、狭量で、敵対的で、効果的でありません。たった1週間前に下した重要な政策決定を彼が簡単にくつがえすことに、私たちはすっかり疲れています。


(4) しかし私たちは、何とかして誤った判断や政策が実際に表に出ないように必死に努力しているのです。
私たちは、これからも、政府を正しい方向に向けて動かしていくために、可能なかぎり努力していくつもりです。
アメリカ国民には、政権の中にはまともな人間もいるのだということを知ってほしいのです。


―――というような、政権内部からの必死の訴えが、リベラルな・民主党支持の、トランプ政権批判の急先鋒であるニューヨーク・タイムズを通じて国民に知らされるというのが、今回のきわめて興味深い点です。
それは、深刻でもありますが、ある意味では、健全なジャーナリズムの存在がいかに大切かを再認識する出来事でもあるだろうと思います。