忘年会の合間に『公卿会議』(美川圭、中公新書)を読む

1. 忘年会のシーズンで都心のどこに出かけても人が多いです。

私も学校時代の友人とか、豪州やニュージーランドで一緒に働いた仲間の会とか、昔の職
場の同期の集まりとかに、いそいそ出かけています。


(1) 豪州やニュージーランドで一緒に働いた仲間の会は、私が一番の年長で、20歳近く若い、まだ現役の連中もいるので普段聞けない話が出て面白いです。
恒例で皆さんから近況報告をもらいますが、社員数300人前後売り上げ500億程度の中堅企業の役員部長クラスが2人いて、どちらも人出不足に困っていると言っていました。むしろ期待は外国人で、例えば慶応卒の中国人の女子学生を採用したがまことに優秀で、日本を好きになって定着してほしいと言っていました。そういう、現場の・外国人を仲間として期待するという気持ちに比較すると、家族帯同も認めずに外国人に単なる労働力として短期間だけ来てもらうという発想は、日本人の思い上がりではないでしょうか。


 他方で、アメリカ勤務の長い某君は、息子さんがこの度アメリカの大学を卒業して、何とグーグルに入社が決まったというので驚きました。超難関でしょうが論文を提出して認められたとのこと、AI関連の業務につくそうで初任給も相当の高額のようです。
AI開発には、コンピュータの知識だけではなく心理学・哲学など多様な知識と発想が必要なようで、そういうところが評価されたようです。
日本人がアメリカの超優良企業に採用され、日本にも中国人の優秀な人材が入ってくる、そういう時代になっているのだな、と改めて感じました

(2)職場の同期の集まりは毎月やっていて、10人前後が神田にある一橋大学卒業生のための如水会館に集まります。
 同大学の校友会を「如水会」と呼ぶそうで、名付け親は渋沢栄一。同会の公式サイトによれば、中国の古典にある「君子の交わりは水の如し」からとった、渋沢氏は「水は平和にして、また変動あるもの」であり、良い言葉と思うと言っているそうです。

けっこう真面目な集まりで、毎月誰かが話題を提供して、簡単な報告をします。
職場柄全員が英米をはじめ海外勤務を経験しているせいか、海外の出来事への関心が高く、米中の貿易摩擦、英国のEU離脱、フランスの反マクロンの大規模デモなどの話題で盛り上がります。

中には、堅い話題ではなく、「文芸路線」の披露もあります。
先月は某君が、10数年続けている窯で陶器を作り上げる楽しみを語ってくれました。
今月は私が、お正月も近いということもあって、「和歌の話」をしました。
和歌といえば、まずは百人一首がいちばん入りやすい、さらには、「かるた」や「坊主めくり」でお孫さんと遊ぶのが和歌に接する第一歩、トランプが気になるのも分かるけど、正月ぐらい「かるた」で遊んでは如何か?
そして、たまには騒がしい現世から少し身をおいて、千年も昔の日本人の雅な世界を思い出しては如何?というものです。


2. 千年昔の日本といえば、前回書名だけ触れた『公卿会議―論戦する宮廷貴族たち』(美
川圭、中公新書)を興味深く読んだので、今回はこの本を補足紹介して終わりにします。
著者は日本中世史を専門にする立命館大教授。寄贈していただきました。


(1) 面白いテーマで、これは話題になりそうだと思っていたら案の定、日経の書評に出て、毎日新聞磯田道史氏が「今年の3冊」の1冊に選びました。
もっとも磯田氏が「学問的な新書だが〜」と書くように、決して読みやすい本ではあり
ません。とくに、天皇や貴族の名前や時代や職名など、たくさん出てくる固有名詞が覚えられず、しょっちゅう前に戻って確認することになります。
しかし、もちろんこれは著者の問題ではないので、中世の歴史を論じていく以上、当然に必要な知識です。
そしてその点を精読していけば、たいへんに興味深い書物です。


(2) 「貴族は意外と勤勉だった?奈良・平安から南北朝まで、屈指のエリートたちが繰り広げた「会議」の変遷をたどる」と本書の紹介にあります。

本書を書きあげた契機について、著者はまず「はじめに」で50年も前の学者の次の文章を引用します。
――「ふつう、平安時代の貴族は、政務をおろそかにして、毎日詩歌管弦に時を過ごし、遊んでばかりいたように思われがちである。(略)
けれども、それだけでかれらの生活がわかったように思っては大間違いである・・・」
ということで、美川さんは豊富な史料にあたり実に丁寧に検証していきます。


その問題意識について、「あとがき」でこう述べます。
―――「本書では律令制の時代から、南北朝期の終わる頃まで、約700年の朝廷における公卿(くぎょう)会議の歩みを・・・具体的にたどってきた。そこで思うのは、宮廷貴族たちが、意外なほど会議での合意をめざして、それなりの努力を続けているということである。
 困難な問題が生じたとき、武力を行使するよりも、まずは会議を開いて合意をえて進もうとする志向は、少なくとも侮蔑の対象になるべきものではない。天皇上皇を宮廷貴族の合議で支えていくという体制は、ときに専制への方向に走ることもあったが、(日本でも一時期見られた)「族滅(ぞくめつ、一族皆殺し)」に象徴されるような、大量殺人をともなう苛烈な支配には向かわなかったのである」。


(3) 以上のような著者の問題意識は、トランプの「分断」やこの国の「一強」が懸念されているいま、とても大事だと感じました。それは「民主主義」とは何かということにも広がっていくのではないか。


美川さんは、昨年秋から1年間、サバティカル(在外研究休暇)をとって、英国ケンブリッジ大学に滞在しました。その時に、娘の家にも一家で遊びに来てくれました。
「勤め先の大学の授業と膨大な雑務を免除される機会をえて、半ば思いつきで、議会政治の元祖英国を赴任先に選び、ケンブリッジ大学アジア中東学科に所属し、その緑あふれる環境のなかで、本書の執筆を開始した・・・」と書いておられます。

在外研究の時間を無駄に過ごすことなく、見事な成果につなげたことは、まことに立派なものだと敬服した次第です。