天皇を始め代替わりですね。エコノミスト誌は「How monarchies survive modernity(君主制はいかに生き残るか)」。

  1. 長い連休と言っても働いている人は多

く、東大駒場キャンパスも授業も通常通りで,学生もいるし図書館も開いています。

今年は残念ながらこの連休は蓼科行きは諦めて、老夫婦東京で静養しています。

この時期は、畑の忙しい時期、鹿除けのポールとネット、畝づくり、そしてじゃがいもなどの植え付けをやるのですが、今年は年下の友人夫妻と長女夫婦に全てやってもらいました。

f:id:ksen:20190430082023j:plain週前半は雨模様で寒かったが後半は好天で仕事も捗ったようです。我々は寂しくもありますが、無理はできず、やはりどこでも代替わりですね。お陰で助かりました。

f:id:ksen:20190430142538j:plain2.代替わりと言えば、もちろんこの国は新天皇の即位ですが、テレビのお祭り騒ぎ的な番組には距離を置いてまったく見ませんでした。

代わりに、海外の一部メディア(英米豪)を見たり読んだりしましたので、今回はその報告です。

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もちろん、日本の報道とさほど異なりません。ただ、日本以上に強調していると感じたところを、以下に取り上げます。 

(1)戦後生まれの新しい天皇が、「皇室と日本社会を一層“近代化(modernize)”することを期待する」という論調。

――例えば、皇太子時代の天皇が留学時代の英国で、より自由で開かれた王室に強い印象を受けたエピソードを紹介するなど。

(2)オックスフォードで学んだ天皇アメリカの高校・ハーバード大を卒業しオックス

フォードでも学んだ皇后とが一層「国際的な志向」を強めることへの期待。

―――特に英米のメディアはこの学歴を大いに評価しており、[Oxford educated Emperor & Harvard graduated Empress]と形容詞を付けて、強調しています。

英国のGuardian紙に至っては「Japan’s anglophile(英国びいきの)new emperor~~」という見出しで、いささか我田引水という感じもします。

(3)新上皇も新天皇もともに、地味な学問分野についての研究者である。上皇はハゼ

(goby fish)の、天皇は水運や環境問題の研究であり国連で2度基調講演を行った。

――こういった報道は欧米の読者に好印象を与えるのではないか。英国のエリザベス女王チャールズ皇太子が何かの研究を地道に続けているなんて聞いたことがないですね。

(4)そして何と言っても、「女性天皇」「女系天皇」が認められないという、日本の伝統かどうか知りませんが、ともかく法律の存在です。

この点が、上記(1)の「近代化への期待」にもつながるかもしれませんが、どのメディアもこの点は必ず取り上げていて、記事からは批判するというよりむしろ、「信じられない」といった驚きのニュアンスを感じます。

そしてそれが、”extinction(断絶)”や”shrinking(縮まる)”という言葉を使って、「天皇制の衰退」につながりかねないことをどこまで日本自身が認識しているのだろうかという問題提起にもつなげています。

―――ということで、日本のお祝い報道とは少し視点が違うかもしれないと感じた点を紹介しました。

f:id:ksen:20190503105340j:plain3.私がいちばん面白く読んだのは、英国Economist誌最新号(4月27~5月2日号)の、「如何にして君主制は近代を生き延びるか(How monarchies survive modernity)と題する比較的長い記事で、君主制一般を取り上げたものです。最後にこの内容を紹介して終わりにします。

なお、日本の象徴天皇制が他国の「君主制( monarchy)」と同じかどうかは意見の分かれるところですが,ここではエコミスト誌の認識に沿って進めます。

 (1)君主制は、統治の正統性を理性や合理性にではなく、古くからの・子供じみた物語

に依っている。それは時に、性差別、階級、人種差別の象徴ともなり、多様性や平等、自由とは相いれない制度である。

(2)だからこそ20世紀には、革命や世界大戦を通して徐々に衰退に向かうと思われた。

ところがその予想は外れた。21世紀に入って君主制が消えたのはネパールとサモアの小国2つだけ。豪州やリヒテンシュタインのような名目だけの国や小国も含むが、他方で英国、オランダ、日本、デンマーク、スペイン、中東、タイを含み44か国で健在である。

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(3)何故か?

・殆どの君主が政治的な実権を持たない存在であることが理由の1つ。

しかも、弱く・貧しい君主制はすでに淘汰され、いまは中東やタイのように巨大な資産を有する君主が多く、それを制度の維持に有効に使っている。かつ共和制に比べて意外に弾力的・柔軟である(「アラブの春」の時のモロッコやヨルダンが好例)。

・民主主義への逆風が吹いていることも理由として指摘できる。ポピュリズムや分断化が進み、反民主的な指導者(プーチン習近平など・・・)も力を増している。

・英国のような民主国であっても、政治の分断化が進む中で、むしろ非政治的な元首の存在が再認識されている。例えば、英国の共和制支持者であっても、いまエリザベス女王に代えてトランプに元首になってほしいと思う人はまずいないだろう。

(4)しかし、このように君主制に有利な状況もないではないが、現代の君主制が依然と

して脆弱な基盤に立っていることも間違いない。

共和制であればシステムそのものに合理性があり、国民主権による「交代」が制度化されている以上、個々人の倫理性・人格・資質は君主制ほど重要ではない。

君主制の場合、統治の正統性に合理性がなく、かつ君主自身が容易には「交代」しないこともあって、その存続は、はるかに大きく個々の君主の資質に依存する。

(5)従って、君主制の場合は、継承の時点が重要であり、新しい君主への支持が同じように続くかどうかがきわめて重要である。この点でタイ、サウジ・アラビア、スペインの君主の資質については懸念がないではない(タイでは5月4日に69年ぶりに新王が即位した。軍寄りの姿勢、4度の結婚、派手な暮らしなどとかく話題性が多い)。 

(6)個々の君主の資質については、英国王室は、バッキンガム宮殿の国民への開放、税

金の支払い、ヘンリー王子(黒人の血を引くアメリカ人の・離婚歴のある女性との結婚を認める)、国民との身近さ(67年の在世の間に、英国人のほぼ3分の1、65歳以上のほぼ半分が実際に女王と接したことがあるという世論調査がある)など、「近代化」への努力を進めている。国民の支持も高い。 

(7)しかし、日本の天皇Akihitoは、エリザベス女王以上に「革命的な」天皇であった。

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彼は、

・宮殿の中で国民のために祈るのではなく、自ら外に出て、国民に近く接した、時に跪き、彼らと語り合った。

・特に、障害のある人、高齢者、被災者たちに寄り添った。

・この国の「保守的な」政治家と異なり、「戦争中の日本の行為」に深い悔いを表明した。

・1992年には天皇として初めて中国を訪れ、WW2の戦場を何度も訪れた。

・そして彼は、靖国には参拝しなかった。

・「保守的な」政治家はこのような天皇に憤慨していただろうが、表立って批判することは困難だった。

・こういった言動を通して、天皇皇后の二人は、「倫理性(morality)」「気品(decorum)」そして「思慮深さ(discretion)」の模範となり、同時に宮中の伝統や儀式もきちんと守っている。国民の支持もきわめて高く、彼らのやり方はたいへんうまく行っているようにみえる・・・・・

➜いかにも「リベラル」を標榜するエコノミスト誌らしい論調で日本の前の天皇を高く評価し、同じ路線が続くことを期待している記事内容が印象に残りました。