東京暮らしに戻り、「米中新冷戦」を考える

1.ここ2回、アラスカで暮らした星野道夫のことを書いていますが、フェイスブックでMasuiさんから、「『旅をする木』を読み始めた。読めば読むほどに素敵な経験が書かれている」とコメントを頂きました。紹介した本を読んでくださる方がいるのはまことに嬉しいです。

山口(雪)さんからのコメントでは、今回の台風15号で、千葉県鋸南町にある別宅が吹っ飛んだとのこと。深くお見舞い申し上げます。それでも気丈に、「ケガがなくてほっとした。自分たちは家を取り壊して終わりだが、この破壊状態では、地元の方の再建は困難を極めると憂慮する」とあります。 

2.職場で同期の友人からは、先週「岩手を一周してきた。(2011年東北大震災時の)津波の大きな傷跡に驚き、その後の復興状況を目の当たりにして、感傷的な旅だった」というメールを貰いました。私は京都のNPO仲間に連れられて(彼はボランティア活動にも参加しました)、2度震災地を訪れましたが、ここ数年行っていません。

従って、いまの状況を見ていないのですが、昨年訪れた別の友人は、海に面した宮城県女川町の復興がいちばん進んでいるようだったと報告してくれました。ここには原発もありますが、幸い高台なので津波の直撃は避けられました。

f:id:ksen:20190906105241j:plain私どもは、そういった真面目な旅をすることもなく、台風の直前に帰京しましたが、茅野の山奥は、今回は被害は少なかったようです。直前に見た黄金色に実る田の光景を懐かしく思い出しています。被害がなければよかったなと思っています。

東京に戻って、渋谷の本屋まで時々歩きますが、東急百貨店に近い住宅街の一角にある鍋島松濤公園でも台風による倒木があり、こんなところでも、と驚きました。

災害日本では、いつどこで、誰の身に災難が降りかかるか分かりません。

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3.東京ではまたもとの暮らしに戻り、山も田畑も遠くなり、夏の間さぼっていた、いろんな集まりへの出席が復活し、再び世の中が身近に感じられてきました。

昔の職場の仲間に会うことが多いですが、海外が主な仕事場だったせいか、世界の出来事への関心の高い人たちが多く、勉強になります。その中で今回は、5月18日号英国エコノミスト誌の米中「新冷戦」についての特集記事を紹介したいと思います。

(1)米中の輸入関税引き上げをめぐる動きは、少し歩みよりも見られるようですが、エコノミスト誌は「貿易摩擦は問題の一部に過ぎず、現状を「新冷戦(A new kind of cold war)」と認識し、長期化を懸念している。

(2)即ち、両国はあらゆる局面で競っており、覇権争いの様相を呈している。かっては両国は「ウィン・ウィン」の関係を目指していた。今日では、両国は、おそらくはどちらも勝者にはなりえない勝負の決着を求めているようにみえる。

(3)背景にあるのは、

・言うまでもなく、中国の経済的伸張と世界戦略の強化。

・と同時に、世界的に民主主義や資本主義への信頼が低下し、中国が自らの思想・体制に自信をもち、アメリカからみれば中国の民主化への期待が薄れた。

(4)そこでアメリカは、中国が,・違法に技術を盗み、・不法に南シナ海を制圧し、・カナダやオーストラリアなどの民主主義を脅かし、・世界の平和に脅威を与えている、と非難し、中国はもちろん強硬に反論する。

(4)「新種」の冷戦とよぶの理由は、かっての米ソ対立と違って、

・軍事かつイデオロギーの対決のみならず、

・経済力のライバルでもあり、

・お互いに巨大な貿易相手国である、の3つの側面があるから(例えば、1987年ソ連アメリカの総貿易の0.25%、いま中国は13%を占める)。

f:id:ksen:20190920192620j:plain(5)Economist誌はかかる事態を懸念して、両国の対話と共存を呼びかけている(もちろん、容易ではなく、かつ時間もかかることを認めた上で)。

アメリカは自己の力を過少評価しないこと。とくに、アメリカの持つソフトパワー(自由と民主主義の理念、移民受け入れ、同盟国との連携、戦後作られた制度や規範の重視など)を大事にすること。現トランプ政権はこの点を軽視し、むしろアメリカの損失となっている。

・防衛力の強化。ハード・パワーも大事だが、知的財産権を保護しつつ、孤立主義に陥らない、開かれた体制を維持するという、両者のバランスが重要。

・共存に向けて信頼を築く努力。例えば、軍縮北朝鮮、宇宙開発、サイバー攻撃、気候変動などについてのルール作り。

(➜こんな提言は甘い、理想主義だと思う向きも多いかもしれませんが)。

4.この記事の背景を補足すると、昨年10月にアメリカのペンス副大統領の40分の演説が重要です。

f:id:ksen:20190920193508j:plain(1)スピーチは魯迅の言葉も引用して、アメリカは中国との未来は、対等で永続的な友好関係にあると信じ、手を差し伸べている。しかしそのためには、中国が「公正・互恵・主権の尊重(fairness, reciprocity, and respect for our sovereignty)」を守ることが前提であり、この点でのアメリカの決意は堅い、というもの。

この3原則は決して譲れないという強い危機感と決意を表明している。

また演説の中で、中国の民主化への期待にも触れて「 アメリカは貴国の“ 一つの中国政策”を尊重している。しかし同時に、 民主的な台湾が全ての中国国民にとって最善の途であると信じる」とも述べる。

2)以上が結論ですが、そこに至るまでに、ペンスが言うことは、

・先ずは、長くアメリカが中国を支援してきたという歴史的事実(かっての門戸開放政策やWW2から現在に至るまで)。中国がGDP第2位の大国になったのもアメリカの支援が大きく寄与しているのではないか。

・しかし、最近の中国の行動は目に余るとして経済、国際政治のみならず、中国が違法な手段でアメリカの国内での影響力を強めている事例を(「全て事実に基づいて」)具体的に糾弾する。メディア戦略、IT企業を始めとするビジネスへの介入、大学や研究機関への自治の侵害、世論操作など多岐にわたる。

 

(3)なお、アメリカだけではなく、豪州でもNZでもカナダでも中国への警戒心が高まっている。とくにこの3か国は「多文化主義」を国是にして、移民受け入れに積極的にあることから、狙われやすいと言える(昨年は豪州で”Silent Invasion, China's Influence in Australia”という本が出て、ベストセラーになったことは以前のブログでも報告した)。

5.いまこの点でいちばん懸念されるのは、一向に収束しない香港の抗議行動と来年1月に控えた台湾の総統選挙です。

10月1日の建国70周年を終えた後、中国がどう出るか?30年前の天安門事件のような強硬手段を取らないことを願いますが、もしそうなったら、アメリカはどう動くか?・・・・と気になる昨今です。