1.先週は茅野の山奥で家人と二人で過ごしました。稲が黄金色に実り、刈り入れが終わったところもあり、この時期の里山はいちばん好きな風景です。
2.前回は、英国ジョンソン首相の議会閉鎖と、これを「違法」とした最高裁判決を取り上げました。
ジョンソン首相は、敗訴も議会の議決も、エコノミスト誌の「議会に譲歩せざるを得ないだろうと」の予測や「2回目の国民投票をすべし」との主張も意に介せず、10月末の離脱に向けての決意は堅いようです。
今回のブログはそういった本論から逸れますが、同じくエコノミスト誌最新号(9月28日~10月4日)を紹介します。
(1)同誌は6本の「論説(Leaders)」を載せていますが、うち1つ(A)が前回紹介した
英国の「最高裁とジョンソンの敗訴」について、もう1つ(B)が米国の「トランプ弾劾の期待と危険」と題するものです。
(2)そして表紙はこの二人が同じ衣装を着て肩を組んで立っている絵姿で、題は「Twitterdum and Twaddledee」とあります。
よく分からないなと早速ウィキペディアで調べたところ、この言葉はサイトがありませんが、
「Tweedledum and Tweedledee(トゥイードルダムとトゥイードルディー)」という言葉なら、以下のように出てきました。
――イギリスの童謡とルイス・キャロルの『鏡の中のアリス』にでてくる2人の登場人物の名前。以来この言葉は西欧の大衆文化で、お互いにそっくりで同じような行動をとる二人を、とくに軽蔑的(derogatory)な文脈で使われるようになった ――
(3)後者が正しい英語ですが、エコノミスト誌が前者のように言葉遊びをして、「Tweedle(キーキー音を出す)」というもとの単語を、「Twitter(ツイッターを多用する)トランプ」と「Twaddle(無駄口をたたく)ジョンソン」と変えて使っているのでしょう。
ごく真面目な雑誌ですが、よくこういう遊び心を発揮します。英国人なら、もとの言葉をいじったなとすぐに分かってにやっとするでしょう。
私はウィキのお陰でやっとわかって、少しにやっとしました。
3.この「最高裁とジョンソン敗訴」問題について同誌は、論説(A)の他「英国(Britain)」欄にももう1つ記事を載せています。
(1)論説は判決が与えるBrexitへの影響について論じ、「Brexitヴィ―ルス」と呼んでこの伝染病が英国の全てを感染させていると嘆きます。
(2)そしてもう1つは、判決がジョンソン首相に与えた打撃とこれからの政局についての記事ですが、「Along came a spider((判決は)蜘蛛と一緒にやってきた)」という妙な副題がついていて、この意味が分からない。
(3)と思いながら本文を読んだところ、判決を読み上げたレディ・ヘイル最高裁長官の黒い洋服に大きな蜘蛛のブローチが飾りについていたという記事がありました。
なるほど、それで妙な副題の意味が分かりました。
それにしてもなぜわざわざ「蜘蛛のブローチなのか?」という疑問を誰もが持ったでしょう。
(4)その点を9月24日判決当日の日刊紙ザ・ガーディアン紙が教えてくれました。
以下は、「ヘイル長官の蜘蛛のブローチは何のメッセ―ジか?」と題する同紙ファッション欄の記事(これも電子版から)です。
・ジョンソン首相の議会閉鎖を「違法」としたのはまことに大きな意味を持つ判決だったが、蜘蛛のブローチもそれに劣らずそれ自体大きな話題になった。
・誰もが、これは首相を蜘蛛の巣に絡めとるメッセージだと受け取った。
ある会社は、すぐにブローチと同じデザインの蜘蛛をあしらったTシャツを販売した。2時間も経たないうちに5千ポンド(75万円)の売上げがあり、会社はホームレスを支援する団体に寄付をした。
・レディ・ヘイルはもともと独創的なブローチが好きな女性で、蛙・カブト虫・トンボなどを持っている。最高裁のホームページの自己紹介には、何と毛虫のブローチをつけた写真が載っている。
・もっともブローチにメッセージを込めるのは彼女が初めてではない。
昨年トランプ大統領が英国を訪問し、エリザベス女王に謁見したとき、女王はオバマ前大統領に贈られたブローチを身に付けていた。もちろん女王は何も語らないが、トランプをあまり歓迎しないメッセージは明らかだと多くの国民が受けとめた。
――――というような話です。
(5)これもまた、エコノミスト誌は遊び心の副題を付けたのでしょうね。
英国人のユーモア感覚でしょうか。
それにしても、女性がこんなことを考えてブローチを選んでるとは知りませんでした。
ブローチをつけた女性に会う機会があればいいなと思いました。
夕食時に家人にこの話題を持ち出しました。「幾つも持ってはいないけど、ブローチの選択はけっこう難しい」そうです。「好き嫌いがあるみたいで、TVで見るエリザベス女王はよくつけてるが美智子上皇妃はつけてない」とも。
4.以上は雑感ですが、最後に少しは真面目な話ということで、ツイッターダムさんこと(Twitterdum)トランプ大統領のウクライナ・スキャンダルについての、「弾劾の期待と危険」と題する同誌の「論説B」を簡単に紹介します。
(1)いわゆる「ウクライナ・スキャンダル」に関して、米国下院民主党はペロシ議長の指示のもと,トランプ大統領弾劾の動議を出すかどうかの調査を開始した。
(2)仮に、疑惑が事実とすれば、大統領の行動は大いに問題であり、過去のニクソンやクリントンに比較して、米国の国益を損なった点で罪はより重いといえる。
(3)しかし弾劾に踏み切るリスクも大きい。
まず第一に、この国の分断をさらに一層深めることになる。
第二に、複雑な手続きが国民に十分理解されるか、民主党の党利党略とみなされないか。
そして第三に、仮に弾劾の動議に踏み切って下院で可決されても、共和党が多数の上院で可決される可能性はほぼないし、そうなれば一連の流れはむしろ逆にトランプ再選に有利に働くのではないか
(4)もちろん弾劾に踏み切らないリスクもある。
こんなことが許されるとすれば、将来の民主党大統領も含めて悪しき先例を残すことになり、外国政府の今後の行動にも影響するということを考えるべきである。
(5)従って、現実論より原理原則論に立って(弾劾に向けて)行動する方が望ましいと本誌は考えるが・・・・上にあげた種々のリスクがあり、「サイコロを振るか否か?」は非常に危険な選択である。
――――とエコノミスト誌は論じています。
いささか歯切れの悪い論旨ですが、それだけ難しい問題だということでしょう。