タイム誌「2019年今年の人はグレタ・トゥンべリさん」

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1.渋谷駅周辺の再開発が進み、その変貌が著しいですが、地下鉄銀座線の新しい渋谷

駅が1月3日からお目見えしました。

 学校が港区麻布にあり、中高の同級生には渋谷から通学する者が(私を含めて)多く、懐かしい土地です。60年以上も昔の思い出話の投稿が同級生ネットにしばし賑やかでした。渋谷からのバスで一緒になる通学の女学生にほのかな好意を寄せたというような話です。中には、後に女優になった女学生もいたそうです。

 バスは片道7円50銭、我々は終点の「日赤病院」まで乗りましたが、途中幾つもの女学校近くで停まり、とくに東京女学館の生徒が多く、私たちは「館(やかた)ぶね」と呼んでいました。

 いま、渋谷はすっかり変わり、老人には縁遠くなりましたが、昔も今も若者の街だったのかもしれません。

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f:id:ksen:20200107130501j:plain2.若者と言えば、今回は恒例のタイム誌「今年の人(Person of the Year)」の紹介です。

  昨年の最終号で同誌は「若者の力(The Power of Youth)」との副題で、16歳のグレタ・トゥンべリさんを「2019年の人」に選びました。

 トゥンベリとは言いにくい苗字ですが、デンマーク語は知りません。英語では“Greta Thunberg”と表記されます。

 2017年は,セクハラに声を上げた”#MeToo” 運動の「沈黙を破った人たち(The Silence Breakers)」、

2018年は、真実と民主主義を守るために命を落としたり迫害されたジャーナリストたち「ザ・ガーディアンズ(The Guardians)」、

と2年続けて複数の人間が選ばれましたが、今回は3年ぶりに「個人」が、しかも個人では最年少のグレタさんでした。

 もっとも彼女の背後には、世界中のデモに参加した7百万人という若者がいる、新しい世代のうねりを感じる、というのが同誌の見立てです。

3. 同誌はまず「新しい時代」と題する巻頭文で、92年前、偶然からこの企画が始まったという歴史を語り、今回の決定につなげます。

(1) 92年前の1927年のこと、年末になって編集部は、25歳の英雄チャールズ・リ

ンドバーグをまだ表紙に採用していなかったことに気が付いた。

 彼は、同年5月「スピリット・オブ・セントルイス」と名づけた単葉単発単座プロペラ機ニューヨークパリ間を飛び、大西洋単独無着陸飛行に初めて成功という偉業を成し遂げたのである。

(2) そのために急遽「今年の人」という特集記事をスタートさせて彼を選出し、無事にその肖像を載せることが出来た。

 それ以来、「今年の~」は同誌最長の企画になり、他誌も追随して、ジャーナリズムでもっとも成功した企画になった。

(3)しかも以来、リンドバーグの25歳という若さは91年間破られることがなかった。

 その歴史が、2019年、グレタ・トゥンベリによって書き換えられたのだが、そのことをリンドバーグも地下で喜んでいるだろう。

 なぜなら、チャールズ・リンドバーグは晩年、環境保護活動に熱心に取り組み、「どちらを選ぶかと訊かれたら、私は飛行機よりも鳥を選ぶ」と語っていたからである。

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4. そして続けて、「選択=なぜ彼女か」と題する本文で彼女の行動の意味を以下のよう

に総括します。

(1)気候変動をめぐる彼女のメッセージには、危機感があふれている。

 にも拘わらず、その核心には楽観主義が存在する。なぜなら、グレタの行動が示したのは、伝統的な権力構造に失望した世代に、歴史をつくるには何も権力の一部に属さなくたってよいのだというメッセージなのだから。

(2) それは、何かに怒っている若者が突如反抗に立ち上がるという、すべての親にとっ

てごく身近な物語から始まったが、史上もっともあり得ない速さで、世界中に影響力を与えた物語になった。

 デンマークの首都ストックホルムの国会議事堂の前に、「気候を守るための学校ストライキ」と手書きで書いたボードを掲げて座り込んだ、たった一人の少女の行動が、1年ちょっとの間に世界中に拡がる若者の抗議活動になった。

 150か国以上の何百万もの若者が、「地球を守ろう」と街中に姿を現したのだ。そして彼女は、世界中を旅して、ローマ教皇を始め、世界の指導者に会い、プーチンやトランプやブラジルの大統領から「ちっぽけなガキ」などと呼ばれながら臆することなく、「よくもまあ、恥ずかしくないのか(How dare you)?」と言い返したのだ。

(3) 彼女は、行動を要求している。その道のりはまだ遠い。

 しかし、少しずつ動き出してもいる。多くの国や企業がより真剣な取り組みを始めたし、60か国以上が2050年までにCO2排出量をゼロにする約束をした。

 若者だけでなく世界中の関心が一層高まった。オーストリアの総選挙では、緑の党の票が3倍に伸びて連立政権に入り、4人の閣僚を送り込み、メディアは「グレタ効果」と呼んだ。世界の石炭の半分を消費する、あの中国でさえ電気自動車生産に力を入れるなど変わりつつある。

(4)  2019年は、気候変動の危機が、世界的な課題として舞台の中央に上がった年だった。

 そしてそれを成し遂げたのは、たったひとりで始めたグレタの行動からだった。

 92年間のタイム誌「今年の人」企画の根底にあるのは、歴史は偉大な人間によってつくられるという仮説である。長い経験と実績を経て、一定の地位に上りつめ、権力の座にいる人たちのことだ。

  しかし、2019年、不平等、社会不安、既成の政治の機能不全が広がる中で、伝統的な「体制」が私たちを失望させた。

 その中にあって、新しい力が姿を現し、私たちに影響を与え、「体制」が決して達成できないやり方で私たちを結びつけたのだ。

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5.  と書いた上でタイム誌は、「なぜ彼女が“今年の人”なのか?」について、

(1) 私たちの唯一の終の棲家であるこの地球を脅かしている人類へ、真摯な警告を発したがゆえに、

(2) 分断された世界に、国境や人種背景を超えた、世界大の声をもたらしたことに、

そして、

(3) 新しい世代が導く未来がどんなものかを私たちに示してくれたがゆえに、

「Greta Thunbergは、2019年タイム誌が選ぶ“今年の人”である」と述べています。