京都で考えた「寅さん」とアメリカ大統領選挙

f:id:ksen:20200131153631j:plain

1. 前回のブログで、いま上映中の映画「お帰り寅さん」を観るきっかけになった台詞

(「人間は何のために生きている?」)を、岡村さんに教えて頂いたことに触れました。

寅さんの映画を全作見ている友人が、このせりふが出てくるのは39作目の「寅次郎物語」(マドンナは秋吉久美子)だと教えてくれました。

https://www.cinemaclassics.jp/tora-san/movie/39/ 

松竹の公式サイト「39作目予告篇」に台詞が載っています。

(1)「男はつらいよ」の第1作は1969年だそうですが、私が初めて観たのは70年代半ば、ニューヨークでです。日本食料品店が、たぶん顧客サービスで無料だったと思いますが、日曜日に古い「寅さん」を上映してくれて、何度か家族で観に行きました。

海外で観ると、日本の自然も風物も何とも懐かしく、涙がでました。

帰国してからは、現金なもので、すっかり足が遠のきました。

(2)寅さんという存在は「国民的人気」と言われます。しかし「国民的」といっても、例えば東京と京都では若干温度差があるのではないでしょうか。

昔、京都の大学の授業で、笑いを取ろうと思って寅さんの言動を紹介しました。予想に反して、「ただのアホやんか!」という学生の反応にがっかりしました。

「それじゃ何が面白い?」と訊くと「それりゃ吉本!」と答える。そこで吉本を大坂まで観に行きましたが、これが私にはさっぱり面白くない・・・

(3)京都であれば、生まれも育ちも京都で、長期間離れたことがない私の従妹や「イノダ」の主であれば、上記の学生の反応に共感するかもしれません。もちろん岡村さんのように純粋の京都人でも、若い頃に京都以外とくに海外を旅してまわった方の場合は少し違うでしょう。

他方で、「外国でも寅さん人気」という1月11日付毎日新聞のように、外国人にもファンが多いそうです。

(4) 要は、同じ日本人でもファンもいればそうでない人もいる、人さまざま。そういった多様性・違いは大事にしたいと思います。

f:id:ksen:20200121080155j:plain2.「人さまざまが大事」と思ったのは、京都に2泊して帰京してからのことです。本日が京都市長選挙の当日ですが、滞在中は選挙運動の真っ最中でした。その中で現役候補を支持する「京都の未来を考える会」が、京都新聞に「大切な京都に共産党市長は「NO」」という広告を出したそうです。

長年の友人の株式会社カスタネット社長の植木力さんが、「いろんな考えがあっていいし、そう思う人もいるだろうが、選挙中のこのやり方は駄目だろう」とフェイスブックに怒りのコメントを掲載しました。

f:id:ksen:20200201075932j:plain   私のよく知っている、あの温厚な植木さん(彼が社員に怒っている・威張っている姿を見たことがない)だけに、よくよくの発言でしょう。おそらく彼は、これは「ネガティブ・キャンペーン」以外の何でもないし、「敵・味方」を区別して敵を叩くトランプ大好き戦術だと感じとったのでしょう。

何より、私の好きな京都と京都人は、もっと懐の深い、多様性を愛する、面と向かって喧嘩をしない、寛容で「大人」の街であり、人たちだと思いますが。

頑張れ、植木さん!

3.選挙の話になりましたが、いよいよアメリカ大統領選挙戦のはじまりです。

(1)2月3日のアイオワ州での党員集会を皮切りに、長丁場の選挙が始まります。

7月半ばに民主党が、8月下旬に共和党がそれぞれの党大会で正副大統領候補を決めて、11月3日の選挙で次期大統領が選ばれます。

(2)共和党は現職のトランプでほぼ決まりでしょうが、民主党は混戦です。

 バイデン(オバマ政権の副大統領)、サンダース(2016年にヒラリー・クリントンを最後まで苦しめた、「社会主義者」)の2人が一歩先行しているが、それぞれ支持率20%台でこれから何が起こるか分からない。大富豪のブルームバーグも莫大な自己資金を使って追い上げている。

f:id:ksen:20200122151907j:plain

(3)そういう状況で、ニューヨーク・タイムズは1月22日(電子版は19日)の社説で「本誌は民主党の候補者として、エリザべス・ウォーレンとエイミー・クロブシャーの2人を支持する」と正式に表明しました。ウォーレンはマサチューセッツ州の、クロブシャーはミネソタ州の、ともに上院議員です。

(4)同紙社説の今回の特徴は、

・1人に絞るのではなく、2人を選ぶのはきわめて異例であり、

・その2人とも女性であり、

・支持率ではむしろバイデンやサンダースに遅れを取っている候補者である。

(5)なぜこの2人なのか?について同紙はこう言います。

「いまの民主党は、制度にメスを入れるべきとの意見と、国をまとめる能力が重要だという主張とが対立している。しかし本紙はどちらも重要であり、かつ民主党は歴史的に常に進歩派であったし、方法論の違いと考える。従って、それぞれの主張から最も優れた候補を1人ずつ選びたい。

即ち、経験、実績、能力、人格、政策などの諸点で、制度改革派からはウォーレン、安定と寛容重視派からはクロブシャー、この2人である」。

(6)このうち、エリザベス・ウォーレンについては英国エコノミスト誌昨年10月26日号が表紙に写真を載せ、論説で一定の評価をしていることをブログで紹介しました。https://ksen.hatenablog.com/entry/2019/11/10/090411

 エイミー・クロブシャーについては殆ど知りません。しかし、1月13日に開かれた「民主党候補者」による公開討論会をPC で見ましたが、確かに説得力があり、しかも無闇に攻撃するのではなく、冷静かつユーモアもある論弁でした。メディアでも、この2人が「本日のdebate(論争)の勝者」とする意見が多かったです。

f:id:ksen:20200115144629j:plain

 因みに、相手との違いを認め、その違いにただ「NO」と否定するのではなく相手に一定の「リスペクト(敬意)」をもって、その上で論理的に自らを主張する、そういう態度が「debate」には大事です。(植木さんが怒るのはもっともです)。

(7)NY TIMESを読むのは米国のインテリ層に限られるでしょうから、本紙の主張が一般の有権者に与える影響力はさして大きくないでしょう。

それでも、勝ち馬に乗るのでなく(明確な勝ち馬がいない状況ではあるが)、劣勢にある候補者でも自らの判断を尊重して支持する姿勢は評価したいと思います。

(昨年12月12日の英国総選挙で、エコノミスト誌が論説で、EU残留を明確に主張する劣勢の自由民主党への支持を表明したことを思いだします)。

(8) NY TIMESは最後に、「読者の中には、1人に絞りこまないことへの不満があるかもしれない。しかし、本紙はこの2人がともに優れた候補者で甲乙つけ難いことに加えて、民主党の路線として中道と進歩派のどちらを選ぶのかは、これからの予備選を通して有権者が選択すべき問題であると考える」として、

f:id:ksen:20200122161523j:plain

「(どちらであっても)最良の女性候補者の勝利を祈る(May the best woman win.)」という言葉で「社説」を結んでいます。

“Best”と信じて応援する政治家が2人もいるということは、(勝利には至らないかもしれないが)羨ましいなと感じました。