ドイツ・メルケル首相のスピーチとある英国クルーズ船の対応

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1. 新型コロナウィルスについて、ドイツのメルケル首相が18日夜異例のTVスピーチを行い、世界で話題になっています。

「第二次大戦以来の試練」に直面して、国民の連帯を呼びかけました。ドイツ政府の公式サイトから英文で読むことができます。

https://www.bundesregierung.de/breg-en/search/statement-chancellor-1732302

「市民の皆さん~」の呼びかけから、「皆さん自身と愛する人たちを大事に。有難う」で終わる約15分の間に、「民主主義」という言葉を4回も使いました。

「直截で、正直で、思いやりにあふれたメッセージ。まさにリーダーのあるべき姿を示した」とあるアメリカのメディアは評しました。

(1)「いまこそ民主主義とは何かが問われています。まず第一に私たち政府は透明な政治判断をして、それを皆さんに伝えます。次に誰もが参加し、連帯することです」

(2)「真っ先に感謝したいのは医療現場の人たちの献身です。素晴らしい仕事をしている皆に心からのお礼を申し上げます」。

(3)「普段あまり光の当たらない人たちにもお礼を言いたいのです。スーパーマーケットのレジや棚に物品を補充している人たち。私たち仲間のために困難な仕事を続けていることに、本当に有難う」

(4)「封じ込めの施策はもちろん重要で全力を尽くしています。しかし、ウィルスとの戦いでいちばん大事なのは私たち自身です。他人は気にしなくていいのだと一瞬たりとも考えずに、誰もが大事、そのために連帯しなければなりません」

――と語る彼女は、具体的な「助け合い」のあり方にまで言及します。

自らの若い時の東独時代にも触れて、共感にあふれた、格調高い感動的な語りかけです。

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2.メルケルさんの言う「連帯」の一例になるかどうか、次にクルーズ船の報告です。

 と言っても、横浜に寄港したダイヤモンド・クルーズ号ではなく、事情があって、別のクルーズ船に関心を持たざるを得なくなりました。

 フレッド・オルセンという英国の船会社の「ブレーマー号」がカリブ海を航海中、同じようにコロナウィルス感染の疑いのある乗客が見つかりました。

 予定の港への寄港を拒否されてキューババハマ沖にしばらく漂流せざるを得なくなりました。乗客は約680人、乗員は約380人で乗客の多くが英国人です。

 結果的には、船会社が英国政府と緊密迅速に連携し、かつキューバ政府が一時的な寄港をOKし、英国航空が飛行機を3機ハバナに飛ばして(1)健康状態に異常のない乗客全員、(2)感染の疑いのある5人は別の飛行機に乗せて、(3)船は乗員が運行し、乗客は19日無事英国に帰国。(1)は隔離の要なく、2週間の自宅待機になったそうです。

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3 フレッド・オルセン社はホームページに、この出来事を適宜報告しました。

(1) さらに同社のフェイス・ブックのサイトがあり、「ブレーマー号の現状Braemar update」と題して時々刻々、頻繁に状況を伝えました。

 また、フェイス・ブックの特性を生かして、サイトを見ている家族や友人からのコメントや希望・質問などが載り、他の人もその情報を共有することができます。

(2)ここから分かることは、以下のような進展状況です。

・まず会社と英国政府とが緊密に対応を協議しています。感染の疑いのある客は直ちに隔離し、専門の医者が急遽英国から飛んで、送り込まれました。

・その上で、直ちに全員を英国に連れて帰る決定をしました。

・しかも、こういう状況が、フェイスブックを通じて的確に情報発信されました。

・情報の中には、「船上なので乗客との通信に支障が出るが、必ず本人に伝えるから~~に連絡してほしい」といったメッセージも流れます。

 たとえ観光旅行であっても、これがメルケルさんの言う、「誰もが大事」の精神ではないでしょうか。同社の対応には、危機管理のイロハを教えられた感じがします。

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4. フェイスブックを通して心配していた人たちも同様に感じたのでしょう。

 無事に、「飛行機で全員が英国に帰れます。翌々日にはヒースロー空港に到着します」と報じた際には、コメントが殺到しました。安堵と同時に感謝の言葉が多かったです。   例えば、

――「素晴らしいニュースで、ほっとしました。献身的に働いてくれた乗員の皆さん(英雄たち)にはまだまだやるべきことがあるでしょう、ご苦労様。ジョゾ船長には乗客全員の面倒を見て、コミュニケ―ションをよく取ってくれたこと(少なくとも不安を軽くしてくれたこと)に、心から感謝します。あなたは力強い支え(a pillar of strength)です。寄港をOKしてくれたキューバの親切にも感謝します、神の恵みがキューバにあるように。皆さんお元気なことを祈っています~~~」―――

 他に、「他のクルーズ船会社の場合、ここまでの情報提供はない。貴社の対応は素晴らしい」「全員無事に帰ってきてください」「本社の社員もハードワークだったろう。帰国が決まって彼らが涙を流して喜んでいる写真をみて、家族のような雰囲気だと思った」「復帰してクルーズ再開が待ち遠しい」など、さまざまなコメントがありました。

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5. フェイスブックのサイトは英語です。ところが、日本のPCからアクセスするためか、「翻訳」機能がついていて転換すると日本語でも読めます。

 おまけに、このクルーズ船に乗っている日本人は1人しかいません。しかも彼は、観光ではなく仕事で、ゲスト・アーティストとしてピアノ演奏をしました。

 彼は予定の船上でのピアノ演奏を終えたあと、感染の疑いを知った訳です。「長旅になるのでみなの気持ちが沈むのを避けるため、もう一度リサイタルを開けないか考えています。演奏会場に集まってもらうのが無理になったので、無人のホールで演奏して船内テレビで中継してもらい、元気付けることができればと思っています」と語っていたそうです。

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6. この出来事に、いろいろと感じるところがありました。

・船を運行している会社が関係国と緊密な連絡を取って、責任を持って行動する。

・スタッフ(この場合は船長他乗員)と本社の真摯な、心のこもった対応。

・的確かつ正確な情報発信と、現代のインターネット技術を生かして出来る限り双方向  のコミュニケ―ション。

・「よくやってくれた」と心をこめて関係者を称賛すること。

・そして最後に、危機にあたって他者に寛容であること。

―――などの大切さでしょうか。

 振り返って、ダイヤモンド・プリンセス号の場合は、あまりこういう報道はなされなかったように思いますが、やはり同じく、船長以下、船に乗っていた医師や看護婦や乗員は、献身的な努力をしたのではないでしょうか。