「ソーシャル・ディスタンシング」の中で、アーダーン首相を考える

 

f:id:ksen:20200326114826j:plain

1.「social distancing(他人と距離を保つ)」と「self isolation(ひとりになる)」という、今まで耳にしなかった2つの英語が、メディアに頻繁に登場するようになりました。この週末は東京も諸外国に近い「外出自粛」になりました。

世界のどこを見ても逃げ場がなくなってきているようで不安ですが、ロンドンからの情報では、

・原則外出禁止。可能な限り在宅勤務。

・レストランやパブも閉鎖。テイクアウトはOKなのでお客は増えている。

・スーパーに物が無くなった。

・英国は食材のデリバリーサービスが発達しているが(アプリで買い物をして自

宅まで届けてくれる。中にはロボットが届けるところもある)、注文が殺到して

2週間待ちの状況。

・ただし、学校も休校というが、システムが出来ているので授業はオンラインでやっている。この点は日本と違う・・・と言っていました。

f:id:ksen:20200322110903j:plain

f:id:ksen:20200322110824j:plain

2.東大駒場キャンパスも、原則立ち入り禁止となりました。

その前に図書館に行き、「週刊文春」3月26日号のスクープ「森友自殺財務省職員遺書全文公開」のコピーをとって家人に見せたところ、友人に転送していました。

発売当日、この職員の妻が国と佐川元国税庁長官を提訴し、多くの新聞が朝刊の1面トップに報道しました。なぜか東大の図書館には、以前からこの手の週刊誌は「週刊文春」だけが置いてあります。

東京新聞によれば、「53万部が完売した。発売当日から多くの人が買い求め、ツイッターなどに感想を書き込んだ。電車で読んで涙した人もいるという」。

民主主義の根幹である「司法の独立」が果たしてこの国に存在するのかが問われているのではないでしょうか。裁判所も、検察が「証拠不十分(隠滅し、証言も拒否したのだから不十分なのは当然)」で不起訴としたように、同じ理由で「原告敗訴」の判決をするのか。

週刊文春」を始めメディアがこれからもフォローできるか、それ以上に国民の関心が高まるかが左右するのではないか。この国は「外圧」に弱いので期待したいが、この事件はすぐれて国内問題なので、残念ながら海外のメディアの関心は高くないかもしれません。

セクハラ事件の伊藤詩織さんの場合は、「日本にもやっと#Metoo運動が始まったか」という国際的観点から、NY Timesなど海外が大きく取り上げました。外国特派員協会も記者会見に招きました。この事件も検察が(驚くべきことに)不起訴とし、彼女は刑事を諦めて民事で訴え地裁で有罪をかちとりました(被告は上告中)。

f:id:ksen:20200329080007j:plain

3.ウィルスに戻ると、前回のブログで紹介したメルケル首相のスピーチについては、いろいろコメントを頂きました。

(1)「いまこそ、哲学や倫理の知見を政治にも取り込むべき」と書いた日経記事の紹介(木全さん)、

(2) 大手鉄鋼会社から派遣されて若い頃にドイツ留学をした方の、このスピーチへの高い評価(Masuiさん)・・・・などです。

皆さん、女性の政治リーダーシップにも触れて頂きました。以下、岡村さんのは、

―「ルーブル美術館で「民衆を率いる自由の女神」の絵画を見た時は思わず、「女だてらに」と思いました。(しかしいま)考えれば、子育てを主にする女性が国民を第一に考えて政治を進めるのも不思議じゃないですね。メルケルさんやアーダーンさんのような女性が今に日本にも現れるのではないか」―というコメントです。

 因みに「民衆を率いる自由の女神」は、1830年フランスの7月革命を題材にしたドラクロアの絵です。横に立つ少年の姿も印象的です。『レ・ミゼラブル』に登場する、最後に市街戦で死ぬガブローシュは作者ユーゴーがこの絵にヒントを得たと言われます。

f:id:ksen:20200229183618j:plain

f:id:ksen:20200327154320j:plain

4.上に出て来る「アーダーンさん」はジャシンダ・アーダーン、ニュージーランドの39歳の女性首相です。就任後最初の国連総会に生まれたての赤ちゃんを連れて登場して話題になりました。夫がかなりの子育てを受け持っているそうです。

彼女は3月26日夜、フェイスブックで直接国民に向けて、「social distancing & self isolation」の措置を説明し、その場でオンラインの質問に応じました。ニュージーランドは人口わずか5百万弱の小国で感染者は400人弱、死者もゼロですが、「これから増えるリスクがある、自宅にいてください。休業補償もします。誰もが互いに助け合って」と訴えました。                

夜遅く自宅からの放映で緑のジャンパ―の普段着姿。「いま子供を寝かせたばかりで、こんな格好で御免なさい」と謝りながら、気軽に質問に応じた様子です。CNNテレビをPC経由見られますが、暖かな人柄がにじみ出る語りかけです。メルケルさんの(英訳ですが)「My fellow citizens (市民の皆さん)」で始まり「お大事にしてください。有難う」で終わる語りにも同じ印象を持ちました。

f:id:ksen:20200328101747j:plain

 

5.アーダーン首相については、タイム誌3月9日号が特集記事を組みました。

(1)1年前(2019年3月15日)、ニュージーランドのクライスト・チャーチでテロリストのモスク襲撃があり、イスラム系の51人が殺害された。その時の首相の対応とリーダーシップは世界の称賛を浴びた。

(2)直ちに犠牲者の家族を抱きしめ、彼らの悲しみに耳を傾けた。国民に「They are us(この国に住むイスラムの人たちは私たち)」と呼びかけ、直ちに議会に諮り、銃規制を強化した。断固として犯人の名前を公表せず、ネット企業と各国に働きかけて、彼がネットに投稿した殺害動画を削除させた・・・・等々。

(3)51人にはアフガン、パキスタンバングラ,インドなど様々な国籍の人がいた。

「何を国民に語るか。すぐに考えたのが、ニュージーランドを自分たちの住む場所に選んだ人たちへの圧倒的な気持ちでした。何世代も住み着いていようが、1年前に来たばかりだろうが、ここが棲み処なのです。そう思ったときに「They are us」という言葉を自然にメモに書きつけていました」。

またこうも語る。「この国は小さく、知る人も少なく、遠い国です。そういう私たちが唯一世界にリーダーシップを発信できるのは、モラル(倫理)の大切さなのです」。

(4)彼女は実はこの9月に1期を終え、改選を迎えます。1期目は彼女の労働党は最大多数ではなく、緑の党との連立で辛うじて首相になりました。現時点の世論調査で、彼女自身の支持率は高いが、中道右派の国民党が46%、労働党は41%で、再選は簡単ではない。

しかしタイム誌は、「彼女は、親切は力であり、思いやりは実行でき、包容は可能であることを身をもって示した」と高く評価します。

ニュージーランドは小国であり、いろいろ問題も抱えています。

しかし世界でいちばん最初、1893年に女性参政権を定めた先進国でもあります。

たしかに岡村さんの言うように、「国民を第一に考えるのが政治」(至言ですね)とすれば、女性の政治リーダーの方が向いているのではないでしょうか。