「ソーシャル・ディスタンシング」とニューヨークから

1.東京でも「ソーシャル・ディスタンシング」が当たり前の日々になりました。

 つい10日ほど前までは、冒頭の写真のように桜を楽しむ家族連れが見られました。いま同じ駒場公園には入れますが、ほとんど人気はありません。

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2.とうとうアメリカが感染者で世界一になりました。ニューヨークのセントラル・

パークに急遽こしらえたテントの仮設病院が並んでいる光景をテレビで見るのは、9年住み、働いた懐かしい街だけに悲しいです。

 長男が、集中治療医としてNYの病院に勤務する日本人の友人のフェイスブックを転送してきました。ご存知の方も多いと思いますが、悲痛な叫びです。――

(1)病院は地獄絵の様相。現場は崩壊寸前。

(2)街は、外出禁止令がでてもまだ沢山の人が外出していた。ニューヨーカーの多く

もここまでひどくなることを予測してなかったと思う。

(3)それが、ここ2週間で見る間に患者が増えて病室も人口呼吸器も足りなくなった。

 今自分の目の前に2人、今すぐ人工呼吸器を必要としている患者がいるとする。でも病院にもう一つだけしか人工呼吸器が残っていなかったら?集中治療医としてその決断を迫られた時どうやってその最後の一人を選べというのか。

 ERや病棟で10人も20人もの患者がICUのベッドが空くのを待っている状態で、一つだけICUのベッドが空いた時どうやってその1人の患者を選べばいいのか。

(4) 同僚や看護師も何人もコロナにかかった。私が担当するICUで、いまも彼らが人工呼吸器を装着されて生き延びようとたたかっている。

 今となっては街中の誰が感染していてもおかしくない状態なので、病院は家族との面会も許可していない。患者は孤独にこのウイルスとたたかっている。

(5)毎日休み返上で働いても患者は増える一方で、終わりなき戦いに思えてきて白旗

をあげたくなる。ピークに達するまでまだ時間があり、その頃にはこの病院がどうなっているか想像するだけで恐ろしい。

(6)自分がかからない保証などどこにもなく、ウイルスを病院から家に持ち込んで家族にうつしてしまうことが一番怖い。

(7) 他の街がこんな悲惨な経験をしなくていいように心から願う。外出自粛、辛抱してほしい。

 今この状況になったからこそ気づかされることが沢山ある。家族や友達と会ってお喋りしたりハグしたり買い物に行ったり公園に行ったり、気軽にそうできることって幸せなこと。生きているってそれだけで本当に幸せなこと・・・

3.このメールを読んだのは4月1日(水)ですが、ちょうど読み終えたら、NYの某さんから電話があり、暫く話しました。昔の職場の友人で同地に永住し、セントラルパーク・サウスのアパートに一人で住んでいる70歳の女性です。

 「日本の検査件数は(ドイツなどに比べて)なぜこんなに少ないんだろう?ニューヨークの数週間前の状況に似ているのが何となく心配」と言っていました。

いまは不要不急以外の外出は禁止。今週から、市が65歳以上の高齢者には無料の食料品配達サービスをしてくれることになり、本当に有難い、とも言っていました。

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f:id:ksen:20200401103115j:plain4. こういう「ソーシャル・デスタンシング」の中で、普通の人たちはどうやって日々

を過ごすのでしょうか?

 英国の公共放送BBCの電子版は、新型コロナウィルスに関するさまざまな短い、数分で終わるヴィデオ・メッセージを刻々流しています。

 その中には日本のTVで見た方も多いと思いますが、「世界中の人たちがアパートのバルコニーに出て、奮闘する医療従事者を称えようと、拍手を送る場面」も流しました。英国の王室の幼い子どもたちもいました。

 そういうメッセージの1つに、「ロックダウンから学ぶこと」というのがあります。

イタリアのローマですでに2週間以上、アパートの自宅にロックダウンされている家族(夫婦と息子の3人)を、レポーターが外から取材したものです。

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 3人家族は夫が食糧品の買い物で2回外出した他は、2週間一度も外に出ていない。レポーターは「どういうことが大事ですか?」と尋ね、しばらくやり取りが続きます。格別目新しいアドバイスはありませんが、以下のような返事です。

(1) 毎日、その日の過ごし方を計画するようにしている。

(2)妻は居間に、息子は自分の部屋でオンライン授業に、といった具合に3人が別々

に過ごす時間が大事。

(3)くたびれたら皆集まって、本を読んだり、TVを見たり、ゲームで遊んだりする。運動もする。家族が共に過ごす時間が増えたことが唯一、良いことかもしれない。

――いつまで続くか分かりませんが、「あなたたち勇敢ね。頑張って」とレポーターが励ましていました。

 私たち東京人の多くは、こんなに居住空間が広くないので、もっと難しいかもと思いながら、眺めました。

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5.災難は常に、災難に立ち向かう当事者(今回であれば病人と医療現場の人たち)と

経済的弱者を痛めつけます。強者(権力者、為政者、富裕層など)の多くは、自らの身はそれほど痛まないのではないか。

 だからこそ強者には、当事者と弱者の苦難と痛みをどこまで感じられるか、どうしたら助けられるかの想像力、それをふまえた判断力と「速やかな断固たる行動」が、問われているのだと思います。

 最後に、前述した在NYの女性から、本日早朝届いたメールの一節です。

――「(1)NYではクオモ知事が医療現場が対応できるか否かは「感染をいかに最小限にくい止めるかにかかっており、自宅待機、他人との距離を6フィート(180センチ)以上保つこと」を強く要請しており、その喧伝放送がかまびすしい程です。

(2)ピークは7日─21日後と予想されましたが、当の7日後である4月9日が来週に迫り、クオモ州知事とNY市長の発言にも緊迫感をひしひしと感じます。

 喫緊の課題は 人工呼吸器を想定必要数用意する事で、そのために警察と州兵を動員して、強制的に シェアリング (NY州内の医療機関が私有する人工呼吸器を、必要とする他の病院に貸与)することに踏み切りました。

(3) 今回のことで政府のリーダーシップと役割が如何に重要であるかを身に染みて感じます。クオモ州知事は毎朝一時間近く記者会見を開き、NY州民に対しブリーフィングしますが、それがテレビ(ラジオ)にて Live 放送されます。内容は検査・罹患・死者数を含めた現況報告、専門家(主に医療関係者)の意見、これからの見通し、これから州政府が実行することの予告などです。

 クオモ州知事の発言にはデータに基づいた透明性があり、彼の確固とした自信とリーダーシップに安心感を抱きます」。――