米副大統領候補の討論会((10月7日)と「マンタラプション」

  1. 先週は気温も下がり、雨も多い東京でした。蓼科の里山でも稲の刈り入れが終わり、紅葉が始まっていることでしょう。

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  1. ところで、選挙もあと3週間ちょっとになったアメリカは、大統領とホワイトハウスのコロナ感染に揺れています。この混乱の中で、15日の2回目の大統領候補の討論会(ディベイト)は中止、他方で共和党上院が最高裁判事の承認手続きを強行するのか注目されます。

 9月29日の1回目のトランプとバイデンのディベイト90分が、非難の応酬と人格攻撃に終始して真面目な政策論議がほとんどなかったと酷評されたことは報道の通りです。

 もと職場の大先輩からは、「行儀良かった(orderly)のは、最初に司会者が質問してトランプが答えたところまで、次ぎにバイデンが答える途中でトランプが自分の主張を大声で叫び、司会者の制止も全く効果なく、後は双方エスカレートするばかり。民主主義のお手本になるべき米国の悲しい実態を見たという感じ」とメールに書いておられ、全く同感しました。

 バイデン発言へのトランプの介入は、実に71 回もあったそうで(バイデンは22回)、ディベイトのルールを無視した、小学校の子どもでもやらないマナー違反でしょう。

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3. 10月7日には副大統領候補マイク・ペンス共和党・現副大統領)&カマラ・ハリス(民主党・現上院議員)のディベイトが実施されました。

 

(1) コロナ対策、最高裁判事の人事、経済政策、人種問題と治安、対中国政策、気候変動問題などについて、お互いにまともに話し合った90分でした。ただ、「礼儀正しさ(civil)を保ちつつも激しい応酬だった」、そして「質問に答えない場合もはぐらかしも、間違いも、お互いに同じ程度にあった」と指摘されました。

 

 (2)立場によって評価が分かれたのは当然ですが、視聴者の調査ではハリスさん優勢が多かった。とくに女性の70%が彼女に好感をもったという調査もあります。

 

 (3) 今回は9月29日の両大統領候補ほどひどくはなかったが、それでも、

・発言妨害―相手が喋っている途中に割って入る、

・持ち時間超過―「決められた時間」を超えても話をやめないで司会者から指摘される、

がみられました。CBSによると、「発言妨害」はハリス5回に対してペンス10回。「時間超過」はハリスは持ち時間通りの35分に対してペンスは38分喋った。

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(4) その中で印象に残った場面がありました。

カマラ・ハリスがペンスの発言妨害に、最初は黙って首を横に振ったり苦笑したりしていましたが、ついに、「副大統領、私が話しています。私に終わらせて頂けるなら、会話が成り立ちますね("Mr. Vice-President, I'm speaking. If you don't mind letting me finish, then we can have a conversation.")」と微笑を浮かべながら、たしなめました。

 

(5)9月29日のバイデンの場合は、あまりに度々トランプが邪魔するのでついに、「いいか、黙れ!(”Will you shut up. man.”)」とかなり感情的に応じました。

 対して、この時のハリスさんの落ち着いた対応には感心しました。幾つかの英米のメディアも、彼女は礼儀正しく、しかし毅然と立ち向かったとして、この言葉を引用しています。

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4.そして私は、いちどブログで紹介したことがある、『女性のいない民主主義』(前田健太郎著、岩波新書)という本の中の、「話合いにおけるジェンダー規範の働き」についての説明を思い出しました。

 著者の前田東大准教授(政治学)はこう言います。

(1)「日本のテレビ番組を眺めていると、男性が何かを説明し、女性がその説明に頷きながら話を聞いている場面を見ることが多い。

・・・・このように、男性が意見を言い、女性がそれを聞く光景は、日本だけでなく世界各国で広く見られる」

 

(2) と書いて、著者は「その理由は・・・・おそらくは女性が自らの意見を言うことを妨げるジェンダー規範(「男は男らしく、女は女らしく・・・」)が何らの形で作用している」と分析し、具体的な事例を紹介します。

 

(3)1つは「マンスプレイニング」です。「男性」を意味する「man」と、「説明する」を意味する「explaining」を合わせた造語。

――「女性は、あまり世の中について詳しくないだろう。だから、特に意見も持っていないに違いない。それならば、ここは自分が会話をリードしよう。このような思い込みに基づき、男性は女性に対して一方的に自らの意見を説明する」。

(4)もう1つは「マンタラプション」、「男性=man」と「さえぎる=interruption」を組み合わせた造語。

―――「男性が女性の発言をさえぎれば、その分だけ女性の声は政治に反映されにくくなるだろう。・・・・・イギリスのマーガレット・サッチャー首相は、男性の政治家に比べてインタビューの際に発言を遮られることが目立って多かった。・・・・・・2016年のアメリカ大統領選挙における候補者討論会では、トランプがヒラリー・クリントンの発言を一方的に遮り続けた。」

さらに、最近の研究によると、「マンタラプションは一部の男性によって集中的に行われているらしい。そのような行為に及ぶ男性は、とりわけ「男らしさ」へのこだわりが強いのであろう」とも補足しています。

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5. トランプさんの場合は相手が男だろうが女だろうが、発言を遮るタイプでしょう。

対してペンスさんは、もう少し紳士的な人かと思っていましたが、やはり「マンタラプション」に度々及んだのは、相手が黒人&アジア系の女性であることも影響したのだろうか。

 それにしてもハリスさんの対応は見事でした。少数民族出身の女性議員としてこういう妨害行為には何度も見舞われているからかもしれない、というメディアの意見もありました。

 対してバイデンさんの場合は、男性で白人で若くから国会議員で、発言を遮られたことなど経験したことがないので、つい感情的になってしまったのかもしれない・・・・

 そんなことを考えると、面白かったです。