ニュージーランド総選挙、ジャシンダ・アーダーン首相の「地滑り的」大勝利

1.先週は、友人に誘われた「源氏物語」の連続講義が再開されたので出席し、二人で昼食もともにしました。久しぶりの再会で話も弾みました。お孫さんが、ニュージーランド(以下NZ)に留学していることが話題になりました.

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 慶応から交換留学生の制度で留学中、田舎の大学町で英語の勉強にもなり、快適に過ごしているそうです。

  NZはコロナを抑え込むことに成功した国のモデルとして高く評価されている。100万人あたりの死者は5人で、これは「先進国クラブ」と呼ばれるOECD加盟37ヵ国の中でも群を抜いてトップです。

 早期の的確なロックダウンが成功して、いまでは大学も全て対面授業で、国内の移動も自由で、学生との交流や観光も大いに楽しんでいるとのこと。

 12月に帰国の予定だが、慶応に戻っても当分はオンラインの授業なので魅力ない、ワーキング・ホリディのヴィザを取って、半年ぐらい滞在を延長できないか考えているとの話でした。このヴィザだと学びながら働くことも出来ます。

 彼女はまことにラッキーで、同国がロックダウンする直前に入国、その後すぐに海外からの入国が禁止となり滑り込みセーフ。おまけに、今は世界でもっとも安心で快適な国で暮らしています。当初はアメリカの大学も考えていたようですが、「結果的に本当にラッキーな選択だったね」と話しました。 

 

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2.ニュージーランドは昔、シドニー勤務時代の担当区域であり、駐在員事務所もあり、進出日本企業や地元企業との取引もあり、頻繁に出張しました。

 「今、選挙直前だね」

 「孫娘が、アーダーン首相が大学にも選挙運動に来た、一緒に写真を撮った、と言ってきたよ」。

 写真を見ると、誰もマスクはしていません。「密」そのものです。

 「孫娘が首相に向かって“I love you.”と言ったら、”Thank you.”と答えてくれた」そうで、これには「俺も会う機会があったら、同じ言葉をかけたかもしれないね」と、笑ってしまいました。

 

3.NZは昨日の17日(土)に3年ぶりの国政選挙を迎えました。

 2017年に首相になった1980年生まれのジャシンダ・アーダーン首相も40歳、2期目の就任なるかの選挙でしたが、今朝のメディアは「コロナ選挙」で大勝利と報じています。

 事前の予想では彼女自身の勝利は間違いなく、注目点は、彼女の率いる労働党がトップになり(前回は2位)、さらには過半数をとるまで票が伸びるかでした。同国は1996年に選挙制度を改革し、小選挙区比例代表併用制になった。以来、票は各党に割れて、小政党に当選のチャンスが出てきて、以来連立が普通、まだどの党も過半数は獲得していない。

 2017年も第1党は中道右派の国民党だったが、過半数に達せず、労働党が右寄りのNZファースト党と連立を組むことで政権を獲得した。今回労働党過半数を取ったようで、新しい選挙制度で初めてのこと、たいへんな出来事です。

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4.選挙直前には、メディアに様々な記事が載りました。英エコノミスト誌は「ジャシンダレラ」(彼女の名前ジャシンダとシンデレラとを組み合わせた造語)と題し、アメリカCNNは、「小さな田舎町の持ち帰り弁当店で働いたこともある女性が、ニュージーランド、そして世界を味方にした」と題する記事を載せました。

以下のように、確かにシンデレラ物語です。

  • 人口8千人の、ミルク生産で知られ酪農労働者が多く、国民党が地盤の保守的な小さな街で育ち、高校時代から正義感と弁舌にすぐれ、成績優秀だった。
  • 首都ウェリントンの大学を出て、労働党のオフィスに勤務、認められて選挙に出馬するが国民党が強い郷里の選挙区で落選を続けて、比例制のお陰で復活。
  • ところが2007年党勢が振るわない責任を取ってベテラン労働党首が突然辞任し、新鮮さを期待されてジャシンダが注目され、思いもかけず後任に選出される。
  • その年、総選挙が行われて、前述の通り第2党だったにも拘わらず、連立に成功して、37歳で首相に就任する。

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5.幸運ではあるものの、政策の異なる政党との連立政権という厳しい船出をしたアーダーン首相ですが、その後、さまざまな危機にあたっての、とくに昨年3月のモスクを狙って51人を殺害した卑劣・残酷なテロと、今年に入ってのコロナ対策での「強い、しかも思いやりに溢れたリーダーシップ」が高く評価されて、人気急上昇かつ世界的にも注目されるようになりました。支持者からは「国の救世主」とまで言われています。「彼女のあふれるばかりの「共感力(empathy)」はまさに本物であり、危機に際して発揮され、おそらく世界のリーダーの誰よりもそれを伝えることが出来た」とも言われます。

 CNNは、郷里での人物評も紹介しています。--「ジャシンダはいつまでたっても、ただのジャシンダ、公私ともに同じ人間だよ。いまも質素な暮らしをし、飾らない人柄、どこにでもいる普通の隣人のような女性だ」。そして、「親切と誰もの幸せを願う彼女のリーダーシップのスタイルは、生まれ育った「小さな田舎町の暖かさ」をいつまでも身につけていることから来るんだ」とも。

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6. もちろん厳しい批判もあります。連立相手が中道右派なこともあって、当初の選挙公約―「より公正でより良きニュージーランド」を謳い、ホームレスを無くし、子供の貧困を改善し、低家賃の住宅を供給する、と公約した―はほとんど果たされていない。とくに、先住民マオリの子ども達の貧困問題は深刻である。

 BBC(英国放送)は「アーダーンが掲げる「親切な」ニュージーランドから取り残された人たち」と題する記事の中で、貧しいマオリの人たちの現状と不満とを伝え、「親切を語るのはもうやめにして、行為で示してほしい」という彼らの声を紹介しています。

 その意味でも、右派との連立が必要なくなった2期目に真価が問われるでしょう。

 

7.それにしても、人口5百万人の小さな国の女性リーダーがこれだけ世界に注目され,タイム誌やヴォーグ誌の表紙を飾ったのは特筆すべき出来事です。

とにかく話題性の多いひとです。首相就任後2か月で妊娠を発表し、6月に出産後産休をとり、おまけに秋の最初の国連総会に、その赤ちゃんを連れて話題になりました。もちろん首相の子連れ国連出席は初めてのことです。

その際、一緒に行ったパートナーが、「国連で、日本の代表団が彼女を表敬訪問したとき、ちょうどおむつを取り替えていたんだ。そのときの彼らの何とも驚いた表情を写真に撮っておきたかったよ」とツイッターに書いて、これまた話題になりました。