「サンタクロースは新型コロナウィルスの免疫を持っているから、心配しないで!」

  1. 年末年始はステイホームの人が多いでしょうね。

 私の場合も、会食をともなう忘年会・新年会はほぼ全てキャンセルになりました。

 自身のこともありますが、病院での医者や看護師のご苦労をTVのニュースで見ていると、高齢者は少しでも迷惑を掛けてはいけないという気持になります。

 ということで、外に出るのは、家人との散歩ぐらいです。あとは年末に墓参の予定です。コロナの前にとっくに逝ってしまった死者たちを想います。

 毎年この時期はロンドンから娘が孫を連れてやってきていたのですが、それもお休みで代わりにLINEで顔を見ています。

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  1. 散歩といえば、代々木上原駅から世田谷代田までの小田急線が地下に埋められて数年たちました。お陰で我が家の近くの踏切の混雑は解消されました。

 この線路跡地(地下は電車が走る)の整備が少しずつ進んで、心地良い散歩道になりつつあります。

 週末には、人出も多く、カフェなどもあり、近くにある東京農大が「オープンカレッジ」と名付けて大学で作った野菜を売ったりしています。

 二人で珈琲も飲み、無駄話をします。この時期、話し相手がいるのは有難いです。

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 中高時代の仲間のメールチャットで老人をテーマにした川柳を披露してくれたので、家人にも見せました。彼女も喜んで、早速友人にあちこち送っています。

こういう川柳は作者名が表示されないので、庶民の作なのでしょうが、著作権の心配もなく多くの人が喜んで共有しているでしょう。例えば、

 

―「♦︎  日帰りで 行って見たいな 天国へ

♦︎  三時間 待って病名『加齢』です

♦︎  目覚ましの ベルはまだかと 起きて待つ

♦︎  起きたけど 寝るまで特に 用もなし

♦  留守電に『ゆっくりしゃべれ』と どなる父

♦︎  立ち上がり 用事忘れて また座る

♦︎  景色より トイレが気になる 観光地

♦︎  良い医者を 待合室で 教えられ」――などなど。

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3.こういう時期にはせめてユーモアが大事だなと思っていたら、数日前のNHK国際ニュースが、「“サンタクロークも今年はステイホームなの?”という子ども達の疑問に対して、WHO(世界保健機関)が記者会見で回答に応じた」と報道していました。ご覧になった方も多いかもしれません。

https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/news/20201215_19/

――「新型コロナウイルスの感染拡大で、ことしのクリスマスを心配する子どもたちのために、WHO=世界保健機関の専門家が、ウイットに富んだメッセージを出しました。「サンタクロースは新型コロナウイルスの免疫を持っていて、プレゼントを配るために世界中を移動できる」としたうえで、感染対策をとってクリスマスを過ごすよう、子どもたちに呼びかけました。」

――こう語ったドクター・バンケルコフ(Maria Van Kerkhove)はアメリカ人ですが、ロンドン大学で感染学の博士を取得している専門家で、お子さんが2人いるそうです。「サンタクロースは高齢ですから皆さんが心配するのはわかります。でも私たちは彼と少し話をしました。とても元気です」とも語りました。f:id:ksen:20141210181502j:plain

  1. NHKはウィットと言いましたが、夏目漱石に言わせればこれこそまさにユーモアでしょう。漱石は「文学評論」の中で以下のように論じます。

「ユーモアとは人格の根底から生じるおかしみである。ユーモアのある人の行為は、他から見るとおかしいが、当人自身では他からおかしがられる訳がないと思っている。彼は真面目である。

そして、「これに反して、もし人を笑わせるという結果を予期しておかしみを演じるならば(略)その行為言動は故意である。(略)私の解釈によるとこれがウィットである」。

 

  1. 「本人は真面目だけどはたからみるとおかしい、それがユーモアだ」という漱石の理解を読んで、私が思い出すのは以下の小噺です。

――男が医者の診察室に入ってきた。

「おや、随分久しぶりじゃないですか」と医者が声をかけると、彼は「いやあ、実は暫く病気をしていましてね」と真面目な顔で答えた。――

この例は、イギリス人の国民性を紹介した小冊子で「代表的なイギリス人のユーモア」として紹介しているものです。そして、「イギリスでは、勉強するかどうかは任意だが、ユーモアのセンスを身につけることは必須である」と付け加えます。

 

  1. 漱石はまた、「談話」という文章の中で、ユーモアに相当する日本語に「こっけい」という言葉を使い、「深い同情がなければならぬ。(略)笑いのうちにも深い同情を有するのが上乗の作だろうと思う」とも述べています。

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 WHOのドクター・バンケルコフの発言はまさに「英国流のユーモア」あるいは漱石の言う「こっけい」と呼べる受け答えではないでしょうか。

 彼女はおそらく子供たちと同じ気持ちになってサンタクロースを待っている、その思い が伝わってきます。

「人を笑わせる」なんて意図がないことは終始生真面目な表情からよくわかるし、そこをおかしいと思うのは、彼女の語りから感じられる暖かさへの拍手ではないでしょうか。聞いていて、「(ユーモアの)上乗の作」と漱石が定義する「深い同情」を感じます。

 博士は答えながら、コロナ禍の中でひもじい思いや寂しい思いや難民キャンプで苦しんでいる子供たちにも、それぞれの「サンタクロース」が訪れてほしい、心からそう願っているのだろうと思いました。