「20歳になったウィキペディア」と「カニンガムの法則」

1. 2月に入り、カレンダーを1枚めくりました。

今年の東京の梅は少し遅く、朝散歩する駒場の日本民芸館もちらほらです。

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2.前回のブログで京都のボランティア団体「ミンナソラノシタ」の新しいプロジェクトを紹介しました。Masuiさんから、「藤野さんの文章を読み、ホームページを見て感動した」というコメントとともに、寄付をして下さいました。心から感謝致します。

このコロナ禍で、あしなが育英会など困っている団体は多い。「貧者の一灯」を寄付する人や1人あたりの件数は増えているでしょう。限られた予算の中で、どこを応援しようか悩む年金生活者も多い筈です。そのような中で、Masuiさんのお気持ちは嬉しいです。

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3.日本でも「寄付の文化」が根付いているのだと思い、今回はウィキペディアについて報告させて頂きます。

「専門家でなくても誰でも書きこめ、無料で利用できる、万人の万人のためのオンライン百科事典」です。会費も広告も取らず、運営費は寄付に頼る。執筆や編集に報酬はなく、それぞれが自発的に参加する。

 寄付については、ご存知の方も多いでしょうが、利用しているとサイトにときどき「依頼」の文言が入ります。

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  1. 最初は個人的プロジェクトとして2001年に開始され、その後非営利団体であるウィキペディア財団(本部はサンフランシスコ)の運営にうつり、今年の1月15日に20周年を迎えました。

 英エコノミスト誌1月9日号は、「科学技術の「別の」巨人、20歳を迎えたウィキペディア(以下「ウィキ」)は今や高い評価を受けている」と題する記事を「国際欄」に載せました。

 以下に簡単に記事を紹介します。

(1) 20年経って、月に世界で200億件以上の閲覧を誇る、最大の、もっとも参照される標準の参考書となった。

(2)300近い言語で、55百万件以上の項目を提供しており、すべてボランティアの仕事である。英語版だけで620万項目、これは、印刷すると2800冊にも相当する分量である(因みに日本語は約120万)。

(3) スタート当初は、「アマチュアの作成する辞典」と見下され、「専門家が執筆する、権威あるブリタニカ百科事典(1768年創刊)」に比べて、評価はきわめて低かった。

しかし、2005年に高名な化学雑誌「ネイチャー」は、「英語版のウィキはブリタニカと比較して、間違いの数で変わらない」という調査結果を発表した。

 

(4) いまや、アマゾンやグーグルなどが公式に利用し、WHO(世界保健機構)はウィキと協力してインフォデミック退治に取り組んでいる(注―インフォデミックとはWHOの造語で、コロナについての不正確あるいは誤った情報が急速に拡散し、社会に影響を及ぼすこと)。

 彼らがウィキを頼りにする一つの理由に、その「中立性」がある。一方でフェイクニュースが世に溢れ、他方で情報の検閲が拡がっているいまだからこそ、評価が高まっている。 例えば、中国の「天安門事件」について、中国国内のネット辞典には情報はないが、ウィキは中国語版も英語版も長大な記事を掲載している。

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5.とした上で、同じITを活用した組織だが、「GAFA(グーグル・アマゾン・フェイスブック・アップル)」との違いは、収益志向でないボランティア団体である、そこからウィキの特徴である「中立性」が生まれるとして以下補足します。即ち、

  • 株主がいない 
  • 億万長者を生み出さない
  • 広告を一切しない
  • 20世紀末のインターネット文化を特徴づける、技術への楽観主義
  • その上で、「知識が世界を良くすると信じている」執筆者と編集者の無償の情熱から成り立っている。

 エコノミスト誌が「「別の」科学技術の巨人(The other tech giant)」と呼ぶ所以です。

 

6.そして同誌は、ウィキを支えているのは、利用者と応援団であり、「その成功の多くは、利用者が作り出した文化である」。

「いちばん重要なのは、記載に間違いがあれば、誰かがそれを指摘し、訂正する」、このことが質向上の鍵としてきわめて重要であり、まさに「カニンガムの法則」である」。

初めて聞いた言葉だったので早速、ウィキを参照しました。

――「インターネット上で正しい答えを得る最良の方法は質問することではなく、間違った答えを書くことである」という法則である。

スティーブン・マクギーディが提唱し、法則の名前はウィキの発明者であるウォード・カニンガムから取った。スティーブンによると、ウィキペディアはこの法則の一番有名な例である。―――

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7. 以上、エコノミスト誌にしては辛口や皮肉なトーンがなく、素直に評価している文章です。

 同誌の、「ウィキは風変りな存在(oddity)であり、シリコンバレー特有の成功の処方箋を逸脱している」という評価は、ウィキの文化は、資本主義を変える力を持っているのではないかということかもしれないと思いました。

 そして、友人の廣田尚久さんが昨年8月河出書房新社から出した『ポスト・コロナ』を思い出しました。

 同書はブログで紹介しましたが、副題でもある「資本主義から共存主義へという未来」を提言しています。

 https://ksen.hatenablog.com/entry/2020/10/04/074713