国際文化会館の「次世代リーダー」ウェビナーで聞く、オードリー・タン大臣の話

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  1. ネットを通じて繋がる社会がどんどん広がっています。前回紹介した、20歳を迎えたウィキペディアはその良い面を代表しているでしょう。他方で、誹謗中傷やフェイクニュースや炎上の弊害も大きい。両者善悪のせめぎ合いが、これからも続けられるでしょう。

 とくに、このコロナ禍でのステイ・ホームがネット社会化を加速させています。

「ウェビナー」と言う新語が出来ました。ウェブとセミナーを組み合わせた造語で、ズームなどのツールを使って、インターネット上で行われるセミナーです。

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  1. (1)国際文化会館も最近、オンラインで盛んに発信しています。

以前は会員向けの講演会は六本木の会館内で開催されていたのが、最近はウェビナーが主体になりました。

 良い点は、わざわざバスや電車に乗って都心まで出かける必要がなく、従来なら物理的に日本に来た人でないと講演してもらえなかったが、世界中誰とでもネットで繋がることです。

 

(2) 今年1月からは、「インド太平洋次世代リーダーによるウェビナーシリーズ」が始まりました。

私がいままで視聴したのは以下の3回です。

・第1回(1月15日)は、「オードリー・タン氏(台湾デジタル担当政務委員)に訊く」。

・第2回(1月22日)は、「コロナ禍での教育実践や女子教育について」。マララ・ユスフザイ氏(2014年ノーベル平和賞受賞)など登場。

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・第5回(2月12日)は、ジャーナリストの伊藤詩織さんが「アジアにおける#MeToo―性暴力に共に立ち向かうには」と題して。

何れも「会場はオンライン」とあります。

 

(3) 当日は進行役のNHK道傳愛子さんがスピーカーと対話形式で進めるやり方で、当人たちはすべて英語ですが、日本語の同時通訳が付きます。

道傳さんは、質問も的確で、上手にスピーカーの話を引きだします。3回を通して彼女が何度も口にしたのは、「多様性(diversity)と包摂(inclusion)」という言葉で、セミナーを通して、次世代リーダーを象徴するキーワードにしたいという彼女の狙いを感じました。

 

  1. ここでは第1回のオードーリー・タン氏を取り上げます。

台湾はコロナ対策で世界から注目されています。ロックダウンも緊急事態宣言もなく、民主主義を守りつつ、コロナを抑え込んでいます。「台湾モデル」の成功は、デジタル化と市民参画にあると言われますが、タン氏はその社会改革の中心人物です。

1981年生まれ。小中学校で不登校を経験、高校に進学せず、IT業界を経て35歳の2016年、蔡英文総統が民間から閣僚に抜擢。トランスジェンダーを公表しています。IQ(知能指数)は測定限界を超えた「天才」だそうです。

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  1. 以下は印象に残ったことのみです。

(1)「噂よりユーモア(humor over rumor)」という言葉を2回使いました。噂よりユーモアのアプローチの方が価値があり、早く広まる。だから、コロナ対策にはユーモアが欠かせないと強調しました。

 

(2)母親の影響――台湾の人口は23百万人だが20以上の言語が使用されている。社会活動家だった母は、「それぞれの文化がユニークな価値を持っている」といつも語ってくれた。

 

(3)行政だけではダメ。市民の参加と信頼が必要。そのためには「18歳以上じゃないと資格がない」などと言ってはダメ。15歳でも16歳でも良い意見を出す人がいる。台湾では、若い人と、70歳から80歳代の人がいちばん活発である。

既存の価値や考えは尊重すべきだが、他方で若者が提案し、意見を言う、それを受け入れる「多様性と包摂」がとても大切。そしてそこでも、ユーモアが大事。

 

(4)私が、コロナ対策にも未来にも楽観的なのは、デジタル技術を通したコラボレーション(協働)の可能性を信じているからである。デジタルとは、「1と2、男と女」ではなく、「複数(plural)」ということ。複数の「包摂(inclusion)」が鍵になる。

 

(5)「すべての岩にはひびがある、ひびがあるから光りがあたる」という言葉を大事にしている。完璧であることは諦めろという意味だ。私自身かっては完璧主義者だった。しかしこの言葉を知って変わった。

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(6)民主主義は、やり方は1つではないという考えに立っている。多様性を大事にし、賛成も反対もいろんな意見を出し、知識とアイディアを共有し、大枠のコンセンサスをつくることが大切と思う。

 

(7) 「コロナは人類に対する警鐘ではないか?」という問いに対して、「皆が共同の問題に直面し、結束して力を出し合う重要性に気づいたのではないか。そうなれば、例えば気候変動だって対処できるのではないか」。

そして、

(8)「こんなたいへんな時期に、どうしてそんなに楽観的で、落ち着いていられるのですか?」という質問には、「たしかに忙しいです。しかし、毎日8時間は寝ることです。それだけです。PCやスマホは家に持ち込まないし、タッチ・スクリーンにとらわれている人間ではありません。早く寝て、朝起きたときに考えがすっきりまとまっていることを実感します」と答えていました。

天才と言われるオードリー・タン氏は、年中PCやスマホに向かっているネット・オタクではないかと思っていたので、面白く聞きました。