今年の2月は、人に会うための外出はたった2回

  1. 先週の東京は、三寒四温でした。ちっぽけな庭に沈丁花の花が香ります。妻の姪の小学生のお子さんが、親切に小鳥のエサ台を作ってくれました。お陰で、居心地がよいのか目白が次々にやってきます。

 2月中に、人に会うために外出したのはたった2回でした。昨年・一昨年は2日に1回以上でした。変われば変わるものです。

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2. 2回の外出のうち1回は、病院行きです。

 ここ5年程、さる大病院の「倫理委員会」の外部委員になっていて、年に数回会合があり、これに出席したものです。少し補足すると、

 

(1)病院では、医療行為に関して、様々な倫理的な課題が生じたり、生じる可能性が高い課題がありえます。そのため、これらを検討する諮問委員会が設けられます。

 

(2)委員会は、病院の臨床倫理の方針、ガイドライン等の作成・提言を行ったり、現場における倫理問題についての個別事例にどう対応するかも諮問され、話合います。遺伝子診断、胎児出生前診断、臓器移植、終末期医療、難病手術の妥当性などです。

 

(3)ことが倫理の問題なので、専門家に加えて、「外部の有識者で、医学を専門としない

者」を外部委員として1名以上入れることになっています。

 

(4)ということで、諮問を要する事態が起きると、適宜召集がかかり、20人ほどの医者や看護師にまじって参加し、合議で結論を出します。

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3.「委員」には守秘義務があり、個別の事例について話すことはできません。

以下、一般的な感想に限ります。

(1)病と死の話ですから辛い気持ちで聞きます。私自身、いつ何が起こってもおかしくない年齢ですから、余計です。しかし、たいへん勉強になります。

私はいつも、「素人で申し訳ありませんが」と前置きして、無知をさらけ出した質問をするのですが、担当のお医者さんは、嫌な顔をせずいつも親切に説明してくれます。

そしてその度に感じるのは、医者の仕事はたいへんだなあという当たり前の思いです。

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(2)例えば、ある難病患者に特殊な手術をするかどうかが諮問されました。

まだ日本では実施例がないが、海外では事例がある(委員会には、その事例報告の英語の論文まで資料として提出されました)。

 

例の少ない難病であるだけに、本病院の担当医は、手術すべきとの結論にいたるまでにいろいろ手を尽くします。

この事例では、4つの他の病院に属する専門医7人が相談にのりました。オンラインで5回、情報を共有し意見交換を行いました。

その度に議事碌を残します。それが委員会に提供されます。専門的なことは分かりませんが、皆が患者の命を何とか救いたいという思いに立って、自分の全ての知見を出して話しあう、そういう真摯な姿勢が伝わってきて、感動します。

 

誰もがこういうお医者さんばかりではないかもしれない。しかし私が見た限りでは彼らの熱意と努力が伝わってきます。忙しい最中にきちんと議事録を残して、それぞれがどういう発言やアドバイスをしているかもわかります。

政治家や官僚が記録をまともに残さないことが一時、モリカケ問題で話題になりました。1人の難病患者の命を扱うときは、他の医者のアドバイスも貰い、相談された医者も親身になって協力し、そして記録を残すことにも時間をかけるのだと頭が下がりました。

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5.最後にこれも一般論ですが、臓器移植についてです。

 

(1) 皆さんは、運転免許証の裏側に臓器移植に関する意思表示の注意書きがあることをご存知でしょうか?

 3つの選択肢があって、応諾する場合は、1に丸印を付けます。その意思がない場合は、3の「私は、臓器を提供しません」に丸をつけます。

私は、55年以上も運転していて、委員会で話題になるまで、この注意書きに全く気づかず、読んだことがありませんでした。妻に訊いたところ彼女も知りませんでした。

 

(2)病院側の説明によると私だけではなくて、印をつける人はごく少数のようです。

そしてそもそも、日本では臓器移植をする人が少ないと説明がありました。

病院としては何とか提供してくれる人の数を増やしたい。そのためには病院としてどういうことが出来るだろうか?というのがこの日の議題でした。

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(3) それまで私もまったく知識も関心もなかったのですが、たまたま1年ほど前の東京新聞に、ある学校の理事長が「不思議な日本の医療」と題するコラムを書いていました。そこから引用すると以下の通りです。

―-「・・・臓器提供者(ドナー)の数で欧米諸国では人口百万人当たりで年間20~35人なのに対して、日本では2018年のドナー数は百万人当たり0.76人にすぎない。

・・・命の危険を感じながら臓器移植を待つ患者さんにとって、日本はつらい国であることに違いありません」

 

(4)上記の某理事長の記述を読むと、病院側の何とかドナーが増えてほしいという気持ちがよく分かります。

そこで、「恥ずかしながら今迄、運転免許証の注意書きに気づきませんでした。早速、提供に賛同する丸を付けます」と発言したところ、「有難い申し出ですが、70歳以上の方の提供は役に立たないのです」と丁寧に説明して頂きました。

他者に役立つことが殆どなくなった年齢であることを痛感しました。