エコノミスト誌がとり上げる台湾問題

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  1. 今回は、国際面の大きな関心事を取り上げます。

 バイデン政権下、米中対立が新しい局面に入ったと言われます。中国に対決する明確な姿勢を示し、その中の一つに「台湾問題」があります。アメリカの主導により、4月16日の日米首脳会談後に続いて5月5日ロンドンで開かれたG7外相会議の共同声明でも、「台湾海峡の平和と安定の重要性」が強調されました。

 

  1. 台湾問題について種々の報道がなされている中で、英国エコノミスト誌5月1日号は、「地球上でいまもっとも危険な場所」と題して、2つの記事(論説と解説)を載せました。

 しかし、副題は「台湾の将来については、米中の戦争回避の努力が不可欠である」とあり、何とかして両国の衝突を避けたいとする願いを表明しています。

 そのためには、「過去70年続いた“あいまい戦略”を続けるしかない。戦争でしか解決できない対立は先送りできることが多い」として、「かつて鄧小平が述べたように、より賢い次の世代に任せるべきだ」と提言しています。

f:id:ksen:20210501211650j:plain3. ここで言う「あいまい戦略」とは、

(1)中国はあくまで「中国は一つ」であり台湾は抵抗勢力に過ぎないとの立場を守る(しかし力で制圧することまではしない)。

(2)アメリカは「一つの中国」に同意しつつも、実際には「二つの中国」があるかのように振る舞う。

(3)両国は長年、こういった「高度な曖昧さ(high-calibre ambiguity)」を巧みに使って平和を維持してきた。

 エコノミスト誌は、きざな引用が好きで、ここでは『グレート・ギャツビー』で有名なアメリカの小説家F.スコット・フィッジェラルドの言葉を紹介します。

――「第一級の知性かどうかは、二つの相対立する考えを同時に抱えつつ、しかも知性を働かせることが出来るか否かにかかっている」。

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4.その「あいまい戦略」が今や変化し、崩れようとしている、というのがエコノミスト誌の見立てです。

(1)背景としては、中国に対する、以下のような米国の見方の変化がある。

中国は、権威主義的・国家主義的な色彩を強め、軍事力の強化にも努めてきた。

台湾海峡での中国の軍事力は臨界点を超えて、台湾を武力で手に入れる行動を抑止できないのではないか。

 

(2) すぐに軍事介入がないとしても、中国は様々な「アメとムチ」を使って台湾を親中国にすべく行動するだろう。香港の制圧で自信を深めた同国は、台湾の経済・社会不安と分断を促す様々な戦略、サイバー攻撃などを駆使してくるだろう。

(3)しかも、習近平国家主席の心中が分からない。自らの在任中に「台湾統一」を成し遂げ、歴史に名を残したいという野心がどこまで強烈か、そのための具体的な行動に対する決意はどこまで強く、またいつまで待つつもりか?

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5.しかし戦争は避けなければならない、と同誌は訴えます。

(1)戦争そのものの悲惨さは言うまでもないが、世界的な経済への打撃も甚大である。台湾は半導体産業の重要な拠点であり、先端チップで実に84%のシェアを占めている。

 

(2)台湾が米中衝突の舞台になるリスクが大きい。

 

(3)逆にアメリカが台湾を守ろうとしなければ、台湾の民主主義は死に、アメリカに対する世界的な信頼は揺るぎ、「パックス・アメリカーナ(米国による平和)」は崩壊する。

 

(4)だからこそ、「あいまい戦略で先送りするしかない」と同誌は言います。

そのためには、アメリカは実に難しいバランス戦略をとらなければならない。

一方で、曖昧さが「弱さの表れ」ととられないように、同盟国と協力して対中抑止力を高める。人権を含めて言うべきことは言い、台湾を守る姿勢は崩さない。

同時に、アメリカが危険な方向に方針変換したと中国が受けとるような行動――例えば、台湾独立の支持とか、軍艦の台湾への寄港など ――は控えるべきである。

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6.こういうエコノミスト誌の主張は、いささか迫力に欠ける印象は否めません。

決して、勇ましくはない。しかも中国がどう出るかわからないので、成功するかどうかは分からない。中国は単に時間稼ぎと受け取るかもしれない。

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―――いろいろ考えると、まことに難しい問題に直面していると言わざるを得ません。

日本を含めた民主主義国は、「(台湾における)自由と民主主義を守る」という基本的な姿勢を鮮明にして、そのメッセージがどれだけ中国を動かすか?に賭けるしかないような気もします。

台湾の将来は日本にとって重大な問題です。そして「そんな生ぬるいやり方では、有事を防げない」と思う人も少なくないかもしれません。

他方で、「台湾の将来なんて関心ない、香港だって救えなかったじゃないか」とクールに考える人も世界には多いかもしれない。

 「地上でもっとも危険な場所」と呼ばれて住む人たち自身は,何を考え、どう行動しようとしているのでしょうか?個人的には「頑張ってくれ」としか言えないのですが・・・