- 長野県茅野市の田舎家で過ごしています。雨がよく降り、山奥は静かです。りすがやってきます。里まで下りると、田の稲が少しずつ育っています。
- 古い家なので、修理がいろいろ出てきます。
(1) 先週はとうとう雨漏りがしました。あわてて,妻が地元の工事屋さんに電話しました。
水回り工事が専門の小さな会社ですが、40年以上の付き合いで,家に関するすべてのトラブル処理の窓口になってくれます。
(2)責任者伊東さんは75歳ですがいつも元気で、今回も若い屋根屋さんに連絡して、2台の「軽」で飛んできてくれました。
若者は器用に屋根に上がってチェックしてくれ、ストーブの煙突の周りに漏れが出来たところを塞いでくれました。純朴な若者で、信州人らしい律儀さを感じます。
(3) 修理中は幸い雨が上がっていましたが、夕方からまた降り出し、夜もずっと降り続
きました。すぐに対応してくれたので本当に助かりました。
(4) 伊東さんは、「自分は屋根なんか危なくてとても登れない」と言いながら、最後まで彼の仕事を見守ってくれます。その間、いろいろ話もしてくれました。
・いまどき彼のような若者は珍しい。こういう仕事を継ぐ人間が、だんだん居なくなっている。会社勤めの方が楽だし、安定しているし、結婚相手も見つかりやすい。
・そもそも、「腕の良い職人」に対する需要が減って、後を継ごうにも仕事がない。将来はもっと不安。
・伊東さんの会社は、設備関係の工事・リフォームが専門なので、何とか仕事はあるが、大工や屋根屋や、まして畳屋や庭師などの需要はほとんどない。
・いま家は、大企業の規格品の建築が主体で、平均25年もてばよい、そこで建て替えるという発想が主流になって、家は「建てるのではなく、買うもの」と思う人が増えた。
――というような話でした。
(5)先週はたまたま洗面所の修理の仕事もあって、大工さんが来て一日仕事でやってく
れました。
この大工さんも伊東さん経由でお願いしていますが76歳の高齢、やはり一人仕事で、後を継ぐ人はいないそうです。
我が家のように50年近く住み続けている木造家屋は、とうぜんあちこち痛んできて修理の必要が出てきます。
妻が、戦前から母親が使っていた頑丈なシンガー・ミシンをいまも使っているという話を前に紹介しました。「頑丈に作り、時々修理しながら長持ちさせる」という思想がなくなっていけば、「腕のいい職人さん」も不必要になるでしょう。一つの文化が消えていくという思いがして、寂しく,心細く感じます。
- デスクワークの経験しか知らないせいもあって、手に職を持って独りで仕事を続ける人には、これが「独立自尊」の精神だと長年敬意を抱いています。
地元の寿司屋「なが田」にも行きましたが、ここの大将からも「独立自尊」の職人気質を感じます。
(1)店は自宅と同じ場所で従業員は家族だけのせいもあって、安価で提供してくれて、腕がいい。そして客に媚びない。他の客の話題をしない。その代わり、修業時代の躾や料理のコツや、社会の変化などについて含蓄のある話をしてくれます。もっとも親方からは、「仕事中にぺらぺら喋るな」と厳しく言われたそうです。
(2)客といえば、ここ蓼科は観光地ですから、夏には、名も顔もそこそこ知られた芸能
人が入ってくることもある。大将はそういう有名人にも、特別待遇をしない。他の客と同じに淡々と接する。
「そういう扱いと、周りの客も知らん顔をしている雰囲気を気に入ってくれる人も中にはいますが、だいたいはちやほやされる方が気分いいんでしょうか。その後あまり来て頂けません」と言って、それを気にする風もありません。
(3)23年前に独立して店を持ち、このコロナで苦労しているでしょう。五輪を含めて国
の対策に不満は大いにありそうですが、愚痴はこぼしません。
もともと無理して儲けようという商売っ気を感じさせない。「真面目にコツコツ」と言っています。
(4)コロナもあって、昨年以来のカウンターでの差し向かいです。
金曜日で、いつもなら賑やかに混んでいるのですが、この日は雨のせいもあるか、他に客はおらず、私たち二人だけの貸し切り状態でした。
お陰で2時間強、注文もあまりせずもっぱら喋るだけでしたが、大将は嫌な顔ひとつせず、老人のお喋りに付き合ってくれました。久しぶりに愉快な時間を過ごしました。