「風薫るワクチン接種の帰り道」と「句集KURIKO」

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1.掲題の俳句は、このブログに的確なコメントを頂く畏友Masuiさんの作です。勝手に載せてしまい、お許しください。

コロナ禍の中で、中高の同期生10人強がネット句会を始めました。毎月幹事が季題を出し、メンバーは自作を提出し、他のメンバーが評を書くそうで、すべてネット経由。幹事が最後に皆さんの句と評を参加者以外にもメールしてくれます。

6月の季題は「風薫る」で、この句には、「ほっとした気持ちを上手く季題に託している」という評が載りました。

私は句作どころか、俳句の知識も鑑賞眼もありません。しかし確かに、安心感が句から漂ってくるような気がします。

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2.ということで、素人が柄にもなく俳句の話です。

(1)下北沢にある隠れ家的な雰囲気のカフェに、時々ひとりで珈琲を飲みに訪れます。

ピアノと本が置いてあり、本は画集や写真集が多いですが、「KURIKO」と題した句集もありました。

作者は寺澤繰子といい、「くりこ」と読むのでしょう、自分の名前を本の題名に採用したようです。星野高士という俳人の主宰する句会に所属して、20年経って句集を出すまでになった。

(2)その星野氏の序文から、「俳句には“写生句”と“人事句“の別がある」ということを知りました。

 高濱虚子の曽孫である同氏の評は、「寺澤さんの句は人事句の典型で、面白い」「人事句といっても基本には写生が大切で、彼女にはそれがある」。

そして「虚子は、俳句は「花鳥諷詠」と言ったが、彼自身人事句も作っている。祖母星野立子(虚子の娘)は「情七写三」と言った」と解説したうえで、

「極めつけは、

―目標は月並みにしてかき氷―

このかき氷の句の季題はまったく動かない」と言います。

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3.寺澤さん自身が目指すのも、「上手下手より面白さ」。

句作を始めたのは、「バーが男の勉強机とすれば、句会は大人のメリーゴーラウンド」と言いつつ楽しさを教えてくれた兄のおかげである。

(1) 人事句とはどんなものか、彼女の作を紹介しましょう。

―「生きること母を追ふこと薺(なずな)粥」(この句は前のブログで紹介しました)

―「精神論ばかり言ふ父浅き春」(「浅き春」というから卒業近いか。私は6歳で父を失ったので、精神論でもいいから父の言うことを聞きたかった・・・・)

―「旧姓に戻りし人や秋袷(あわせ)」(和服の似合う芯の強い女性。離婚したと聞いた)

―「どこにでもありそうな顔煮大根」(私の老人顔も若い女性からみたら・・・・)

―「煮凝(にこごり)や正論といふ食へぬもの」「菊膾(きくなます)好きか嫌いかだけのこと」(煮凝も菊膾も、私は食べたことがない)

―「過日とはささやかな永遠(とわ)花水木」(この句は鎌倉の虚子立子記念館の句碑にあるらしい。過ぎ去った懐かしい日、それはささやかな永遠の時でもある)

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(2)ところで、「目標は月並みにしてかき氷、は作者の極め付きの句で、「かき氷」の季語は変えられない」と言われても、素人の私にはよくわかりません。

 しかし、「(他人からみれば月並みかもしれないが、自分には大切な・生きる)目標」に「かき氷」が唐突に提示されて結びつく、その組み合わせの意外性と面白味は感じます。

そういえばフェイスブックで、京都在住のOhteさんが、「暑い夏はこれに限る」と下鴨神社で食べた、立派なかき氷の写真(上)を載せていました。

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4.「組み合わせの妙」と言えば、俳句とは無関係ですが、犬と猫の二匹が仲良くしている写真を載せます。

 犬の「アニー」(人気ブロードウェイ・ミュージカルの主人公の女の子の名前です。大昔ニューヨークで観ました)は、散歩の途中いつも我が家の前を通ります。

猫の「たま」はすぐお近くの飼い猫です。

この二人、なぜか気が合うらしく、「たま」はいつもアニーが飼い主に連れられてやってくるのを待っています。そして二人で暫く顔を寄せて一緒に過ごします。ご近所の人気者です。

 「ワクチン接種と薫風」「目標とかき氷」「母と薺粥」「精神論の父と早春」「煮凝りと正論」「過日と花みずき」そして「アニーとたま」・・・・いずれも日本人の感性に訴える「組み合わせの魅力」があると思います、

 それに対して、「緊急事態(state of emergency)」と「オリンピック」の「組み合わせ」。これはあまりにも不条理・右往左往で、星野・寺澤両氏も「絶句」するだけではないでしょうか。