樋口恵子さん『老いの福袋』と「老兵は~ただ消え去るのみ」

1.前々回のブログで、終末期医療の病院と女性医師を紹介しました。医師は、南杏子筆名で『いのちの停車場』などベストセラー小説も書く人です。

 友人からコメントを頂きました。図書館で300人待ちと言われたので、購入して奥様と読み、感動した。「他人ごとではなくなりました」とあり、同感です。

「老い」の問題もまさに他人事ではありません。別の友人から勧められて、『老いの福袋、ころばぬ先の知恵88』(樋口恵子、中央公論新社)を読みました。

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2. 早速アマゾンで注文し、妻はすぐに読んでしまい、夕食時に感想を話してくれました。

著者は、NPO「高齢社会をよくする女性の会」理事長、89歳。「介護の社会化」を旗印にした介護保険制度が発足するにあたって尽力したそうです。

初版が5月に出て、購入した7月にすでに5版でした。

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3本書は、日本がいかに高齢社会であるかを再認識させてくれます。

(1)「高齢化率」(全人口に占める65歳以上の割合)

――2020年9月の日本は28.7%、うち女性は31.6%、世界でダントツのトップ。

(2位はイタリアの23.3%)。

(2)2025年には、国民の10人に3人が65歳以上5人に1人が75歳以上の老人になる。

➡「どこを見てもおじいさんおばあさんだらけになる」。

(3)女性と男性の割合を比べると

➡高齢者(65歳以上)で、女6:男4,85歳以上に絞ると女2:男1,100歳以上だと、なんと9:1。

日本は「ローバ(老婆)帝国」化している、独りになった女性の多くは男性より経済力がないので、貧困が大きな問題になる。

(4) 日本人の平均寿命は2020年で女性87.74歳,男性81.64歳、

1935年(私が生まれる4年前)だと、それぞれ約50歳と47歳だった。

➡「20歳からを大人の人生と仮定すれば、人生はゆうに「倍増」したことになる」と著者は言う。

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4.世界のトップを切って高齢化が進む日本は、未来社会をどう構築するかという難問を抱えています。

しかし本書はそこに焦点を当てるものではなく、誰もがいずれは迎える老いをどう過ごすか?「老いに対する免疫をつけるサプリメントのような本」だと言います。

以下順不同で、

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(1)著者自身も80歳ごろから、ヨタヨタ・ヘロヘロする「ヨタヘロ期」が始まった。それは、「老いるショック」としてやってくる。何をするにも時間がかかる、何もしなくても忙しい、トイレで失敗する、うつになりやすい・・・・など。

(2)高齢期に失なうものとして、「人」「健康」「お金」「家」の4つの覚悟をしておくこと。

大事なのは、「金持ち」より「人持ち」でハッピーになろう!

なるべく予定を入れる、「トモ食い」を実践する。

(3) 「ピンピンコロリは幻想」、そのためにもある程度の経済力は大事で、「老人は財布を抱け」。

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(4)無理はしないこと、例えば、片づけは拒否していい、「この年齢で片付けなんて、体力も気力も消耗する」。

(5)自分でできないことが増える、他人に助けてもらわざるを得ない、そのためには、しんどいときは無理しないで、「介護され上手」になること、ユーモアも大切。

(6)「ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)」が大事と言われる。しかし著者は「ワーク・ライフ・ケア・バランス」の三位一体の人間社会を目指すべきだという。「ケア(子育て・介護・障がいを持つ人のサポート)」を別建てにとらえること。

(7)そして、「人は何歳になっても変わることができる、老年よ、大志を抱け!」

という元気のよい言葉で本書は終わります。

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5.老いを過ごすための「ころばぬ先の88の知恵」を教えてくれるので、一種のハウツー本と言えるでしょう。我々夫婦は普段はこういう本は読まないので、なるほどと読みました。老いを自覚しつつ生きていくにはノウハウも大事だということが分かりました。

1点だけ嫌味を言わせていただくと、「老年も大志を抱け」「私にはまだまだ夢があります」と言われても、少し引いてしまいます。

高齢者や介護者の暮らしの向上のために貢献された努力と実績は高く評価しますが、89歳でまだNPOの理事長を続けているのはどうか、次世代にバトンを渡すことも社会の活性化のためには大事ではないかなと皮肉を言いたくなります。