今度は,『本当に君は総理大臣になれないのか』(小川淳也)

  1. 前回は小説『総理の夫』で、政権交代による女性首相がどのようにして実現するかを紹介しました。現実はなかなか、こうは行かないでしょうね。

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 と思っていたら、藤野さんから、小説の主人公相馬凛子と重なる現実の政治家を取り上げたドキュメンタリー映画「なぜ君は総理大臣になれないか」(2020年)を紹介して頂きました。

 たまたま、映画の主人公小川淳也衆議院議員を取材した『本当に君は総理大臣になれないのか』(講談社現代新書、2021年)を読んだばかりでした。

 

  1. 本書は6月刊行で、すでに3刷です。

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(1) 小川議員は50歳、香川県出身、東大法学部卒、自治省を経て2005年に初当選、現在立憲民主党所属。「2009年の衆議院予算委員会厚生労働省の統計不正問題を取り上げ、「統計王子」の異名をとる」。

 

(2)本書は、同氏の生い立ちや活動を紹介した部分と、彼がインタビューに答えて自らの政策(「国家改造抜本改革」)とそのための「タイムテーブル」を語る、2部構成になっています。

 

(3) 小川は1971年、「高松市ののどかな田園地帯に生まれた。自らを「パーマ屋の倅」と称するように、両親は市内で小さな美容室を経営している。

1948年生れの父は、「讃岐弁の「へんこつ」を絵に描いたような頑固者で、正義感が強く、曲がったことが大嫌い。ひとつ年下の母はいつも明るく温和な性格だった」。

 

(4) 30歳で自治省を退職。その直前、ロンドンに1年勤務したことも多少影響したかもしれない。「それまでの凝り固まった価値観が音を立てて崩れる気持ちだった」と彼は語る。

根本には仕事への不満があった。「俺たちは国家に奉仕する行政職であって自民党の下請けではないぞと何度も思いました」。

 

(5)本書では同氏を、「目先の党利党略には関心がない。他方、日本という国家の理想を熱っぽく語らせるととまらない」と評します。

中高大学が一緒の私の友人(弁護士)は、「真面目で一点の曇りもない男」というのが党内の評判だと教えてくれました。

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3.(1) 『総理の夫』は小説ですから、話の面白さが中心にならざるをえません。相馬首相の訴える政策は、「消費税増税脱原発」が紹介されるぐらいです。

 

(2) 他方で小川議員は自ら「日本を良くしたい政策オタク」と言い切る人物ですから、すでに2014年には『日本改革原案』と題する著書を出して、具体的・意欲的な「政策」と、それを実現するための「タイムテーブル」について熱心に語ります。

 

(3) 私が面白いと思ったのは、直ちにやりたいこととして、

党内の党議拘束を解除する

国民とともに政権公約を作成する

政権与党の事前審査制を廃止する

といった具体策をあげていることです。

 

(4) この中で、とくに「事前審査制」を廃止したいとして、同氏はこう語ります。

――「日本の政治における独特な慣行で、内閣が国会に提出する法案は、事前に自民党の中にある総務会や政務調査会などの「審査」を経て、そこで了承されたものだけが国会に提出されるという暗黙のルールです。

 法律はないので、慣行にすぎません。

しかしそのせいで、国会で提出された法案を与党と野党が議論しあうという実質的な審議がまったく骨抜きにされてしまっています。

 野党議員には案件・議案に指一本触れさせないといういまのこの仕組みを転換し、国会を実質化させる必要があります。・・・・」

➡ こういうところにメスを入れるという発想が大事だな、と読みながら思いました。

言うまでもなく、国会は「国権の最高機関」です。(日本国憲法第41条)

 

(5)こういう本や映画が話題になり、人物への有権者の関心が高まるとすればとてもよいことではないかと、個人的には思いました。

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